米連邦取引委員会(FTC)はこのほど、反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いでAmazonを提訴し、eコマース大手との新たな法廷闘争を正式に開始した。

FTCと17州の司法長官は、米国時間9月26日に172ページに及ぶ訴状を提出した。Amazonの「独占的な商慣行」を非難し、同社に対して様々な申し立てを行っている訴状には、同社の広告事業、セラーとのやりとり、競争妨害が疑われる行為についての詳細が記されている。

FTCはまた、Amazonが手数料を引き上げ、データプライバシーの確保を怠っていることを非難し、同社が「セラーの商業上の秘密データを適切に保護できていないにもかかわらず手数料を引き上げ、そのデータを窃取や流用の危険にさらした」と主張している。しかし、訴状には黒塗りで非開示となっている箇所も多く、FTCが訴訟でどのような情報を武器にAmazonを追求するのか明確にはわからない。

「Amazonが不法に独占を維持」しているのか



FTCは訴状のなかで、買い物客向けの「オンラインスーパーストア市場」と、セラーが料金を払って参加する「オンラインマーケットプレイスサービス」の両方において、Amazonが反競争的行為を行っていると非難している。

また、Amazonの広告部門が、関連性の高いオーガニック検索を有料広告に置き換え、「検索の質を低下させるジャンク広告を意図的に増やし」、買い物客とセラーの双方に「フラストレーションを与える」ことで、プラットフォームを「劣化」させているという。eコマース大手の同社が、値引き防止策を講じたり、セラーが同プラットフォームでのビジネスにもっと費用をかけるよう強制したりする戦術をとっているとも非難している。

FTCのリナ・カーン委員長は声明で、「この訴状は、Amazonがその独占的な力を悪用し、自社を富ませる一方、自社のプラットフォームで買い物をする米国の何千万もの家庭や、彼らへのリーチをAmazonに頼る何十万もの事業者に対して価格を引き上げ、サービスを低下させている疑いを詳細に指摘するものだ」と述べている。「本日提起した訴訟では、Amazonのこうした独占的な商慣行に対する責任を追及し、自由で公正な競争という失われた約束を回復することを目指す」。

またFTCの訴訟は、米司法省がGoogleに対する反トラスト法訴訟で用いているのと同じ法律、シャーマン法の第2条を根拠としている。シャーマン法とは、米経済が発展した19世紀後半の「黄金時代」に、悪徳資本家が好景気の産業を独占するのを抑制しようと制定された法律だ。カーン氏によると、訴状は「Amazonが不法に独占を維持するために、一連の懲罰的かつ強制的な戦術をどのように用いてきたかを示している」という。

Amazonは徹底抗戦の構え



今回の訴訟について、Amazonにコメントを求めたが回答は得られなかった。しかし、Amazonのグローバル公共政策シニアバイスプレジデント兼法務顧問、デビッド・ザポルスキー氏が執筆した声明文のなかで、同社はFTCが「消費者と競争を守るという使命から根本的に逸脱している」として、以下のように述べている。

「もしFTCの思い通りになれば、選べる商品の数は減り、価格は上がり、消費者への配送は遅くなり、小規模ビジネスの選択肢は減ることになる。反トラスト法の趣旨とは正反対の状況だ。FTCが本日提起した訴訟は、事実と法律に照らして間違っている。我々は法廷の場でそのように主張することを楽しみにしている」。

過去10年間で、Amazonの広告事業は急成長した。2015年に約10億ドル(現在のレートで約1500億円)規模だったのが、2021年には310億ドル(約4兆6450億円)、2022年は372億ドル(約5兆5750億円)に達している(さらにAmazonは2023年9月、月額2.99ドル[約448円]の追加料金を支払わない視聴者に対して、2024年からプライムビデオ[Prime Video]に広告を導入すると発表した)。

加えて同社は、クラウドコンピューティングと人工知能(AI)の巨大ビジネスを成長させ続けている。つい先日も新たなコネクテッドデバイスを発表したが、これも広告に役立つ可能性をアナリストが指摘している。

FTCの訴状要約



以下に、FTCの訴状から広告関連の記述を一部紹介する。

FTCによると、Amazonは現在、同社のフルフィルメントサービスを利用する標準的なセラーから「売り上げの半分近く」を徴収しており、ある販売者は「我々は他に行くところがなく、Amazonはそれを知っている」と述べているという。

FTCは次に、コードネーム「プロジェクト・ネッシー(Project Nessie)」と呼ばれるものについて言及した。これはAmazonの価格設定アルゴリズムに関連するプロジェクトであるとされ、「すでに米国の家庭から[この部分は黒塗り]を引き出している」とFTCは述べている。

FTCはまた、Amazonマーケットプレイスのセラーは、再販業者よりもブランドの価格やチャンネル全体の品揃えに大きな影響力を有すると述べている。

FTCは、Amazonの検索結果は、以前は関連性の高いオーガニックな結果を優先していたにもかかわらず、現在は「あふれ返る」広告がオンラインストアを「汚染」していると主張している。検索結果の最も望ましいスペースに、「スポンサーブランド(Sponsored Brand)」と「スポンサープロダクト(Sponsored Product)」の広告が表示されるという。

FTCによると、Amazonはオーガニックな検索結果を広告の下に「埋没させることを通例」とし、見つけにくく、クリックされにくくしているという。その一例として、デスクトップブラウザからの検索結果のスクリーンショットが訴状に添付されている。画像では、表示の1段目にオーガニックな検索結果はなく、最初の4枠に4つのスポンサー広告、そして5枠目に、これもオーガニックではない「レコメンドウィジェット」広告が表示されている。モバイルデバイスからの検索例では、2つのスポンサー広告が最上段に表示され、もうひとつがレコメンドウィジェットとなっている。

また訴状では、黒塗りされた段落のあいだに次の1行が挟まっている。「Amazonの別の上級幹部は、Amazonの広告部門と検索部門をサソリとカエルの寓話になぞらえたと伝えられる。広告部門がオーガニックな検索結果を汚染するのは、寓話の『サソリ』が毒針を刺すのと同じく、そうせずにはいられないからだと」

FTCはまた、Amazonはより多くの広告を表示し、何百億ドルもの収益を得る一方で、顧客へのサービスを悪化させていると主張する。「競争の激しい世界では、価格を引き上げ、サービスを低下させるというAmazonの決定は、ライバルやライバル候補がビジネスを誘致し、勢いを増し、成長するための機会につながるはずだ。ところが、Amazonはその可能性を閉ざすために不法な独占的戦略をとっている」

FTCによると、スポンサー広告が目立つように表示された場合、Amazonのエンジニアは、商品を購入した顧客の総数が「わずかな、統計的に検出できるレベルの短期的減少」を示す結果を得たという。「欲しいものを見つける買い物客が減る一方で、広告費を払った業者はより多くのお金を稼いだことになる――それもかなりの金額を」

FTCはまた訴状のなかで、広告枠の製品は、広告されていない製品よりもクリックされる確率が46倍高いと主張している。「広告はもはや任意の支出でなく、ビジネスを行う上で必要なコストとなった。したがって、セラーはAmazonに手数料を支払うだけでなく、買い物客にリーチするための広告費も支払わなければならない」

FTCによると、Amazonは、自社のプライベートブランド商品がサードパーティの競合に勝てるように、「不正な手段によって検索の質を低下させている」という。

さらに訴状の別の箇所には、セラーはAmazonに依存しているため、「Amazonの高まる要求に従うしかない」と記されている。FTCは、Amazonの広告価格に関するサードパーティセラーの発言を引用しているようだが、詳細は黒塗りで非開示となっている。FTCはまた、「広告費を支払う必要があるが、現在の価格では利益を上げられないことがわかった」という別のセラーの発言を引用し、そのセラーは結局、Amazonの広告費を支払うために商品価格を引き上げたとしている(2番目の販売者が誰かについては書かれていないが、この引用は、Amazonではすべてが広告になるとする2022年のリコード[Recode]の記事で、ベビー用品ブランドの共同創設者が語っている内容と一致する)。

FTCによると、Amazonの広告は25〜54歳の米国人の96%にリーチしている。FTCはまた、Amazonの広告やその他の業務が過去10年間でどのように進化してきたかについて、様々な詳細を提示している。

[原文:What the FTC’s antitrust lawsuit says about Amazon’s advertising business]

Marty Swant(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:分島翔平)