実家の食事に招きたいかどうかが、自分たちのコミュニティーのメンバーを決める1つの試金石となる(写真:Fast&Slow/PIXTA)

第42代アメリカ合衆国大統領のビル・クリントン、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス、グーグル元CEO(最高経営責任者)のエリック・シュミット、ChatGPTを開発したOpenAIのサム・アルトマンCEO――このそうそうたるメンバーが参加するアメリカ発の起業家コミュニティーがある。その名も「サミット」。

2023年8月30日に刊行された『MAKE NO SMALL PLANS 人生を変える新しいチャンスの見つけ方』は、4人の無名な “ビジネスのど素人”だった若者が、失敗と無茶を繰り返しながらサミットを立ち上げる過程を描いた、波瀾万丈のノンフィクションだ。

今回は同書から、サミットがイベント会社から永続的なコミュニティー作りを目指す会社に転換するターニングポイントとなった場面を紹介する。

コミュニティー作りでいちばん大事なこと

ザッポス(編注:アメリカのオンライン靴小売企業)のトニー・シェイが僕たちのところに来て、シンプルにこう尋ねた。


「このイベントで、君たちが実家に食事に招きたくないと思う人はいる? その人の個人的な成功とか仕事での活躍は別にしてだけど」

「ええ、何人かはいます」と僕たちは答えた。仕事では成功していても、この部屋にいるみんなが価値観を共有しているわけじゃない。僕たちはホワイトハウスから提供された、政権の価値観を反映する人たちのリストと格闘しつつ、自分たちで接触した人たちを少し加えていた。

「そういう連中は、君たちがこの先築いていくものには参加できないね」とトニーは言った。「コミュニティーを築こうと思うなら、いちばん大事なのは君たちのカルチャーだ」

トニーはその後『ザッポス伝説2.0 ハピネス・ドリブン・カンパニー』という本を書くなど、カルチャーを通じたコミュニティー作りのコンセプトを誰よりも理解していた。残念なことに、2020年にトニーは亡くなってしまったけれど、彼が僕たちの組織にもたらした影響はコミュニティーが続く限り生き続けるだろう。彼があの夜僕たちに授けてくれた知恵によって、サミット・シリーズの方向性は変わった。

打ち上げのパーティーは深夜2時に終わったが、僕たち4人は今回経験したことについて夜明けまで語り合った。有頂天になっていたわけじゃない。成功したこととしなかったことをあぶり出して、サミット・シリーズをこの次どうするかを確かめ合ったんだ。

トニーのおかげで、僕たちは自分たちの会社を単発のイベントを次々に開催するイベント会社ではなく、永続的なコミュニティーを作っていく手段にしようと考えるようになった。そうなると、次の2つのシンプルな問いが参加者の資格となる。

1. 自分たちが招待したい人たちは、世界で画期的なことをしているか。

2. その人たちは心優しく、成長を心から願う開かれた心の持ち主であるか。

この基準は単純明快だけど、とても説得力がある。この2つの問いによって、サミット・シリーズの方向性は劇的に変わった。あの晩まで、僕たちには自分たちが築きたいものを表現する言葉が欠けていた。僕たちはユタ州とメキシコで2つのイベントをこなしていたが、コミュニティーというもっと大きな意味でサミット・シリーズをとらえていなかった。

アイデアは、それにふさわしい言葉で言い表して初めて具体化される。僕たちが参加者として来てほしいと思うようなとても優れた人たちは、そう簡単に集められるわけじゃない。だから、そういう人たちを招くときに大事なのは、サミット・シリーズを明確かつ簡潔に定義し、なるほどと思わせることだ。自分の使命をはっきり説明できれば、ほかの人たちから信用が得られるし、自分自身の信念も確かめられる。

どれだけ資産があるかは問わない

僕たちが新たに作った参加基準を見ると、どれだけ資産があるかは問わないということがわかるはずだ。

僕たちのイベントの対象は、フォーチュン500のリストに入るエグゼクティブに限らない。

たとえばアーティスト、慈善事業の代表者、科学者、シェフなど、幅広い才能に門戸を開いている。いずれも僕たちのコミュニティー作りに寄与して、中身を充実させてくれる人たちだ。つまり、僕たちと情熱を共有する人たちなら誰でも参加できることを明確にした。「世界を変える25歳未満の25人」リストの人たちに限らず、広く募りたい。

アスペンのイベント(編注:招待の方法を失敗して参加者の怒りを買った)のことをもう一度考えて気づいたことがある。自分たちを窮地に追い込んだのは下手にこしらえたメールの言い回しであって、コンセプトそのものじゃない。透明性を保つどころか、ユーモアを盾にしてその中に隠れてしまったのがいけなかった。繊細に振舞うどころか、生意気だった。他人のことを考えず、自分たちのことばかりを考えていた。

今なら自分たちの物語の伝え方がわかる。自分たちが作ろうとしているのは、業界や学問の分野を超えてイノベーターが集まるコミュニティーなんだって、今だったら説明できる。思いやりと柔軟な考えを持っていて、仕事の成功に関係なく僕たちが友人になりたいと思う人たちの集まりだ。

そんなコミュニティーに参加したくない人なんているだろうか。

僕たちのこれまで、これから

ホワイトハウスのイベントの翌朝目を覚ますと、僕たちはもうこれまでみたいに、ぬかるみをとぼとぼ歩きながら、アスペンのイベントを決して失敗させまいともがいているような気分ではなくなっていた。前に進む方法がはっきりと見えていて、心の準備ができている。


ホワイトハウスのイベントのおかげで僕たちはセカンドチャンスを手にしただけでなく、キャリアも一段積むことができた。イベントの前、みんなから僕たちのこれまでを聞かれて、何と答えられただろうか。メイシーズでファストファッションを大量注文していましたとか、父親のネットのニュースレターで広告枠を売っていましたとでも言っただろうか。

確かに、僕たちは起業家のために何回かパーティーを開いたことがある。でもホワイトハウスのイベントを経験したことで、僕たちのキャリアにはこれまでにない箔が付いた。今の僕たちには語るべき言葉がある。影響力のある人たちとつないでくれる新しい友人もたくさんできた。

僕たちは、この新たなモチベーションとチャンスとを現実に生かさなきゃいけない。今、アスペンのイベントが間近に迫っているのに、チケットの売れ行きはかんばしくない。だから僕たちは新しい友人たちを早急に見つける必要がある。

(翻訳:大田黒奉之)

(エリオット・ビズノー : サミット創業者)
(ブレット・リーヴ : サミット創業者)
(ジェフ・ローゼンタール : サミット創業者)
(ジェレミー・シュワルツ : サミット創業者)