外からエネルギーを加えなくとも仕事を続ける「永久機関」は現実世界では実現不可能です。しかし、インターネット上ではまるで永久機関を実現したかのように見える置物が販売されています。この「永久機関を実現したような置物」を科学系YouTuberのスティーブ・モールド氏が入手して仕組みを解説しています。

This "perpetual motion" device is really clever - YouTube

モールド氏が言及している「永久機関を実現したような置物」は以下の製品です。サンプルムービーを見ると、「上部の皿から落ちた金属球がレールを転がり、レールからジャンプして元の皿に戻る」という動きを延々と繰り返すことが分かります。何のエネルギーも加えられない場合、金属球が元の場所に戻ることはあり得ないため、何らかの仕掛けが施されているわけです。



モールド氏が入手した個体も、サンプルムービーと同様に金属球が元の皿に戻りました。つまり、サンプルムービーが映像編集によって生み出されたものではなく、実際に永久機関のように見える動作をするというわけです。



モールド氏は「永久機関を実現したような置物」を2個入手し、片方の木材部分を透明素材に置き換えて中の仕組みが見えるようにしました。



置物の内部には何やら電子機器が組み込まれています。



しかし、透明素材への組み換え時に何らかの不具合が生じたらしく、永久機関っぽい動作を再現できなくなってしまいました。



そこで、モールド氏は置物の作者であるウィリアム・リー氏に連絡をとり、「木材を透明素材に置き換えたバージョン」を特別に作ってもらいました。この透明バージョンは、中身が見えて、かつ永久機関っぽい動作も実現しています。



永久機関っぽい置物は内部の見た目から分かる通り、電力を使う何らかの仕組みで動作しています。電源を切った状態で金属球を転がしても、金属球の位置エネルギーはレールとの摩擦で損失してしまうため、金属球は皿に戻るのに十分な運動エネルギーを得られません。つまり、「電力を使う何らかの仕組み」が金属球に運動エネルギーを与えて加速させていることになります。



金属球に運動エネルギーを加えているのは電磁石。磁力で金属球を引き付けて加速させているわけです。



電磁石ではなく永久磁石を使った場合、金属球は磁石にくっついて動かなくなります。つまり、「金属球が電磁石にくっつかないようにタイミングよく電磁石のオン・オフを切り替える」という動作が必要になります。



電磁石のオン・オフを切り替えるタイミングを決定するために、電磁石に到達する手前の部分に金属センサーが埋め込まれています。



電磁石に電力が供給される時間を測定してみます。



電力は約10ミリ秒間だけ供給されていることが分かりました。つまり、センサーが金属球を検出してから10ミリ秒間だけ電磁石に電力が供給され、金属球はその一瞬の磁力で引っ張られて加速するというわけです。



ちなみに、電力はコンデンサにためられてから電磁石に供給されます。このため、短時間で金属球を連続投下すると、2球目以降がうまく皿に戻らない現象が発生します。



基板に取り付けられた青い部品では「電磁石に加えられる電圧」と「電力が供給される時間」を設定できます。永久機関っぽい置物はすべてリー氏によるハンドメイドなので、レールの傾きなどに微妙な違いが生じます。このため、出荷前に青色の部品で微調整する必要があるわけです。



置物のどこかに電源スイッチが見えていると雰囲気が損なわれます。このため、電源スイッチはタッチ式を採用しています。



以下の画像の指を置いている部分にタッチ式スイッチが埋め込まれています。



内蔵されている充電池が電源となっており、充電は置物の底面から行います。これらの工夫でまるで永久機関が実現しているかのように見えているというわけです。