「放射線治療の費用」はご存知ですか?保険適用についても解説!【医師監修】
放射線治療は多くのがん治療で用いられている有効な治療法です。とはいえ、治療完結までに時間を要することからも費用を心配する患者さんは多くいます。
治療を行うときに慌てないために、前もって治療費について知るのは大切です。さらに、患者さんの負担を軽くする制度を知っておくことも助けになるでしょう。
そこでこの記事では、放射線治療の費用に関して役立つ情報を解説します。費用を過度に気にせず前向きに治療を行うための参考にしてください。
監修医師:
木村 香菜(医師)
名古屋大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院や、がんセンターなどで放射線科一般・治療分野で勤務。その後、行政機関で、感染症対策等主査としても勤務。その際には、新型コロナウイルス感染症にも対応。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。
放射線治療とは?
放射線治療はがんおよびその周辺のみを治療する局所治療のことです。がん細胞が正常細胞よりも放射線に弱いという特性を活かし、病巣部に放射線を照射して治療を行います。
手術・薬物療法(抗がん剤)と並んでがん治療の3本柱の1つとして重要な役割を果たしており、以下のような利点を持っています。
体を切らず臓器の形態・機能を温存できる
全身への負担が少なく幅広い患者さんが受けやすい
体のどの部位に発症したがんでも治療ができる
病状によっては外来通院で治療を受けられる
放射線治療は被曝する、または副作用が強いというイメージがある患者さんは多いですが、基本的に放射線を照射していない部分に副作用は出ません。さらになるべく正常な組織に対する放射線の影響を抑えるために、少しずつ照射し時間をかけて治療を行います。
放射線治療の種類
放射線治療には大きく分けて体の外から照射する外部照射と、患部に針・管などを入れてがん細胞に直接照射する内部照射の2タイプがあります。がん治療のほとんどで外部照射を採用するのが一般的です。
とはいえ、実際に行う治療にはさらに細かく種類があり、病状に応じて適用する治療法を選択します。放射線治療について理解を深めるために、8種類の治療方法を以下に取り上げます。
外部放射:一般的な高エネルギー放射線治療
一般的でX線治療とも呼ばれる高エネルギー放射線治療は、直線加速器(リニアック)という装置を用いて行います。荷電粒子を一直線上に加速させ、発生するX線・電子線を病巣に照射する装置です。
一方向からのみ照射する1門照射、複数の方向から照射する2門照射・多門照射などから選択し、治療を行います。全身のどの部位に対しても治療が可能であるため、ほとんどの医療機関で取り入れられている治療法です。
外部放射:三次元原体照射
三次元原体照射(3D-CRT)はCT・MRIなどの画像をもとに、病巣の大きさ・形・正常組織との位置関係を把握したうえで、病巣に合わせて三次元的に照射する方法です。
照射範囲はコンピューターによって制御するため、周囲の正常組織への影響を減らせます。よって、ほとんどの疾患でこの方法が用いられています。
外部放射:強度変調放射線治療
三次元原体照射では正常組織への線量が多くなってしまう場合に用いられるのが、強度変調放射線治療(IMRT)です。照射する放射線に強弱をつけることにより、三次元原体照射よりも複雑な形の線量分布を作れるという特徴があります。
これは病巣に放射線のエネルギーを集中させつつ、正常組織への影響を最小限に抑える点で効果的です。病巣に重要な組織が隣接している場合でも安心して利用できます。
外部放射:定位放射線治療
定位放射線治療(SRT)とはX線・ガンマ線を使用し、多方向から病巣に照射する方法です。数mm以内の誤差で正確に高線量を集中させる精度の高さが優れています。
定位照射・ピンポイント照射とも呼ばれます。早期の肺がんおよび少数個の脳・肺転移などで採用されるケースが多いです。なお、1回の照射で治療が完結するものは定位手術的照射、分割の照射が必要なものは定位放射線治療と区別されています。
外部放射:粒子線治療
X線は体表面および1~2cm下の皮下組織で特に強く、そこから減衰していくのが特徴です。さらに透過率が高いため、病巣を通り過ぎ体の反対側に到達してもなお、30~60%ほどのエネルギーが与えられるという問題点を抱えています。
一方、粒子線は体内の一定の深さまで到達するとそこで最大限のエネルギーを発揮し、その後消滅する特性があります。この特性を利用した粒子線治療では、病巣にエネルギーを集中させられると同時に、副作用が出る範囲を狭めることも可能です。
水素の原子核を使用する陽子線治療と、質量が大きい炭素の原子核を使用する重粒子線治療の2種類に分けられます。
外部放射:画像誘導放射線治療
画像誘導放射線治療(IGRT)は照射の直前・照射中に得られる画像情報をもとに、放射線治療の位置誤差を補正しながら正確に治療を行う技術のことです。放射線は目に見えず、体内にある病巣は外部から確認できないため、従来の放射線治療では計画時・治療時に生じる位置のずれを考慮して照射する必要がありました。
しかしこの治療法が確立されたことにより、さらに高精度な治療が迅速に行われています。
内部放射:密封小線源治療
密封小線源治療は、病巣にシード・管・ワイヤーなどの線源を挿入して照射する方法です。がん組織およびその周辺の限定的な範囲に放射線を強く照射できることにより、治療効果が高いと同時に副作用を少ないという利点があります。
X線・ベータ線・ガンマ線による組織内照射は、前立腺がん・口腔がん・乳がんなどに用いられます。またガンマ線による腔内照射は、子宮頸がん・食道がん・直腸がんなどに用いられることが多いです。
内部放射:非密封の放射性同位元素を用いた治療
経口薬・静脈注射により体内に取り込んだ非密封の放射性同位元素を用い、病巣を直接照射する核医学治療(アイソトープ内用治療)も行われています。一例として、ヨウ素を投与すると甲状腺組織に取り込まれるという特性を利用し、ベータ線を出すヨウ化ナトリウムカプセルを甲状腺がん治療に利用しています。
投与後、体内に放出される放射線量を画像化するシンチグラフィを撮影することで、診断も同時に可能です。
がんの放射線治療にかかる費用は?
放射線治療にかかる費用は、治療を受ける病院・病状・治療法の種類・治療回数などによって異なります。照射費用のおおまかな金額としては、治療完結までに約100~200万円ほどかかる見込みです。実際に請求される費用には治療計画作成費・診療費なども加算されるため、全体で300万円前後の費用がかかると思われます。
支払いは毎回の治療で行われますが、1回で数万円単位の治療費が必要となるでしょう。多くの治療法の中でも放射線治療が高額になりやすいのは、先進医療が多く用いられているからです。とはいえ、より確実に治療を行っていくために必要な費用とご理解ください。
放射線治療は保険適用される?
治療を受ける患者さんにとって医療費は大きな負担です。しかし、医療保険制度によって医療費を全額を自己負担する必要がない場合も多くあります。
ここからは放射線治療での保険適用について取り上げます。
保険適用される場合
現在、ほとんどの放射線治療で保険診療が受けられます。特に高エネルギー放射線治療・三次元原体照射など、標準の治療で採用されているものは保険適用対象です。
自己負担は1~3割のため、多くの患者さんが1ヶ月の費用を5~10万円程度に抑えられるでしょう。
保険適用されない場合
保険適用外となるのは先進医療を用いた治療の場合です。この場合は自由診療となり、全額が自己負担となります。
しかし、代表的な先進医療である粒子線治療も適用範囲が拡大されてきており、より多くの患者さんが経済的負担を軽減できるようになってきました。ただし、同じ病名でも病状によっては適用外となるケースもあり注意が必要です。
高額療養費制度とは?
高額な治療費が必要となる患者さんは、「高額療養費制度」を利用できます。費用面での悩みを抱えず治療に専念できるよう、利用可能となる条件を解説します。
保険診療の場合に利用できる
高額療養費制度は保険診療の場合に利用可能です。保険適用外の自由診療では受けられないのでご注意ください。
すでに支払い済みの方は、ご本人が加入している公的医療保険に高額療養費の支給申請書を提出することで利用できます。まだ支払いを行う前の段階であれば、限度額適用認定証を支払い時に保険証とともに提示することで、即座に制度が適用されます。
ご自身で利用しやすい方を選択すると良いでしょう。
医療費が1ヶ月の上限額を超えた場合に超えた額が支給される制度
医療機関・薬局の窓口で支払った額がひと月の上限額を超えた場合に、その超えた額が支給されるのが高額療養費制度です。簡単にいえば、自己負担分が一定額払い戻しされるということです。
上限額は年齢・所得によって異なるため、あらかじめ確認しておきましょう。一例として69歳以下で年収が約370~770万円の方は、「80,100円+(総医療費-267,000円)×1%」の計算式に当てはめて、自己負担上限額を算出します。
この患者さんが100万円の医療費を請求され3割負担の30万円を窓口で支払う場合、自己負担上限額は87,430円です。つまり、212,570円が返ってくるということです。
また、同じ世帯で同じ医療保険に加入している方が受診している場合、それぞれで支払った負担額の合算が上限額を超えている場合にも支給されます。さらに過去12ヶ月以内に3回以上、上限額に達した患者さんは4回目以降が「多回数」該当となり、上限額が引き下げられます。
医療費が高額となる放射線治療を行う際には、ぜひ活用してください。
放射線治療の費用についてよくある質問
ここまで放射線治療の費用・保険適用・制度などを紹介しました。ここでは「放射線治療の費用」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
放射線治療を受ける際に必要となるそのほかの費用について教えてください。
木村 香菜 医師
まず、初診料・再診料とともに診察に関わる検査料がかかります。また基本的に放射線治療は通院で受けられますが、入院が必要な患者さんは入院費も別途必要です。さらに、患者さんの病状・治療の経過によって治療計画を変更する場合は、管理料が再度発生するでしょう。これらの費用も保険が適用されるので、自己負担を軽減できます。
高額療養費制度の申請方法を教えてください。
木村 香菜 医師
支払いが終わっている方は、加入している公的医療保険の窓口で支給申請書を提出しましょう。郵送で申請することも可能です。保険の種類によっては、支払い時に病院から得た情報をもとに保険会社が高額療養費制度の案内をしてくれる場合もあります。また支払い時の提示で適用される限度額適用認定証は、申込書をお勤め先の会社経由で健康保険組合に提出することで交付されます。マイナ保険証を登録している方であればマイナ保険証の提示でも有効なので、こちらも検討しください。
編集部まとめ
この記事では放射線治療の費用について解説しました。多くのがん治療で検討される治療法ですが、費用面を心配している方が多いでしょう。
一般的に高額な治療費がかかりますが、保険適用で負担が軽減される場合がほとんどです。さらに、負担額を減らせる制度も設けられています。
ぜひこの記事を参考にしてどのような費用が必要なのか、どのくらい負担しなければならないかをあらかじめよく知り、不安なく治療に専念してください。
放射線治療と関連する病気
「放射線治療」と関連する病気は10個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
脳腫瘍頭頸部がん
肺がん口腔がん乳がん子宮頸がん前立腺がん皮膚がん悪性リンパ腫ケロイド
そのほか、全身のほぼすべてのがんで放射線治療が有効です。早期であれば、放射線治療のみで治療を完了できる場合も多くあります。また悪性腫瘍だけでなく良性疾患も治療対象であり、幅広い疾患に効果的な治療法といえます。
放射線治療と関連する症状
「放射線治療」と関連している、似ている症状は6個ほどあります。
各症状・原因・治療法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
倦怠感食欲不振
下痢
貧血
白血球減少
皮膚炎
放射線治療を行うと、これらの副作用が出る可能性があります。治療中または終了直後に出る場合と、終了してから半年~数年経過してから出る場合があるため、気になる症状が出たら早めに主治医にご相談ください。
参考文献
放射線治療の種類と方法(国立がん研究センター)
医療費が高額になりそうなとき(全国健康保険協会 協会けんぽ)
乳がん患者・非乳がん患者の倦怠感の比較