「60歳前後での結婚」は実際問題、うまくいくのか
アラカン前後で結婚した3組の夫婦のリアルを追いかけます(写真:8x10 / PIXTA)
35歳以上で結婚した「晩婚さん」のリアルを知りたい。そんな想いで始めた本連載も今月で9周年を迎え、取材したカップルは240組を超えた。
その後が気になる取材先は少なくないが、今回は「取材時に夫婦どちらかが60歳を超えていたカップル」を再び訪ねたい。夫婦仲はもちろん、健康や親戚関係なども気になるからだ。
前編記事では、年の差婚をした3組のカップルをとりあげた。続くこの後編ではほぼ同世代との超晩婚を果たした3組に登場してもらう。
熟年離婚の後、再婚したあのご夫婦は…
まずは、熟年離婚をした後、5年前に結婚相談所に入会して3カ月後に結婚を果たした野粼澄江さん(仮名、66歳)。
熟年離婚から再婚に至った澄江さんと学ぶさんのカップルを取り上げた過去記事(イラスト:堀江篤史)
夫の学さんはゴルフや釣りが大好きで家の中でじっとしていられない性格。今日もとっくに出かけてしまったらしい。当時、同じく本連載に登場してくれた長女の上村由里さん(仮名、42歳)がZoom取材に応じる澄江さんを遠隔設定で手伝いつつ同席してくれている。
「お互いに60歳を超えてからの結婚ですけど、主人は初婚で、私は結婚も子育ても離婚も経験していますからね。3人の子どもはそれぞれ家庭があります。私と主人とでは人生の厚みが違いますよ。(学さんという)もう一人の子どもを育てているのだと割り切っています」
3年半前に都心の喫茶店で会ったときのような華やかな外見ではなく、ほぼすっぴんで応じてくれる澄江さん。自宅での取材対応だからなのだろう。ただし、やや毒舌なトークは相変わらずだ。
澄江さんが住んでいるのは学さんの持ち家。神奈川県内の高級住宅地にある4LDKの一軒家だ。ただし、築30年で、母親を亡くした後は学さんが一人で長く住んでおり、「建物も人間もガタがきていた」と澄江さんはユーモラスに毒づく。片付けながら暮らしているものの、最寄駅から離れていることもあって不便を感じている。老人介護施設に入る前に、駅近のマンションに2人で移り住む予定だ。企業年金に加えて、不動産収入もある学さんは定年後も「甲斐性」を発揮している。
澄江さんは経済的な安定がこの結婚のメリットだと明言する。その他にも、料理の作りがいがあるので自分の食生活も改善した。お金と健康は老後に重要な要素だ。
「デメリットもありますよ。私たちは価値観が合わないことです。日々の会話がかみ合いません。私がボケを言っても、100のうち2つぐらいしかツッコんでくれません。でも、真面目な人なので『こういうふうにツッコミを入れてよ』と教えると、素直にやってくれます。男はこうあるべきだという考え方が強い人なのでモラハラ発言もありますが、そのたびに私がポキポキと折るようにしています」
なんだかんだ言って相性の良い夫婦なのだろう。昨年末に由里さんが高齢出産を果たした際は、産前産後の1カ月ほどは澄江さんと学さんが住む広い家で暮らしていた。
「私たち夫婦は寝る部屋もテレビを観る部屋も別々です。日中は元気すぎる主人は外で遊んでいます。私にはママさん支援のボランティア仲間ができました。女だけの旅行も楽しんでいます。基本的に別々に行動するのが夫婦円満の秘訣ですよ」
毒づきながらも幸せそうな澄江さん。気軽に言いたい放題に言える環境が何より大事なのだ。そして、そのためにやるべきことはやっている大人でもある。この人はさらに数年後も変わっていない気がする。
20年勤めた建築会社をセミリタイア
次に登場するのは、再婚するまではそれぞれ、離婚して一人娘を育てていた大谷幸太郎さん(仮名、66歳)と恭子さん(仮名、60歳)のカップル。結婚後、都内にある幸太郎さんの実家があった場所に新築の一軒家を建てて2人で住んでいる。
つらい離婚の後、再婚を選んだ幸太郎さんと恭子さんを取り上げた過去記事(イラスト:堀江篤史)
「妻の勤め先である建築会社にお願いしました。社割価格でやっていただけてありがたかったです」
控えめながらも溌溂とした雰囲気の幸太郎さん。8年前に設立した機械部品関連の会社も順調なようだ。
「そんなにカッコいいものではありませんよ。夫は会社経営者というよりも個人事業主です。朝早くから一人でがんばっています」
恭子さんがすぐにカットインしてきた。幸太郎さんはひたすら真面目で穏やかで、恭子さんがツッコミ役を担っているようだ。恭子さんのほうは20年勤めた建築会社をセミリタイア。娘や友だちとの海外旅行を楽しんでいる。
この間に悲しい出来事もあった。結婚披露パーティーの直後、幸太郎さんの母親と父親が相次いで亡くなり、さらに恭子さんの母親も他界したのだ。60代で親を看取るケースは少なくない。恭子さんはこのように振り返る。
「私たちが夫婦になり、2人の娘も含めて幸せな家族になったのを見届けて、親たちは安心してくれたのだと思います。親を見送るのは大変ですが、支え合う相手がいたのは本当に良かったです。私一人でも同じ見送り方をできていたかもしれませんが、悩みすぎずに進むことができました」
幸太郎さんの娘は35歳になり、8年越しの恋人と今年に婚姻届を提出。来年が結婚式らしい。恭子さんが冗談で「お父さんをあなたに返そうかしら」と言うと即座に「返品不可!」との答え。良好な母娘関係がうかがえる。
恭子さんの娘は27歳で、仕事に邁進している。幸太郎さんの意向で養子縁組を結び、「本当の親子」になった。
「遠慮なく日ごろから話してくれています。私は娘2人の家族が理想だったので、この歳でかなって最高の幸せです」
勇気を出して婚活をしてナイスリカバリーな人生だと繰り返す幸太郎さん。一方の恭子さんはやや現実的な観察をしている。
「同世代の友だちからは『私はむしろ卒婚したいのに、あなたはなんで今さら結婚したの? また親戚が増えちゃうよ』なんて言われることがあります。特に子育ては一大事業なので、途中で仲が悪くなってしまう夫婦は少なくないのでしょう。
主人(幸太郎さん)とも若い頃に出会って結婚していたら一緒に子育てを無事にできたのかはわかりません。だったら、子育てが終わってから別れて、それぞれ別のパートナーを見つけるのもありだと思います」
「まさかの展開になりました」
最後は、今年3月に本連載に登場してもらったばかりの浜野明子さん(仮名、58歳)と西山淳平さん(仮名、62歳)との事実婚ケース。
58歳で電撃婚したはずだった明子さんと淳平さんを取り上げた過去記事(イラスト:堀江篤史)
実は、この記事公開の直前に「先日、大宮さんとパートナーと楽しく3人で飲んでお話ししたというのに一気に破談の気配です。(中略)まさかの展開になりました」という不穏なメールを明子さんからもらっていた。その後、どうなったのか。
「彼とはときどき連絡も取っているし、私が東京に戻ったときは会って飲んだりしていますが、基本的に終了済み、な感じです」
やはり同棲および夫婦関係は解消してしまったようだ。そもそも2人とも事実婚を希望していたわけではなく、淳平さんは自分が妻の浜野姓になってもいいからと法律婚を望んでいた。明子さんはそこに一歩足を踏み込めなかった。自宅に西山さんが住むようになって違和感があったことが大きい。
明子さんは現在も東北にある実家で親の介護をしながら在宅ワークをしている。東京にある明子さんの持ち家には淳平さんが一人で暮らしていたが、その使い方への不満が消えなかった。
「今は彼が住んでいるのだし家賃も入れてもらっていたのだから、片付いていなくても彼主体と割り切れれば良かったのですが、『私の家なのに!』という気持ちが捨てきれず、自分の領域を汚される気分になっていました。そこは完全に私が悪かった部分です」
淳平さんにも片付けができない以外の問題があった。寂しがり屋で浮気性なところだ。
超晩婚生活で養われるもの
「彼はいつも誰かと一緒にいたいんだと思います。私が介護で実家に戻ることはわかっていたことでしょ?と思っていたけど、ちょっと浮気したみたいです。詰めが甘いので私に見つかってしまいました。実際の距離も離れているところにそういうことも起きたので、関係も徐々に薄れていった感じです」
そんな別れ方をしたのに明子さんは淳平さんとときどき会っている。なぜか。
「私は人間関係をあんまり切りたくない性質なんです。30年近く前の元カレや昔の同僚なんかとも続いています。一度は深い関係を持った相手でお互いに憎み合ったわけでもないのなら、困ったときには助けてあげたいと思います」
浮気をされたとしても相手だけが一方的に悪いわけではない、という達観。そして、危険ではない人間関係はこちらから完全に断ち切ったりはしない、という知恵。人生経験が豊富な大人ならではの決着のつけ方かもしれない。
東京に戻るときはスッキリした部屋に帰れて快適で、友人を招いてもまったく恥ずかしくないと語る明子さん。憎めないキャラクターだけどだらしないところがある淳平さんとの共同生活がストレスになっていたのだろう。彼との人間関係が続いていることもあり、寂しさは不思議なほど感じていない。
この連載の一覧はこちら
「改めて次のパートナーを探そうともしています。恋愛感情は生じていないものの、歩き友だちはできたので中山道を一緒に歩き始めました。結婚や同居という形はもう要らないかなとも思いますけど」
配偶者の介護、乳幼児の子育て、定年後の生活、高齢の親の看取り、事実婚関係の終了……。60歳を超えて結婚した“超晩婚さん”たちが向き合っている課題や環境はさまざまだったが、共通するのは自分自身の気持ちと生活を最優先しつつ、配偶者を含む親しい人たちと折り合いをつけていく姿勢だと思う。
何よりも自分が快適に過ごせること。そして、身近な人も幸せになること。きっと両立できるという図太い信念のようなものが、超晩婚生活によって養われているのだ。
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(大宮 冬洋 : ライター)