関連画像

写真拡大

電動キックボードの法規制が緩和されてから2カ月がたった。改正道交法では、一定の要件を満たす「特定小型原動機付き自転車」は16歳以上が運転免許なしで乗れる上、ヘルメット着用も努力義務となっている。

報道によると、警察庁は7月の1カ月で7件の事故があり、7人が軽傷、交通違反の検挙は406件だったと発表した。9月10日には、東京・池袋の歩道で、人に衝突して骨折させたのに立ち去ろうとしたとして20代の女性が逮捕された。

渋滞回避やCO2対策になる次世代の乗り物への期待も大きいが、開発する専門家からも「ルールの周知よりも(LUUPを代表とする)シェアサービスの広がりが先行し、拙速だ」と疑問の声が上がる。実証実験段階からリスクを懸念して国会で追及してきた参院議員も、「免許不要の現状で、運転の危険性を学ぶ場がまったく不十分。改正法は誤ったメッセージを出している」と厳しく批判する。

●乗り物開発の専門家「知識不足のまま広がっている」

レーシングカーや電動キックボードを制作しているフヂイエンヂニアリング(三重県鈴鹿市)の藤井充代表は「もともとは面白くて便利な乗り物」としながら、今後自動化していく交通手段の発展のためにもルール作りが必要だと指摘。「道路環境や交通ルールについて、30分〜1時間でも講習するだけで(事故や違反の)リスクは大幅に下がる」と強調する。

「今までにない乗り物が生まれたのに、道路環境もルールも適応できていないと思います。自転車専用道路も少なく、車の左側を通ることや2段階右折など基本ルールが周知されないまま、サービスが先行してしまった。順番が逆ですよね」

藤井代表が開発するキックボードは、前輪が2つある「ミニカー」扱い。その構造について詳しい立場から、LUUPに代表されるキックボードは前輪の小ささが道路の段差などの影響を受けやすいため、バランスを崩して事故などにつながるのだと説明する。

●JAFの実験ではノーヘルの危険性を指摘

日本自動車連盟(JAF)は今年、危険性を検証する実験を公開。縁石や歩行者、自動車に衝突する3パターンで、特に頭部への衝撃が大きいことが分かった。歩行者にぶつかった場合、歩道を走れる時速6キロでも無防備な歩行者側のほうのダメージが大きかった。

JAFは、運転者にヘルメットの着用を勧めるとともに、自身がけがをするリスクだけでなく、他者に危害を加えてしまう可能性もあると訴えている。

一方、国交省の協議会が実証実験として2022年に発表した資料では、自転車専用道路だけでの実施で、重大事故はゼロ件だったと安全性を強調している。

田村智子参院議員(共産)は、規制緩和前から事故や違反が絶えない状況を危惧し、国会で追及。2022年4月の参院内閣委員会で「法改正は、事故急増の背景である電動キックボードの違反行為を合法化するもの」などと訴えたが、改正案は賛成多数で可決された。

電動キックボードは時速6キロなら特定の歩道を走ることができる。一方、自転車をめぐってはルール徹底の動きが顕著だ。2023年4月からヘルメットが努力義務化されたほか、警察庁は2022年11月に「自転車安全利用五則」を15年ぶりに改訂。「歩道は歩行者優先で、車道寄りを徐行」を削除し「車道が原則」の徹底に乗り出すなど、キックボードとは“逆方向”に進んでいるように見える。

田村議員は「車道と歩道を行ったり来たりできることの危険性は、自転車でわかっているはずです」「政府・警察は取締りを徹底するとしていますが、『モグラ叩き』のように、目の前の1人を取り締まっても、別の利用者が違反するという状態が続くと思います 。安全を確保するための規制強化も必要です」という。

●乗り物自動化の未来のために

田村議員は、改正法施行後の利用状況や事故件数など電動キックボードの実態についての国会での検証を提唱する。

「規制緩和が正しかったのか検証をしないとダメです。すでに重大事故は起きているので、2〜3年待つのではなく早い段階でおこなう必要があると思います。それが法改正した側の責任でしょう。

衝突時の頭部へのダメージなども実験などで指摘されています。身の安全を守る方向で考えるなら、電動キックボード利用時のヘルメット着用についても、(交通違反となるような)着用義務にするなどいち早く規制を強化すべきです」

藤井代表も、乗り物の未来のために対策が急務だと訴える。

「現在は速度が異なる乗り物が、道路に混在している状態です。事故が多発してフランス・パリのように廃止になってしまったら元も子もありません。急いでやらずに、安全基準をブラッシュアップしていく必要があるでしょう」

「キックボードだけでなく、今後は車も自動運転化していく未来となります。いずれは人間が運転するほうが危ないとされるでしょう。人間が操縦する最後の世代として、『人間はミスするもの』との前提で自動モビリティを安全に使うための方法を考えなければならない時だと思います」