「皮膚むしり症」とは…

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 ついつい手や指の皮をむしってしまったり、髪の生え際などを引っかき、むしってしまう「皮膚むしり症」のことを知っていますか。自身が、このような行為をしていなくても、周囲の人が自身の皮膚をひっかいたり、むしってしまうといった行動を見かけたことがある人もいるかもしれません。そこで、どのような病気なのか、精神科専門医の田中伸一郎さんに解説してもらいました。

「皮膚むしり症」は比較的新しい病気

Q. 「皮膚むしり症」の人に特徴的な行動とはどのようなものでしょうか。

田中さん「具体的には、爪や先のとがった物などを用いて、自分の手足の指、足の裏、鼻と口のまわり、髪の生え際などの皮膚を引っ掻き、むしってしまうものを『皮膚むしり症』といいます。初めは皮膚の角化した所が気になって…ちょっとイライラを発散させるため…など、意識的に皮膚を引っ掻き、むしっていることが少なくありません。しかし、繰り返すうちに嗜癖(しへき)的になって、やめたくてもやめられない状態に至り、傷口から出血したり、細菌感染などしたり、して日常生活に支障が出るようになると、皮膚むしり症と診断されるでしょう。

ちなみに、皮膚むしり症は、『爪むしり症』や『抜毛症』と同じで、強迫症(強迫性障害)のグループに含まれる病気と考えられています」

Q.皮膚むしり症になる原因や、なりやすい人の傾向を教えてください。

田中さん「実は、皮膚むしり、抜毛などの行為自体は動物でも観察されていて、何らかのストレスがあるために出現するのではないかといわれています。
ヒトの場合、思春期を中心にさまざまな年齢層でみられ、男性より女性に多いとされています。また、やはり何らかのストレスが原因ではないかと考えられていますが、原因不明なことも多いように思います。

先述したように、皮膚むしり症は、強迫症(強迫性障害)のグループに含まれます。そのため、きちょうめんで完璧主義の性格傾向が極端な『強迫性パーソナリティ症(強迫性パーソナリティ障害)』と関連がある可能性があり、加えて、忙しくなりすぎたり、逆に暇になりすぎたりするなどの環境変化の影響によって発症することが指摘されていますが、現在のところ、確定的なことはわかっていません」

Q. 皮膚むしり症(自傷皮膚症)の治療とはどのようなものでしょうか。

田中さん「現在、アメリカ精神医学会に従って『皮膚むしり症は病気なので治療する』ということになっています。しかし、例えば、強迫症(強迫性障害)で使われる薬を用いても劇的な効果をみることはそれほど多くはありません。

むしろ、よほど重度でない限り、『皮膚むしり症はある程度は付き合うもの』と考えたほうがよいように思います。なぜなら、皮膚むしりは嗜癖(しへき)的な症状のため、“気にしすぎること”によってかえって悪化するからです。皮膚を清潔な状態に保ち、もし不安、抑うつ、睡眠障害などがあれば、そちらの治療を優先しましょう。

もし、正面から皮膚むしり症を治療するとしたら、いつどれくらい皮膚むしりをしたかをノートに記録する『セルフ・モニタリング』と、どれくらい減らすかという目標を設定して皮膚むしりを別の行為に置き換えていく『行動療法』を行うことになります」

Q.専門医の治療を受ける前に自分でできることはありますか。

田中さん「皮膚むしり症の治療を受ける前に何か自分で取り組めることは、やはり『セルフ・モニタリング』によって症状を意識化、見える化することです。
すなわち、どのような部位の皮膚を、1日のうち、どのような時に、どれくらいの時間をかけて、むしっているのかを記録し、同時にその時の気分やメンタルの状態を確認するのです。
そうすることによって、『こういう時に皮膚むしりをやってしまってるなあ』というネガティブな情報と『こういう時はやっていないぞ』というポジティブな情報が得られます。きっと行動修正のヒントがつかめるでしょう」

Q.どのようなタイミングで病院に行くべきですか、その際、何科を受診すればよいのでしょうか。

田中さん「病院を受診するタイミングは、ひどい皮膚むしりによって皮膚が荒れたり、出血が止まらなかったりして仕事や勉強に影響が出るとか、家事ができないとか、そういった場合になります。

受診するのは皮膚科と精神科の両方です。ただし、皮膚むしり症は比較的新しい病気ですので、精神科の初診予約の際に、継続的な診察が可能かどうかを問い合わせてみてください。もし近くに、薬物療法以外にもカウンセリングを行っているメンタルクリニックがあれば、そちらがよいかもしれません」