大人気となっている漫画【推しの子】。12巻まで発売されている(写真:編集部撮影)

2023年4月からテレビ放映されたアニメ【推しの子】。第1期は6月28日に最終回を迎えましたが、すでに第2期の制作が発表され、ますます盛り上がりを見せています。 原作は2020年から週刊ヤングジャンプで連載されているマンガですが、アニメ化によってどのような効果がみられたのでしょうか。

インテージが所有するIP(知的財産)に関する調査データベース 「IPファン-kit」のデータから、どのように浸透したのか、どの世代に支持され、何が魅力だったのか、を読み解きました。

「認知度」と「好意度」に大きな変化

【推しの子】は芸能界を舞台にしたマンガで、コミックスは12巻まで出ています。毎回テレビアニメ放映直後にはTwitterのトレンドに関連ワードが多数見られるなど、SNSでも盛り上がりを見せました。

アニメの主題歌であるYOASOBIの「アイドル」がBillboardの世界チャート(アメリカを除く)で1位を獲得するなど、関連コンテンツの話題性も高く、主題歌から【推しの子】を知った、といった人もいるのではないでしょうか。

このアニメ化で、人気はどのように推移したのか、「認知度」と「好意度」で測ってみました。

下の図はマンガもアニメも展開している人気IPの認知度と好意度をプロットした結果です。


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ここに、アニメ化前の2022年11月時点の調査結果とアニメ放映中の2023年5月の調査結果をプロットしてみると、認知度が10.1%から26.4%に、好意度が25.6%から34.3% に大幅に拡大していました。

元々、認知度は低めでも好意度が高い「奥行型ヒットIP」の位置づけにあった【推しの子】が、アニメ化によって認知度・好意度ともに高い「ヒットIP」に大きく近づいた、という評価ができそうです。

浸透状況の数字が一気に上昇

これらの数値の半年ごとの推移を、調査を開始した2021年5月から並べたものが次の表です。じわじわと認知、接触、好意を上げてきたあと、アニメ化で一気に各指標を上げていることが見て取れます。


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【推しの子】のアニメは、AmazonプライムビデオやNetflixといった大手の動画配信サービスでもオンデマンドで見ることができます。

認知の伸びよりも接触の伸びが大きいことからは、話題性の高まりによって認知した人に「見たい」と思わせる力が強まったということだけでなく、認知してコンテンツに触れたいと思ったときに、テレビや動画配信サービスで手軽にアクセスできるようになっているという状況が反映されているとも考えられます。

また、認知者の好意度がアニメ放映開始前の1.3倍に伸びたという結果からは、アニメ化によって新規に取り込んだファンの熱量の高さが読み取れます。

最後に、【推しの子】の魅力を調査結果から探ってみましょう。【推しの子】を好きな人に聞いた魅力をアニメ化前の11月とアニメ化後の5月とで比較した結果です。


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もともとのコンテンツの魅力として、「ストーリー・シナリオが良い」「謎がある」「シリアス」「ダークな」といった点が見られます。

さらに、アニメ化によって「演出が良い」「メッセージ性がある」「リアリティがある」「切なくなる」「泣ける」「感動する」といった魅力が加わった様子が見られます。動き・演出・セリフ・音楽などが加わって、視聴者にとって作品の世界がより身近でリアルに感じられるものになり、より感情移入しやすく、心に刺さった、といったことが考えられそうです。

SPY×FAMILYに次ぐ人気

では、どのような層に特に刺さっているのか、性別・年齢別に【推しの子】を好きな人の割合を見てみると、男女とも10代で特に人気が高いことがわかります。


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また、女性においては10代・20代を通してSPY×FAMILYに次ぐ人気となっており、ほかのコンテンツと比べて若年女性を多く取り込んでいるという評価ができそうです。

若年女性を多く取り込めたポイントはどこにあるのでしょうか。図は、【推しの子】を「好き」と答えた人に魅力を聞き、それぞれの性年代で特徴的だったもののトップ5です。


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性別や年代によって魅力を感じるポイントが全く異なり、若年女性は「かわいい」「感動する」「泣ける」というポイントに魅力を感じていることがわかります。一方で、30代以降になると「謎がある」「意外性のある」などが魅力として挙がっており、若年女性と比較すると作品との距離感がやや遠くなっているように感じられます。

若年女性に「刺さる」重要なキーワード

同年代の個性豊かなキャラクターたちが、困難にぶつかりながらも壁を乗り越えて成長していくストーリーが、感動や泣ける感情を搔き立て、加えて「かわいい」という要素が若年女性からの好感を得る大きな要因だったのではないでしょうか。「かわいい」と「感動」「泣ける」といったエモーショナルさは、若年女性に刺さる重要なキーワードなのかもしれません。

第2期の制作発表でまだまだ続きそうな【推しの子】人気。どのように変化していくのか、引き続き調査を続けます。

(寺牛 友美 : インテージ シニア・リサーチャー)