少子化がいよいよ進み、高齢化社会へまっしぐらに加速する今、世間からの風当たりを強く受けがちなのが、子どもがいない人たちです。特に女性は「なぜ子どもをもたないのか」という、周囲の何気ない声はもちろん、社会から受ける暗黙の「圧」にも苦しんでいることが少なくありません。

そうした中、子どものいない女性を応援するのが「マダネ プロジェクト」。主宰するくどうみやこさんに、会の活動のなかで気を付けていることなどを教えてもらいました。

この記事の前編:「子どもがいない人生」に苦悩する女性たちの本音

子どもがいない理由は千差万別

――くどうさんは「子どもがいない人」を支援するマダネ プロジェクトを運営されています。会の運営で、日ごろ気を付けていることはありますか?

マダネの参加者は「子どもがいない」という共通点があるだけで、いろんな方が参加している点が特徴だと思います。結婚しているかどうかを問わず、年齢を問わず、子どもがいない理由も問わず、欲しかった人からもたない選択をした人まで、さまざまです。そういう会って、意外と世の中にないんですね。「不妊治療をしたけれど授からなかった」という人の会などは結構あったりするんですけれど。

年齢も20代から80代まで、本当にいろんな方が参加してくれている。マダネはその多様性こそ、大事にしたいなと思っています。でも、その考えに至るまでは、とても悩みました。


くどうみやこ/大人ライフプロデューサー、トレンドウォッチャー。大人世代のライフスタイルからトレンドまで、時流をとらえた独自の視点で情報を発信。メディア出演から番組の企画、執筆、講演など、活動の幅は多岐にわたる


(画像:『まんが 子どものいない私たちの生き方: おひとりさまでも、結婚してても。』より)

――なぜ悩んだのでしょう?

参加する方は、最初はどうしても、同質性、つまり自分と近い理由や環境を求める傾向が強いんですね。そのほうが共感するし、安心するから。それで参加者の方から「子どもがいない理由や属性ごとに、会を分けてほしい」と言われることがとても多かったので、「そうしたほうがいいのかな?」と、私も一時はすごく迷いました。

でも、それもどうなんだろうなと。世間で「子どもがいる人/いない人」で分けられるように、子どもがいない人の中で「不妊治療組」「欲しくない組」「シングル組」みたいに分けて線引きするのも違うような気がして。 それよりも、参加者がお互いに「子どもがいないと一口に言っても、こんなにいろんな考えがあるんだ」と知って、視野を広げるほうがいいんじゃないかなと。視野が広がると、「子どもがいないと幸せじゃない」みたいな考えが、ゆるんでいくところもあるんですね。

「あ、そういう考えもあるよね。そうか、私が思い込んでいただけかも」と、前向きになれたりもする。

いる人/いない人って、そんなに関係ない

――くどうさんのご本に「『子どもがいる/いない』の二項対立にしないことが大事」という言葉がありました。二項対立をやめると視野が広がるんでしょうか。

そうですね。だからマダネでは、あえていろんな方に参加してもらうことで、「どんな形の家族があってもいいよね」という方向に視野が広がればと思っています。最近は「マダネは、そこがいい」と賛同してくれる方が増えてきました。

ただし、参加者は「子どもがいない人」に限定しています。ものすごく子どもが欲しかったのにもてなくて、というセンシティブな時期の方も参加するので、「ここにいるのは子どもがいない人だけだから、安心して話してね」というところで、まずは吐き出してもらう。そうやってだんだんと気持ちがゆるんでいくと、「いる人/いない人って、そんなに関係ないよね」となっていくことも多いです。

最近は逆に、子どもがいる人から「すごくいい活動だよね」と応援してもらうことも増えました。「子どもがいない人の思いや状況は、もっと世間に知られるべきだね」「こういう会がもっとあったほうがいいよね」とか。お互いそうやって理解し合えるのが一番いいかな、と思ってやっています。

――参加した人の反応は、どんな感じですか?

最初は泣いちゃう人もいるんですけれど、最後はみんな、大笑いなんですよ。みんな「わかるわかる!」って盛り上がって、「うるさくてよく聞こえません」みたいになる(笑)。来たときと帰るときの温度差が、ものすごくあるんです。みんなだんだんと、前向きになってきますよね。

――前向きになるのは、1回の参加でですか? 回を重ねるごとに?

それは結構、個人差があります。私自身はどちらかというと早く回復したほうですけれど、すごく時間がかかる人もいるので。以前アンケートを取ったら、回答がすごくばらけたんです。1、2年という人もいれば、5年以上かかる人もいる。でもそれはそれでよくて、自分のペースで、ちょっとずつ前向きになればいいと思うんです。

たとえば、こんな方もいました。最初はひと言もしゃべれなくて、一時間ずっと泣いているだけ。話しかけると「だいじょうぶです、聞いているだけで」って。でも何回か参加するとだんだんしゃべれるようになって、そのうち「サポートスタッフをやりたいです」と言ってくれたりして。「変わったって言われるでしょ?」と聞くと「夫にもすごく明るくなったって言われます」と。みんな、憑き物が落ちていくような。

稀に、何年経っても同じ位置にいる方もいますけれど、たぶんそれはそれで、自分の心のバランスがとれているんだと思うんですね。必ずしもすぐに立ち直らなきゃいけないわけではないし、子どもが欲しかった思いをゼロにしなきゃいけないわけでもない。波もあるし、それぞれの人のなかで「今の自分」を受け止められればいいんじゃないかと思います。

企業や社会の理解を得づらい現状がある

――マダネ プロジェクト、最近は変化などはありますか。

コロナのときはずっとオンラインでしか会をできなかったんですが、昨年の後半からリアルでも再開しました。1テーブルに8人掛け、それを3テーブルで、1回の人数は24人。だから、すぐ満席になってしまいます。7月末に開催の回も、募集開始から 4、5時間で埋まってしまいました。

内訳はリピーターが4、5割と、新規の方が5、6割くらいですね。以前参加した方は、すぐ埋まるのを知っているから遠慮されたりして。そういう会を、年に4回くらい、開催しています。

――もっとやってほしいとリクエストをもらっても、マダネの活動はみなさん謝礼が出るわけではなく、手弁当ということ。難しいですよね。私も、いろんな形の家族の形をアリにしようと「定形外かぞく」という活動をしていますが、年1回のイベント開催が限度です。

いやもう、増やせないです。運営は参加費でなんとか補っている状態で、スタッフも全員ボランティアなんですね。時間も結構取られるし。参加者のみんなが喜んで、元気になってくれるから頑張れるよねっていう、スタッフみんなの気持ちだけで続けています。

以前、企業をまわって協賛をお願いしたこともあるんですが、「子どもがいない人のサポートはちょっと……」という感じで、通らないんです。いまは少子化だから、子どもがいない、もたないという人を支援しにくいのでしょうか。


(画像:『まんが 子どものいない私たちの生き方: おひとりさまでも、結婚してても。』より)

でも、子どもがいない人たちも、それぞれにつらさを抱えている。それでもこうやってつながって思いを浄化することで前向きになって、外にも出られなかった人が働き出したりするわけで。だから、マダネは社会に貢献していると思うんです。でもそれを、社会や企業さんにはなかなか理解してもらえない。「子どもがいる人もいない人もフラットに応援しますよ」っていう企業も、出てきてくれたらいいですね。

「言っちゃいけない」とされてきた気持ちを解放する

――本当ですね。最後に、世の中にどうなってほしいって思われますか?

誰もが堂々と、自分らしく生きられる社会が、やっぱり一番理想だなと思います。いまはライフコースが本当にたくさんあって、どれを選択したっていいし、どの選択肢にも優劣はない。ほかの人の人生に自分の価値観を押し付けちゃいけないよ、ということを、もっとみんなが知ってくれるといいですよね。だから、こういう記事を発信することも、とても重要だと思います。


(画像:『まんが 子どものいない私たちの生き方: おひとりさまでも、結婚してても。』より)

――あとは、私たち自身が変わっていくことも必要ですね。

そうですね、ただ、悩んでいる人は自分で解消することがなかなか難しいんです。一人で悶々と考えていても、どんどん落ち込んでしまうので、まずは思いを吐き出すのがすごく大事だと思います。誰にでも話せることでもないので、安心して話せる場とか、この人なら安心して話せる、というところに自分の思いを吐き出すこと。


その次に、「同じ立場の人の話を聞く」というのも、すごく重要ですね。「こんなふうに思っているのは、自分だけじゃなかったんだ」とわかって、徐々に自分と向き合えるようになったり、ほかの人の価値観に触れることで、自分のなかで凝り固まっていた部分に気付けたりもする。

去年『母親になって後悔してる』という本が注目されましたが、マダネでも話題になりました。母親になると、世間から「母親」というラベルを貼られて、いろんなものを求められる。そういうふうになれない自分はおかしいのかな、って悩む人もいる。

――子どもが欲しくない人たちの悩みとも、重なりますね。

そうなんです。立場は違うけれど、根底で縛られている部分は同じなんですよね。そういう、いままで「言っちゃいけない」とされてきた気持ちなどを、ちょっとずつ解放していけるようになってきたのはいいことですね。

この記事の前編:「子どもがいない人生」に苦悩する女性たちの本音

(大塚 玲子 : ノンフィクションライター)