管理職の高速返信は、チーム全体のスピード感を高めたり、意思決定のスピードのトレーニングにもなる。外資系管理職に共通する、仕事のルールについて解説します(写真:ふじよ/PIXTA)

「日本人の2倍働いて3倍稼ぐ」と言われる外資系管理職だが、どうすれば、そのような働き方ができるのか。また、AI・テクノロジー社会で生き残る管理職の条件とは何か。

このたび、ロングセラー定番書の新版『新 管理職1年目の教科書 外資系マネジャーが必ず成果を上げる36のルール』を刊行した櫻田毅氏が、「2倍働き、チームの成果を最大化」する外資系管理職に共通する、意思決定、部下育成、権限委譲などの仕事のルールについて解説する。

多くの管理職が、「もっと、スピード感を意識しろ!」と部下に訴えています。しかし、部下は部下で、「もうやっていますよ」と思っているかもしれません。であれば、自分が率先して、スピード感とはどういうものかを示す必要があります。

最もわかりやすいのは、部下のメールに対する高速返信です。「それ、何の意味があるの?」と思われるかもしれませんが、管理職の高速返信は、実はチーム全体のスピード感を大きく高めていく効果があります。

仕事ができる人は誰もが高速返信族

30年間以上、日米の企業で数多くの人たちと関わってきた私の経験から断言できるのは、仕事ができる人のメールの返信はとにかく速いということです。


外資系金融トップのCEOから、グラフ作成や経費精算で仕事をサポートしてくれるアシスタントに至るまで、できる人からは本当にサクサクと返信が来ます。

某サービス企業の副社長に打ったメールに対しても、数分後には返信があり、その後の往復2回半のやり取りで用件終了です。この間、わずか15分。某国際派弁護士の先生に送った質問メールに対しても、10分後には完璧な内容の返信があり、これまた、あっという間に用件終了。このような例は数え上げたらきりがありません。

彼らの狙いは、つねに相手側に仕事を渡しておくことで、相手の仕事を止めないことです。相手のメールを自分が握りこんでしまうと、相手にアイドリングタイム(待ち時間)を生じさせてしまい、その案件に関する仕事が停滞します。

とくに、相手が部下の場合、返信が遅れることで、その仕事を待たせることになります。「その件は課長の返事待ち」、といった事案が蓄積されていくと、気づかないうちに自分がボトルネックとなってチーム全体のスピードが低下していくのです。

イノベーションを起こし続ける企業として有名な、米グーグルの元CEOエリック・シュミット氏らも著書の中で同様のことを言っています。

「私たちが知っている中でもとびきり優秀で、しかもとびきり忙しい人は、たいていメールへの反応が速い。私たちなどごく一部の相手に限らず、誰に対してもそうなのだ。メールに素早く返信すると、コミュニケーションの好循環が生まれる」(『How Google Works ─私たちの働き方とマネジメント』日本経済新聞出版社)

高速返信は優れた意思決定力の表れ

高速返信族の本質的な強さは意思決定力の高さです。部下の提案に対する判断から日程調整やミーティングへの出欠まで、ことの大小にかかわらず、返信するためには何かを決めなければなりません。ビシバシ返信するということは、ビシバシ決めているということです。

一事が万事で、彼らはあらゆる場面で意思決定の速さが抜きんでています。その結果、仕事のスピードが速まり、時間当たりのアウトプットも高くなります。

逆に、返信を保留してしまう人は、どう返信すべきかをすぐに決めることができない人です。仕事のスピードも残念ながらイマイチです。

そのことを知っている高速返信族は、口に出してこそ言いませんが、メールの返信スピードで相手の力量を測っています。

このように、迅速な意思決定がメールの返信スピードを高めているのであれば、逆に、メールへの返信スピードを高める努力を続けていけば、それがトレーニングとなって、次第に意思決定のスピードも速くなっていきます。

とくに、管理職になりたての人の場合、決めることに慣れていないこともあり、どうしても慎重になってしまいます。そのようなときこそ、開いたメールにその場で返信する習慣を意識すれば、決めることへの不安がなくなり、必要があれば訂正すればいいという覚悟もできてきます。

ニワトリが先かタマゴが先かなんて考えている暇があったら、1秒でも早くビシバシとメールを返信してしまいましょう。

メールのチェックに気をとられすぎると、本来の自分の仕事のペースを乱してしまうという指摘もあります。もし、自己完結度合いの高い仕事をしている人であれば、自分のペースでやればいいでしょう。周りに大きな影響を与えることがないからです。

しかし、管理職という立場の人が優先させるべきは自分の仕事のペースではなく、部下の仕事のペースを落とさないことです。何より、管理職にとっての「本来の自分の仕事」には、部下とのコミュニケーションも含まれていることを忘れてはなりません。

もちろん、四六時中受信ボックスを眺めている必要はありません。大切なことは、どのような頻度でチェックしたとしても、「開いたメールにはその場で返信する」ということです。

ただ、私の経験上、仕事ができる人からは、おおむね3時間以内には返信があります。仕事や会議、移動の合間に、最低でも3時間に1回はチェックして、その場で返信しているからです。

相手の時間を大切にするからこそ待たせない

高速返信は相手を尊重する気持ちの表れでもあります。30代で米国系証券会社のマネジング・ディレクター(執行役員格)になったAさんから、「相手を大切に思えば、待たせることなんてできないんですよ」と聞きました。

できるだけ早く返信するという行動の根底には、相手の時間を無駄にしないという気持ちがあるのです。そのような気持ちが行動を通して部下や顧客に伝わると、単にスピード感のある人というだけでなく、自分を大切にしてくれる人、信頼できる人だと思ってもらえ、仕事は加速度的にやりやすくなります。

逆に返信が遅いと、相手を不安にしたり無視されていると思われたりします。顧客にやっと返したメールに「遅くなって申し訳ありません」の一文を書き忘れただけで、内容に関係なく失礼な人だと思われてしまうことさえあります。

高速返信は、相手を大切にしたいという気持ちが根底にあることで、結果的に良き関係づくりにもなっているのです。

自ら高速返信でスピード感を示すことでチームの仕事に勢いがつき、やがて部下たちも高速返信の習慣が身についてきます。チーム全体として、意思決定のスピードが上がってくるのです。

仕事は原則として、「決めて実行する」ことの繰り返しです。迅速に決めて迅速に実行することが当たり前になってきたチームが、スピード感のあるチームです。

(櫻田 毅 : 人材活性ビジネスコーチ)