コロナ治療薬めぐるインサイダー事件、控訴審が即日結審 法廷で語られていた「不穏な人脈」
新型コロナウイルスの治療薬開発を発表していた東京の医療ベンチャー「テラ」(破産)をめぐるインサイダー取引事件。東京地裁(須田雄一裁判長)は3月24日、金融商品取引法違反などの罪に問われていた医療コンサルタント会社「CENEGENICS JAPAN(セネジェニックス・ジャパン)」(破産手続き中)元取締役の被告人T氏(52)に懲役3年執行猶予5年(求刑懲役4年)の判決を言い渡した。T氏は控訴。9月6日、控訴審が東京高裁で開かれ、即日結審した。
一審の法廷では、どこまで事実かは不明ながらも、実に幅広い不穏な人脈が明かされていた。(ライター・高橋ユキ)
●法廷で明かされた、真偽不明の「不穏な広い人脈」
起訴状によれば、被告人T氏は株価吊り上げのため、2020年、テラ社の第三者割当増資でセネジェニックス・ジャパン(以下、セネ社)から「約35億円を資金調達する」としたテラ社の発表について、T氏が取締役を務めるセネ社の資金調達先口座残高が実際は約50万円であり資金調達の見込みがないにもかかわらず、75億円を超える残高を確認したというIR情報をテラ社に公表させたなどとされている。
昨年(2022年)9月の初公判で、T氏は「資金調達先の通帳原本を見たことがなく口座残高が約50万円であることを知らなかった」など、起訴事実を一部否認していた。しかし裁判所は「資金を調達できる具体的な見込みがあるかのように装った」などとしてT氏の主張を認めず「株価を高騰させて利益を得るという目的で犯行に及んだ」ことを認定した。
「コロナ治療薬の開発が完成することを確信していた。それで自分もセネ社も儲かると思っていた」と述べていたT氏。公判では「金融庁審議官に捜査の取りやめを依頼した」「令和の政商と言われる人物と3人でレストランで会った」など不穏な広い人脈を明かしている。
●金融庁の審議官の名前も出たが…
人脈エピソードとして、昨年10月の被告人質問でT氏は、セネ社に疑惑の目が向けられていることを逮捕前から認識していたとして、こんな証言を始めた。
「2020年7月、私が金融庁のI審議官から『セネ社が証券取引等監視委員会の内偵を受けている』という情報を得ました」
そしてかねてより面識のあった「“令和の政商”といわれる人物」と3人で食事をして「セネ社が捜査を受けていると聞いて、止めて欲しいと依頼しました」。また、10万円の会費を負担し、1本5万円の高級ワインを渡したともいう。
そしてT氏が言うには“令和の政商”から「捜査の取りやめに5000万円必要」であると言われ、金を振り込んだとも語った。
しかし当然、捜査は取りやめになることはなく、捜査、公判へと至っており、被告人のこの主張を裏付けるものは何もない。“令和の政商”とされる人物は「週刊文春」の取材に「彼の作り話を信用しないほうがいい」といって否定している。
●「打ち上げ花火の準備はもう1カ月前からしてんだもの」
不穏な証言が続くなか通帳の改ざんについても質問が及んだ。
弁護人「実際75億の通帳を改ざんしていますが、セネ社の資金調達先は、どの程度資金があると思っていましたか?」
T氏「満額集められると思ってました。当時は50億程度はあるだろうと思っていました」
残高が75億円あるように改ざんしたpdfファイルを作成し、テラ社や関東財務局などに提出している。さらに弁護士の名を無断で使い、これを証明するという内容の書面も作成していた。
公判の証拠には、2020年9月〜10月当時に関係者がT氏と会話した際の録音データがあるが「僕は2週間の間に、始まりを800 円ぐらいから、テンパって800円くらいから2000円に持っていこうとしてる」、「その仕込みを俺、準備してるの。打ち上げ花火の準備はもう1ヶ月前からしてんだもの」、「あとはここに行くまでの資金繰りだから」などといった発言がなされていることも明らかになっている。
判決ではT氏が「様々な材料を順次公表することによりテラ社の株価を高騰させていくことを計画していた」として「第三者割当増資の適時開示に関して株価変動目的を有していた」と認定している。
公判でT氏が明かした広い人脈やそのやりとりは、どこまでが事実か詳細は不明だ。判決後、筆者のもとには別の重大事件で収監中の受刑者からT氏についての情報提供が寄せられた。この情報提供についても、真偽には不明な点もあるものの、実に幅広い交友関係があったことはうかがえる。
T氏は資金調達に奔走したが叶わず、2020年12月に100万円の払い込みをしたにとどまったという。9月6日には東京高裁で控訴審が開かれたが、控訴趣意書を提出して直ちに結審。3分で閉廷した。