【農家が徹底解説】ワイン用のぶどうとは…食べられるの?フルーツ用のぶどうよりも「甘い」って⁉
ワインの味を左右する最も大事な要素の一つ…それはぶどうの種類。最近では、国産ぶどうを100%使用して国内で製造された”日本ワイン”も増えてきました。ラベルを見ると、ぶどうの品種名が書いてあることが多いのですが、そもそもワイン(醸造)用のぶどうとフルーツ(生食)用のぶどうって、何が違うんでしょうか?埼玉県でワイン用のぶどうを栽培し、そのぶどうでオリジナルワインを生産・販売している貫井香織さんに、疑問をぶつけてみました!
醸造用と生食用は求められるものが違う⁉
貫井さんによると「醸造用のぶどうと生食用のぶどうは、求められているものが違うんです」とのこと。
ん?求められているものとは?
「生で食べるぶどうは、皮が薄くて粒が大きく、種がないもの。そのうえ、甘くてジューシーなものが好まれますよね。品種改良も、その方向で進められています」(貫井さん)
生食用でおなじみのシャインマスカット。種がなく皮を剥かずに食べられるのが特徴。一粒がうずらの卵ぐらいのものがよしとされているそう。
「でも、ワイン用のぶどうは、皮が厚く、種があって小さな粒のほうがいいんです。甘さもほしいんですけど、酸味もあったほうがいいし」(貫井さん)
こちらは、収穫間近の醸造用ぶどう。実が小さく、割ってみると中に種があるのがわかります。
なるほど。生食用と醸造用のぶどうは、見た目からして違うのですね。
「ぶどうは、果皮、果皮のすぐ内側や種に渋みや旨味があります。それらすべてが、ワインの複雑な味わいを生み出すんですよ」(貫井さん)
確かに、生食用のぶどうは甘くておいしいけれど、ワイン独特の酸味や渋みはないかもしれません。
「ワインは、ぶどうに含まれる糖分が発酵してアルコール分に変わってできます。だから醸造用のぶどうは、生食用のぶどう以上に糖度が高いんですよ。ただ、アルコールに変化したら、甘味はなくなってしまいます」(貫井さん)
え、フルーツ用ぶどうより甘いってこと⁉それは初耳です。
「醸造用のぶどうは、皮が厚くて食べにくいかもしれませんけど、甘くておいしいんです。ワイナリーでの収穫体験など、機会があったら生でも食べてみてくださいね」(貫井さん)
品種だけでなく育て方も違う
貫井さんによると、醸造用のぶどうと生食用のぶどうは、育て方も違うとのこと。
「例えば、生で食べるぶどうは種なしが好まれますが、最初から種がないのではなく、実が大きくなる前にジベレリンなどの植物ホルモン剤につけることで、種なしにしています。でも、醸造用のぶどうは種が必要なので、その作業はありません」(貫井さん)
ちなみに、貫井さんの畑では、醸造用として、黒ぶどうの『ピノ・ノワール』と、白ぶどうの『シャルドネ』を育てているそうです。
「2016年から醸造用ぶどうの栽培を始めましたが、黒ぶどうで赤ワイン、白ぶどうで白ワインを造るにはそれぞれの収穫量が足りず、これまでは両方をミックスして、ロゼとロゼのスパークリングを造っていました。でも、年々収穫量が増えてきて、そろそろ赤ワインが造れそうなんです」(貫井さん)
生食用のぶどうで日本独自のワインを造る動きも
醸造用のぶどうと生食用のぶどうは品種も育て方も別ですが、最近は、日本で生まれた生食用のぶどう品種でワインを造る動きも盛んになっているとか。
「日本で昔から食べられているぶどうでワインを造ろうという動きが広がっています。代表的な品種は、黒ぶどうの『マスカット・ベリーA』や白ぶどうの『甲州』です。国際ブドウ・ワイン機構にもこれらの品種が登録され、日本独自のワインとして世界的にも認められているんですよ」(貫井さん)
奥の深い、ぶどうそしてワインの世界。さらに楽しみが広がりそうです。
貫井園
貫井香織さん
埼玉県生まれ。大学卒業後、コンサルティング会社、PR会社を経て、2008年に父親が経営する「お茶としいたけ 貫井園」に就農。原木しいたけ栽培において農林水産大臣賞を5度受賞の同園で働きながら、ワインに魅せられ、2016年に醸造用ぶどうの栽培を開始。2022年から、自家製ぶどうによる醸造ワインの販売を手掛ける。
2015年第10回さいたま輝き荻野吟子賞、2017年農業女子アワード「農業女子の知恵・夢部門」、2018年6次産業化アワード奨励賞を受賞。農業女子プロジェクトメンバー。
●貫井園ホームページ
http://www.nukuien.com/
●インスタグラム @nukuien
https://www.instagram.com/nukuien/