日本は国民皆保険制度を採用しており、基本的に社会保険には強制的に加入となります。しかし、配偶者の扶養に入っているときなど、収入が基準よりも低い場合は社会保険に加入しなくてもよいケースもあります。

そのため、社会保険に入るべきか、入らないように収入を抑えて働くべきか迷う人もいるでしょう。そこで、社会保険に加入するメリット・デメリットを解説します。

また、社会保険加入条件が拡大され、あとから社会保険に加入すると二重加入になってしまうこともあるので注意が必要です。二重加入になり得るケースとその対処法についても説明します。

社会保険とは

労働者における社会保険は、厚生年金保険・健康保険・労働保険・介護保険・雇用保険の5つの総称で、病気や怪我、失業のリスクなどに備えます。企業などに雇用されている人は、その企業などを通じて加入するもので、勤務先で手続きを行うのが一般的です。また、社会保険料は本人と事業者の折半になるため、半額は会社側の負担となります。

自営業など雇用されていない人は、国民年金と国民健康保険に加入します。この場合の保険料は全額個人負担です。

労働者、自営業者、どちらも配偶者や親などの扶養に入ることも可能です。条件を満たし、扶養に入れば社会保険料、国民年金・国民健康保険を支払う必要はありません。

社会保険加入条件が拡大された
正規の雇用ではなくパートやアルバイトといった非正規雇用であっても、一定の条件を満たせば社会保険加入の対象になります。

これまでは従業員501人以上の企業で働いている人が対象でしたが、2022年(令和4年)10月1日からは、従業員数101人以上の企業で働く人に加入対象が拡大されました。そのため、今まで加入しなくてもよかった人が加入対象になることがあります。2023年9月現在の社会保険加入の条件は以下のとおりです。

・従業員数101人以上の企業で働いている
・1週間の所定労働時間が20時間以上
・1ヶ月当たり8.8万円以上の給与を得ている
・2ヶ月超の雇用の見込みがある
・学生ではない

社会保険に加入するメリット

働く人のなかには「社会保険料を支払いたくないから収入を調整したい」という人もいますが、社会保険に加入することにはメリットもあります。ここでは、社会保険に入ることでどのような利点があるのか解説します。

厚生年金に加入できる
社会保険に入ると厚生年金に加入できます。扶養内で働き厚生年金に加入しなければ、もらえる年金は国民年金だけです。しかし、厚生年金に加入できれば、その分将来受け取れる年金の金額を増やせます。また、社会保険であれば雇用者が社会保険料を半額負担します。

ちなみに、自営業など厚生年金ではなく国民年金に加入する場合は、扶養を抜けて国民年金を支払っても受け取る年金額は変わりません。

雇用保険に加入できる
社会保険に入ると雇用保険にも加入できます。雇用保険とは、離職や休職した場合に失業給付金などを受け取れる制度です。離職すると収入が途絶えてしまいますが、失業給付金を受け取れれば焦らずじっくりと次の仕事を探せます。

さらに、失業給付金をもらいながら教育訓練を受けられたり、資格取得のための補助を受け取れたりします。雇用保険に入っていない人に比べると、失業中に受け取れる支援が充実したものになるでしょう。

年収の上限を気にせず働ける
社会保険に加入したくない場合は、月額賃金が8.8万円以上にならないように働かなければなりません。そうすると、パートやアルバイトの人はシフトの調整が必要です。

しかし、社会保険に加入すれば、年収の上限を気にせず働くことができます。勤務時間を減らす必要もなく、働きたいだけ働けるので収入アップも期待できます。世帯の所得も増えて将来の年金額も増える点は、扶養を抜ける大きなメリットです。

社会保険に加入するデメリット

パート・アルバイト勤務の人のなかには、社会保険に加入せずに扶養内で働きたいという人もいます。社会保険に加入することで受けるデメリットについても押さえておきましょう。

手取りが減少する
社会保険へ加入すると、企業と折半とはいえ社会保険料の支払いが生じます。社会保険料は給与から支払わなければならないため、結果として収入によっては手取り額が減少してしまいます。

ただし、その分将来もらえる年金額は増え、失業した場合は失業給付金を受け取れるため、一概に損だとはいえません。長い目で見ると、総収入は増える可能性も十分にあります。

働き損になる可能性がある
給与から社会保険料を支払った結果、収入が増えたことにより、逆に手取りが減ってしまう年収帯があります。このような現象は一般的に働き損と呼ばれ、労働時間を増やしても手取りが減ってしまいます。

従業員数101人以上の企業などで働く人で加入条件を満たす場合は、年収106万円(月額8.8万円)を超えると働き損になり、社会保険料が引かれても損しない年収はおおよそ125万円以上となります。

また、従業員数100人以下の会社に勤めるなど加入条件を満たさない場合は、年収130万円を超えたあたりが働き損になるラインです。この働き損を回避するためには、おおよそ年収171万円以上が必要です。

社会保険は二重加入しているときがある

社会保険加入対象の拡大により、意図せず社会保険に加入してしまうケースがあります。もしも手元に保険証が2枚ある場合は、社会保険の二重加入になっている可能性があるため注意が必要です。なぜ二重加入をしてしまうのか、社会保険に複数加入してしまうケースについて紹介します。

2ヶ所以上で雇用されている
ダブルワークなどにより、2ヶ所の社会保険適用事業所に勤めていると、2つの社会保険に加入してしまうことがあります。2つの社会保険に加入していると保険料も重複して支払うことになるため、どちらか一方にまとめる必要があります。

そのためには、被保険者本人が自分でどちらの社会保険を主たる事業所にするのか選択し、届出を提出しなければなりません。収入の合算後、それぞれの事業所の収入に応じて支払う社会保険料を按配します。

国民健康保険加入者や被扶養者が社会保険対象となった
自営業などで国民健康保険に入っていた人や、被扶養者として配偶者や親の社会保険に入っていた人が社会保険加入の対象となると、国民健康保険と社会保険の二重加入となるケースがあります。

その場合は、自分で国民健康保険や家族の社会保険から抜ける手続きをしなければなりません。勤め先の企業で社会保険に加入する際は、これまでの加入状況を確認するようにしましょう。

二重加入してしまったときの対処法

もし、二重加入をしていることに気づいたら、本来入るべきではないほうの保険を脱退する必要があります。たとえば、国民健康保険に加入していた自営業の人が勤め出したときは国民健康保険から社会保険に変更する手続きを行います。家族の扶養に入っていた人が勤め出して、社会保険に加入する場合も変更の手続きをしなければなりません。

万が一、二重加入となっている間に国民健康保険や家族の社会保険を使用してしまうと、後日医療費を請求されることがあります。この医療費は新たに加入した医療保険に請求するなど、煩雑な手続きが必要になるため注意しましょう。

まとめ

社会保険に入ると厚生年金や雇用保険に加入でき、失業時の不安を解消したり、将来受け取れる年金額が増えたりするというメリットがあります。その一方で、社会保険料の支払いによって手取りが減ってしまい、働き損になる可能性もあるため、どのぐらい稼げば損がないのか把握しておくことが大切です。

また、社会保険の二重加入を回避する手続きは自分でしなればならないので注意しましょう。