建造物は自然光を最大限に活用することで消費エネルギーを節約できますが、透明なガラスで壁を覆うと中が丸見えでプライバシーが失われる点や、日中は太陽光で暑くなりすぎるといった問題があります。新たにドイツのカールスルーエ工科大学の研究チームが、「すりガラスのように不透明なのにガラスより多くの光を取り込み、部屋を冷却する効果まで持つ新素材」を開発しました。

Radiative cooling and indoor light management enabled by a transparent and self-cleaning polymer-based metamaterial | Nature Communications

https://www.nature.com/articles/s41467-024-48150-2



KIT - KIT - Media - Press Releases - PI 2024 - Innovative Material for Sustainable Building

https://www.kit.edu/kit/english/pi_2024_037_innovative-material-for-sustainable-building.php

New material looks like frosted glass but lets in more light than a window | Popular Science

https://www.popsci.com/technology/glass-coating-privacy/

ガラスは世界で最も一般的な建築材料のひとつであり、光の透過率が高いため外の光を屋内に取り入れられるという利点があります。そのため、自然光を効果的に利用したい建造物では窓のガラス面が大きく取られていたり、天窓があったり、壁一面が窓になっていたりします。しかし、夏場は日光を取り入れると室内が暑くなりすぎてしまうことがあるほか、透明なガラスで壁を覆うと中が丸見えになってしまうというプライバシー上の問題もあります。

カールスルーエ工科大学の研究チームはこうしたガラスの問題点を解決するため、さまざまな特性を兼ね備えた新たなポリマーベースのメタマテリアルを開発しました。研究チームが「Polymer-based Micro-Photonic Multi-Functional Metamaterial(ポリマーベースのマイクロフォトニック多機能メタマテリアル:PMMM)」と呼ぶ新素材は、ミクロスケールのシリコン製ピラミッドを並べた構造であり、正方形のピラミッドの大きさは髪の毛の直径の約10分の1にあたる約10マイクロメートルだとのこと。



通常のガラス(左)とPMMM(右)を並べた画像が以下。PMMMでは膨大な数のシリコン製マイクロピラミッドにより、透過する光の73%が即座に拡散されるため、素材の向こう側はすりガラスのように不透明です。しかし、光の透過率はガラスの91%に対してPMMMが95%であるため、「取り込む光の量はガラスより多いのに向こう側は見えない」という状態を実現します。



また、シリコン製マイクロピラミッドはPMMMフィルムに超疎水性を与え、水滴を玉のように浮かび上がらせることで表面の汚れを水滴と共に除去するとのこと。このセルフクリーニングメカニズムによって、素材のメンテナンス性が向上します。



さらに、マイクロピラミッドには熱を放射する効果もあるため、PMMMは電力を消費しないパッシブな放射冷却が可能だとのこと。研究チームがPMMMを屋内でテストしたところ、PMMMフィルムは周辺温度をセ氏6度も冷却することが確認されました。



論文の筆頭著者であるカールスルーエ工科大学のガン・フアン博士は、「この素材が屋根や壁に使用されれば、明るいのにまぶしくはなく、プライバシーが保護された仕事や生活のための屋内空間が実現します。温室では光合成の効率がガラス屋根の温室より9%高くなると推定されるため、高い光透過率によって収穫量が増加する可能性があります。この素材は屋内の太陽光利用を最適化すると同時に、パッシブ冷却を提供して空調への依存を減らすことができます。このソリューションには拡張性があり、環境に優しいビル建設や都市開発計画にシームレスに組み込むことが可能です」とコメントしました。