Twitchを中心に活動しているVTuber(バーチャルYouTuber)のFilianさんが主催する、VTuberを対象とした賞「The Vtuber Awards」がアメリカで創設され、2023年12月16日に第1回受賞式が開かれました。日本を中心に成長したVTuberの文化がアメリカでも受け入れられているとして、IT系ニュースサイトのTechCrunchが特集しています。

The first annual VTuber Awards was a win for VR | TechCrunch

https://techcrunch.com/2023/12/20/vtuber-awards-vr-twitch-weplay-filian/

VTuberの始祖自体は諸説ありますが、「2Dあるいは3Dのアニメ風アバターで活動するストリーマー」という意味で「バーチャルYouTuber」というキーワードを使い始めたのは日本のキズナアイです。やがて、バーチャルYouTuberは「VTuber」と呼ばれるようになり、海外でもVTuberの人気が高まっています。

Filianさんの主催したThe Vtuber Awardsの各部門受賞者は以下の通り。

・Best FPS Vtuber:セレン龍月

・Best Tech Vtuber:Vedal987

・Best Art Vtuber(Presented by Nihmune):Ninomae Ina'nis

・Best Music Vtuber:森カリオペ

・Vtuber Clipper:COOKSIE

・Vtuber Parent of The Year:2WINTAILS

・Funniest Vtuber:CHIBIDOKI

・Most Chaotic Vtuber(Presented by Punkalopi):こぼ・かなえる

・Most Dedicated Fanbase(Presented by Porcelainmaid):CHUMBUDS(がうる・ぐらのファンネーム)

・Best Minecraft Vtube:カエラ・コヴァルスキア

・Best Roleplay/ASMR Vtuber:セレス・ファウナ

・Lewdtuber of The Year:Projekt Melody

・Miss Vtuber(Presented by Shylilly):Ironmouse

・Best Chatting/ Zatsu Vtuber:SHYLILY

・Stream Game of The Year:スイカゲーム

・Best Concert of The Year (Presented by Bao):Connect the World

・Best Philanthropic Event:ミカ・メラティカのチャリティー配信

・Best Streamed Event:Ironmouseのチャンネル登録耐久配信

・Hidden Gem:Fufu

・Rising Star(Presented by FEFE):Henya the Genius

・Rising Vtuber Organization:Phase Connect

・Gamer of The Year:セレン龍月

・League of Their Own(Presented by MERRYWEATHER):FUWAMOCO(フワワ・アビスガードとモココ・アビスガードのユニット)

・Best Vtuber Organization:ホロライブ

・Vtuber of The Year:Ironmouse

上記のようにThe Vtuber Awardsの部門はかなり細かく分かれていますが、単にかわいさや面白さだけではなく、技術的な側面を評価する部門もあるのが特徴。例えば「Best Tech Vtuber(最優秀技術VTuber)」の部門を受賞したVedal987さんは、テキストを読み上げながらゲームをプレイしたり、Twitchの視聴者とコミュニケーションしたりできるAIのVtuber「Neuro-sama」を開発したことで知られています。



FilianさんはTechCrunchのインタビューに対して「どの受賞式でもVTuberはおまけとして扱われることが多く、時にはユニークで奇妙なものとして扱われることもあります。そのため、The VTuber Awardsは『VTuberだけのショーを開催してみませんか?』というアイデアで始まっています」と述べています。



さらに、VTuber本人だけではなく、VTuberの切り抜き動画を作成する人に贈られる「Vtuber Clipper」部門や、最も熱心なファンコミュニティに贈られる「Most Dedicated Fanbase」部門が創設されているのも、The VTuber Awardsの大きな特徴。Filianさんは「VTuberが欧米に上陸したとき、爆発的な盛り上がりを見せました。VTuberの切り抜き動画を作る人が、VTuberの今日の地位にとってどれほど重要であるかは誇張してもしすぎることはありません。VTuberは他の多くのクリエイターよりも、一般的にファンとの関わりが深いのです」とコメントしました。

The VTuber Awardsのイベントはロサンゼルスにあるスタジオから5時間かけて行われました。このスタジオは、普段はeスポーツのイベントに使われる場所で、スタジオの運営企業であるWePlayにとってもVTuberのイベントで使用するのは初めてのことだったそうです。受賞式の様子は以下から見ることができます。

The VTuber Awards 2023, hosted by Filian - Twitch

WePlayのマクシム・ビロノゴフ氏によると、受賞式は当初物理的なステージを使って行う予定だったそうですが、途中で完全にバーチャルな会場で行う方向に変更されたとのこと。ビロノゴフ氏は「当初、受賞式はスクリーンとグラフィックスを備えた物理的なステージで開催される予定でした。しかし、その後、それは方法としても考え方としても正しくないと気付きました。VTuberなので完全なバーチャル空間であるべきです。そこで、私たちは本物のカメラマンが本物のカメラを使ってバーチャル空間を撮影できるようなテクノロジーの構築を始めました」と述べています。



受賞式では仮想的なアングルにリンクされた3台のカメラを制御し、カメラの上下左右の振りやフォーカス変更をバーチャル空間に反映されるように設定されたとのこと。オペレーターはカメラに接続されたiPadを使ってさまざまなアングルに切り替えることができ、バーチャルの世界では12台のカメラを使っているように見せていたそうです。また、ステージ上の物理的なライトもバーチャル空間にリンクさせ、同時にバーチャル空間のステージ上で再生される映像をライブイベント用のソフトで制御していたとのこと。

受賞者とはDiscordで会話しながらアバターも同時にステージ上に表示させるので、実際にスタジオにいたのはFilianさんのみ。VTuberのアバターを動かすツールに業界標準はありませんが、Filianさんを含む海外のVTuberはUnityで設計されたモデルを使っているケースが多いとのこと。しかし、WePlayのバーチャルステージはUnreal Engineを使用して構築されていたため、最終的にFilianさんのアバターを一から再構築することになったそうです。

Filianさんはステージ上の様子と台本を表示するテレプロンプターを設置した別室で、モーションキャプチャースーツを着て受賞式に臨みました。以下の写真はFilianさんのいた別室の様子。ただし、この写真に写っているのはFilianさんではなく、動作確認を行っているWePlayの従業員だそうです。



現実的な話をすると、VTuberには実際に動きや声を与える「中の人」が存在します。日本では「魂」とも呼ばれることもあり、日本でも海外でも中の人の情報は秘匿されます。Filianさんの場合、関係者全員がFilianさんの匿名性を維持すると誓約を立てており、Filianさんのプライバシーを尊重して距離を置いていたとのこと。Filianさんと実際に顔を合わせたのはFilianさんが本当に信頼している人だけだったため、初めてのこと尽くしだった受賞式も無事に進めることができたとFilianさんは述べています。



当日のリハーサルを含めると、Filianさんは合計で7時間以上もモーションキャプチャースーツを着ていて、トイレに行けたのはわずか2回。また、トイレに行く際のスーツの着脱には少なくとも20分はかかったとのこと。受賞式が終わった後、Filianさんは完全に体力を使い果たしており、次の日の配信の時はカメラの前で居眠りしそうになったそうです。

ビロゴノフ氏は「今回のプロジェクトはWePlayにとって巨大な実験でしたが、実際の受賞式をテレビで見て驚きました。このテクノロジーが他にどう使えるかはわかりませんでしたが、これがライブイベントの未来であることは確信しました」と述べています。WePlayはバーチャルのライブイベントの実験を続け、ロサンゼルスにある自社スペースの向かいに、バーチャル制作専用のスタジオを開設する予定だそうです。

「VTuberはロックンロールやジャズのようなものです。業界全体で、重要なコミュニティが形成されています。これはエンターテイメントの未来です。授賞式はその始まりに過ぎないと思います」とビロノゴフ氏はコメントしました。

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