そごう・西武スト、ついに抜かれた「伝家の宝刀」 労働弁護士「新たな連帯の流れが生まれている」
大手百貨店「そごう・西武」の売却をめぐって、そごう・西武労働組合は8月31日、ストライキに踏み切った。西武池袋本店は終日、全館休業となる。大手百貨店のストは1962年の阪神百貨店以来の61年ぶり。
労組は雇用などへの懸念から、親会社のセブン&アイ・ホールディングスが米投資ファンドに売却する方針に対して反発、交渉を続けていた。セブンHDは30日、家電量販店ヨドバシHDと連携する「フォートレス・インベストメント・グループ」に9月1日に売却する方針。
東京都豊島区の西武池袋本店は、壁面ののぼりが下りたままで、地下や正面のシャッターには臨時休業の張り紙が各所に貼られていた。JR池袋駅東口の正面玄関には、開店時間の午前10時前からストを支持する労組関係者や多くのメディアが集まった。
今回のストの意義について、市橋耕太弁護士に聞いた。
●ストは「伝家の宝刀」
--事業の売却方針に対するスト実施にはどのような意味がありますか。
ストライキは、それ自体が目的ではなく、実施可能であることを背景に交渉力を引き上げることに主眼があります。
そごう・西武労組も、スト実施を通知することで拙速な売却決議をさせないようにする狙いがあったでしょうし、仮に売却決議がされたとしても、今後新たなオーナーとの間で行われる交渉に影響を与えるものになります。
--ストは減少傾向が続いていますが、効果は見込めるのでしょうか。
これだけの規模のストは近年では見られず、大手デパートではおよそ60年ぶりと言われています。
ストの効果について疑問を呈する声も聞かれますが、その効果は伝え方と受け取り方次第だと思います。
最も重要なことは、ストを単なる迷惑行為ではなく、労働者に認められた正当な権利行使であると我々消費者サイドが受け止めること、そして、報じる側がそのように受け止められるよう伝えることです。
ストを1日行うことによる売り上げへの直接の影響は大きくないかもしれませんが、企業イメージ等への影響も含めれば大きな効果を有する可能性があります。
--今回のストはどのように見ていますか。
当初の報道によると、親会社であるセブン&アイ・ホールディングスは、売却後の雇用維持について売却後の協議に委ねるという姿勢のようですが、それでは従業員・労働組合が不安に感じるのも当然です。
「伝家の宝刀」ともいわれるストですが、雇用を守るという労働組合にとっての至上命題のために、まさに抜くべき時に刀を抜いたといえるでしょう。
--労組側は今後どのように活動することが考えられますか。
売却決議が行われる見通しであることから、売却先も含めた交渉が今後も続くものと思われます。「いつでも刀を抜ける」ということを見せることができたそごう・西武労組には、今後も従業員の雇用を守るために粘り強く交渉を続けてもらいたいと思います。
また、そごう・西武労組は、連合(日本労働組合総連合会)傘下のUAゼンセンに加盟する単位組合ですが、今回のスト実施に対しては、他のナショナルセンターやその加盟労組、あるいはナショナルセンターに加盟していない労働組合からも支持の声明などが続々と出るなど、ナショナルセンターの潮流を超えた連帯の声が上がっていることも注目すべきです。
経営側には、こうした労働者の声に耳を傾けて、誠実に交渉に応じていただきたいと思います。
【取材協力弁護士】
市橋 耕太(いちはし・こうた)弁護士
日本労働弁護団事務局次長。ブラック企業被害対策弁護団副事務局長。労働事件・労働問題について労働者側の立場で取り組む。大学等で授業を行うなど、ワークルールの普及にも精力的に活動している。
事務所名:旬報法律事務所
事務所URL:https://junpo.org/