今年のおみくじはどうだっただろうか。2024年の投資戦略は運に任せず、しっかり考えたい(写真:ブルームバーグ)

まったくもって大変な年明けである。元日に能登半島を震度7の地震が襲ったかと思ったら、1月2日には羽田空港で日本航空と海上保安庁の航空機が衝突して炎上。1月3日は北九州市小倉北区の飲食店街で火災が発生だという。いやもう、何が起きるかわからない。

不透明材料満載の2024年


この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています)。記事の一覧はこちら

落ち着かないお正月を迎えているうちに、誰かが耳元で「ふふふ、この程度はほんの小手しらべ……」とささやいたような気がした。

いやもう縁起でもない。それくらい2024年はわけのわからない年である。ざっと思いつくだけでも、これだけの不透明材料がある。

* 世界はウクライナとパレスチナという2つの戦場を抱えている

* 1月13日の台湾総統選挙から11月5日のアメリカ大統領選挙まで、世界中で選挙の当たり年

* 国内政治も寸前暗黒。今月下旬の通常国会召集までに、東京地検は「パーティー券裏金疑惑」の捜査を終えるだろう。さて、鬼が出るか、蛇が出るか

* アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は年内どこかで利下げを開始し、日本銀行はどこかでマイナス金利を解除するだろう。「金利のある世界」はもうそこまで来ているのかも

さあ、こんな不透明な年に、投資戦略をどう考えればいいのか。ここはひとつ、「着眼大局」の精神で、「簡単には変わらない」テーマを扱ってみよう。すなわち世界経済の大きなトレンドを探ってみることにしたい。

材料に使うのは、IMF(国際通貨基金)の「世界経済見通し」(World Economic Outlook)のデータベース2023年10月版だ 。1980年から2028年まで(2023年以降はIMFによる推計値)で、あらゆる国の経済データを公開してくれている。これを使って、世界各国の名目GDPの動きを調べてみた。

最初に気がつくのは、2022年時点で全世界のGDPがちょうど100兆ドルに達していることだ。世界の総人口を80億人として割り算すると、1人当たりでは1万2500ドルとなる。おお、知らない間に世界はずいぶん豊かになったなと、しばし感慨にふける。中国の1人当たりGDPがちょうどそれくらいなのだから、無理もないのである。

日本と比べてアメリカのGDPは6倍、中国は4倍に

過去に遡ってみると、世界のGDPが50兆ドルを超えたのは、たかだか2006年のことである。さらに25兆ドルを超えたのが1992年であるから、ほぼ15年おきに世界経済は2度、倍増してきたことになる。この間、約4兆ドルでほとんど増加しなかった日本経済は、1990年代半ばには円高もあって世界の約17%を占めていたが、現在はただの4%である。これでは国際的なプレゼンスの低下も致し方あるまい。

そんな中で、あっぱれなのはアメリカ経済である。2022年時点で25.5兆ドル、すなわち全世界の4分の1のシェアをキープしている。以前は「アメリカは人口もGDPも日本の3倍」と覚えていたものだが、今では向こうがこちらの6倍強になってしまった。さらにインフレ抑制のために5%超の利上げをしたのに、今年も1.5%成長が見込まれている。

世界第2位の経済大国は中国で、こちらは17.9兆ドルである。日中経済の規模が逆転したのは2009年のことであったが、現在は先方が4倍以上になっている。今後の中国経済は減速が見込まれているが、これだけの規模になるとたとえ3%成長でも年間5000億ドルくらいの付加価値を生むことになる。

ここまで来ると、「わが国は世界第3位の経済大国でございます」と名乗ることがさすがに気恥ずかしく思えてくる。しかもこの第3位は、2024年のIMF予測値でも4.2兆ドルのままであり、この年、4.4兆ドルとなるドイツに抜かれる見込みである。折りからのユーロ高と円安が響いているのであろう。

もっとも日本とドイツはいずれも低成長であり、この3位集団は遠からず3.4兆ドル(2022年)のインドにまとめて抜かれる公算が大である。「世界のG3は米中印」、という日がいずれ訪れることだろう。

さらに興味深いのは、中国とインドにブラジルの1.9兆ドル、ロシアの2.2兆ドルを加えると、25.4兆ドルとなってアメリカとほぼ肩を並べる。中国が「BRICS」の枠組みを拡大し、アメリカに対抗しようとしているのは理に適っていると言えよう。逆に西側諸国が、インドとの関係を強化して、中印の離間を図っているのも、これまた戦略として的を射ていることになる。

現在の世界は「天下4分の計」と考えるとわかりやすい

さらに机上の計算を続けてみる。ユーロ圏(14.1)+日本(4.2)+加(2.1)+豪(1.7)+韓(1.7)=23.8兆ドルとなり、これまた世界の約4分の1となる。つまり「その他の先進民主主義国」を全部足すと4分の1になり、アメリカと足してざっくり世界の半分を占める。かつてはG7が世界の半分を占めた時期もあったものだが、アメリカを除くG6(日英仏独伊加)がかろうじて中国とほぼイコール、というのが現下の相場観である。

アメリカが4分の1、その他西側が4分の1、BRIC4カ国が4分の1、すると残りの新興国・途上国がトータルで4分の1ということになり、これらが「グローバルサウス」ということになる。

昨年の国際政治においては、「グローバルサウスを西側と中ロのいずれが取り込むか」がテーマとなったが、これは「天下4分の計」であると考えるとわかりやすい。こういう「ビッグピクチャー」はしばらく変わらないだろう。

こうしてみると、世界経済の景色はかなり変わったことになる。日本経済が「現状維持」を続けている間に、「その他の国々」がぐんぐん伸び続けた結果と言えようか。

最近、同世代から少し上の世代が集まると、「日本はいつからこんな貧乏な国になったのか?」という嘆き節が止まらなくなることが多い。

筆者も身に覚えがあるのだが、円高だった1990年代に海外で過ごした者は、「日本は世界の6分の1」だった頃の感覚が抜けにくい。そういう世代が、今ではこの国の重要ポストを占めている。往時の発想は、たぶん「世界の4%」になった今日の環境には適さないのではないだろうか。

もはや金融資産の大部分を円で置いておくのは非効率

お正月の経済論壇では、「失われた30年」がどうのこうのという議論をよく見かける。

日本経済をいかに成長させるかは、それはもちろん重要な課題である。効果的な成長戦略が採られてほしいものである。

例えば「日の丸半導体の夢よ、もう一度」みたいなプロジェクトは、いかにも旧世代による「年寄りの冷や水」になりそうで、個人的には気乗りがしないところである。

そういう経済政策の論議はさておいて、個人の投資戦略を考える場合、今や「世界の4%」に過ぎなくなった日本に、金融資産の大部分を置いておくのはあまりにも効率が悪いと言わざるをえない。

正直なところ、以上の思考実験を終えた筆者は、「俺の円資産、もう少し外貨に換えておかなきゃあ」という結論に至った次第である(本編はここで終了です。この後は競馬好きの筆者による競馬論や週末のレース予想となります。あらかじめご了承ください)。

ここから先は恒例の競馬コーナーだ。最初に2023年のJRA(日本中央競馬会)の売り上げを確認しておこう。JRAのHPから、サイト内検索で「売得金」と入れると、すぐにデータが出てくる。「売得金」とは、売上高のことだ。

JRAの営業成績から見えてくる「課題」とは?

売得金:3兆2745億6790万0700円(前年比+0.66%)総参加人数:1億9644万6179人(前年比▲0.2%)入場者数:462万4106人(前年比+65.7%)

いつものことながら、12月28日に2歳馬の中長距離のチャンピオンを決めるG1レース、ホープフルステークスが終わると、ピシッと100円単位で数字が出る。もちろん後日、修正されることもない。なんと清々しい。経済指標はかくあってほしいものである。

2023年の馬券の年間売上高(売得金)は丸めて3.3兆円。前年とほとんど変わらないが、「12年連続で前年超え」ということになってヘッドラインとしては悪くない。

ただしJRAとしては、やや不本意な成績ではなかったか。近年の売得金は、前年比+3.1%(2019年)、+3.5%(2020年)、+3.6%(2021年)、+5.3%(2022年)とコロナ下でも順調に増え続けてきた。2023年が伸び悩んだのは、「コロナが明けて、競馬ファンがほかのことに金を使うようになったから」であろう。それはまあ、わからん話ではない。

競馬場に足を運んだ人の数は、2022年の279万人から462万人に一気に増えた。これはもう実感で、最近はG1レースともなると指定席券はネット抽選ではまず当たらない。ただしジャパンカップや有馬記念ともなれば、昔は10万人超えの入場者数が当たり前だったので、まだまだ警戒モードで運営している様子。今年はいよいよコロナ前の「年間600万人台」が視野に入ってくるのではないだろうか。

ところが問題は、総参加人数が前年比でわずかな減少となっていることだ。競馬ファンは全体的に高齢化しているし、いくら若いタレントをCMに使っても、なかなかファンの総人口は増えなくなっている。つまり競馬というビジネスは、「少子・高齢化」という天井に突き当たっているのではないか。

JRAがさらなる成長を志向するならば、1人当たりの売り上げを増やすか、あるいは海外のファンを増やすしかない。といっても、前者はギャンブル依存症の問題があるので、今後の経営課題は国際化の推進ということに尽きるだろう。オバゼキ先生(小幡績・慶應義塾大学大学院教授)の持論と重なるけれども、まずは海外からちゃんと客を呼べる体制を整えることがJRAの次なる課題となるだろう。

8日のシンザン記念はスターホースを先物買いだ!

さて、中央競馬は6日からの3連休である。6日は中山競馬場と京都競馬場の両金杯、7日にもフェアリーステークスがあるけれども、ここでは8日月曜日のシンザン記念を取り上げたい(レースの格はすべてG3)。何しろ3歳馬の出世レース、しかも今年は4年ぶりに中京競馬場から本来の京都競馬場に戻る。次のスターホースを先物買いと行きたいところだ。

筆者の狙いはノーブルロジャー。いまだ1戦1勝の戦績に過ぎないが、2歳新馬戦をノーステッキで快勝している。父はアメリカの競走馬パレスマリスで、今年から日本で種牡馬となる。先に朝日杯FS(フューチュリティステークス)を制したジャンタルマンタルと同じで、今年注目の血筋ということになる。

鞍上の川田将雅騎手は、2023年リーディングジョッキーの第2位に輝いた 。昨年はクリストフ・ルメール騎手ばかりが目立った印象があるけれども、川田騎手の「勝率0.305」(3割5厘)は驚異的な成績である。騎乗回数495回のうち151勝し、連対率(2着内率)は0.477、3着内率が0.600というのだから、この堅実さは勝率0.248のルメール騎手を大きく凌ぐ。
ご同輩、今年は「迷ったら川田」でいくのも一案ですぞ。

ストイックでプロフェッショナルな山崎さん、安らかに

と、ここまで書いて原稿を編集部に送付した後で、当欄のメンバー、山崎元氏の訃報に接した。元日に逝去されていたとのこと。昨年秋のジャパンカップの日(11月28日)、オバゼキ先生と編集F氏とともに山崎氏宅を訪れて、一緒に競馬と将棋を楽しんだことが夢のようである。

2012年秋に当連載が始まってから10年以上、2023年最後の週が山崎さんの当番で、初めて原稿が「落ちた」。ああ、よっぽど体調が悪いのだなと思ったけれども、まさかお別れがこんなに早いとは。しかも故・ぐっちー(山口正洋)さんと同じ食道がんが原因とは。残された者としては、まったく困るではないか。

古い読者はご存じと思うが、この連載はもともと山崎さん、ぐっちーさん、不肖かんべえの3人で始まった。

競馬予想に関しては、山崎さんが正統理論派、ぐっちーさんが豪放磊落派で、ぐっちーさんの後を継いだオバゼキ先生は、これまた長い競馬キャリアに基づく独自の世界観を構築されているので、筆者としてはなるべくミーハー路線で予想を書いてきたつもりである。競馬ファンの多数派はきっとそうだからね。山崎さんとぐっちーさん、今頃はあの世で仲良く競馬談義をしているかもしれない。

山崎さんの筆致は、がんが発覚した後も、闘病中も、退院後も、転移が発覚した後もほとんど変わらなかった。ストイックでプロフェッショナルであった。それでも最後の何本かは、絞り出すように何かを伝えようとしていて、まるで「遺言」のように感じられたものだ。

当欄で絶筆となったのは、「『そこそこの会社で正社員』はやめたほうがいい」(2023年12月9日配信) 。なるべく多くの人に読まれてほしい。合掌。

小幡績・慶應義塾大学大学院教授より

山崎さんは、僕にとっては不思議な人だった。

真面目に言っているのか冗談なのか、わからないことが多かったし、僕が酒を飲まないこともあって、彼が酔っているのかいないのか、いつもわからなかった。

経歴も、もともとはエリート街道王道だし、東大将棋部だし、ルックスも知性派の王道イケメンだったし、だが、しかし、転職大王となり、最近の対談記事を読むと、子供のときから先生を困らせていたらしいことがわかった。

連載記事をお読みの皆さんには既知のことだが、私とは、財政政策、金融政策、株価の見通し、投資のススメ、何から何まで、正反対だった。ある公的年金の運用委員会では、朝3時に起床する私と、朝6時すぎに就寝する山崎さんとのスケジュール調整で、委員会を午前にするか夕方にするかいつも困っていた。

しかし、何かが共通していた。それは競馬好きだったり、将棋好きだったり(棋力は遠く及ばないが)、なんだろう、と思っていた。

あるとき、初めて、将棋盤を挟んで、お手合わせをしていただいた。そのとき、驚いたのは、半ば指導対局のようなものなのに、山崎さんの指し手は、慎重に次ぐ慎重であったことだ。こちらは1手ごとに追い詰められ、もう勝負、勝負で開き直った指し手を続けなければならなかったのに、山崎さんはあくまで慎重に最善手を検討されていた。

山崎さんは、なんと真面目で、真摯で、常に全力なのか。そのとき、やっと僕は気づいた。しかし、少し遅すぎた。もっと、もっと、お話もしたかったし、将棋もご指導いただきたかった。このコラムで180度違う意見をぶつけ合いたかった。本当に残念です。

【2024年1月5日編集部追記】2024年1月1日、山崎元さんは逝去されました。心から哀悼の意を捧げ、ご冥福をお祈りします。

(本記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(かんべえ(吉崎 達彦) : 双日総合研究所チーフエコノミスト)