(左)佐藤浩市さん(右)横浜流星さん(©2023映画『春に散る』製作委員会)

最新主演作『春に散る』(2023年8月25日公開)でボクサー役を演じ、撮影中にプロテスト挑戦を決意。そこから猛練習を経て合格し、プロボクサーC級ライセンスを取得したことが話題になった若手俳優・横浜流星。役に向き合うストイックな姿勢が印象的な横浜は、2025年の大河ドラマ『べらぼう 〜蔦重栄華乃夢噺〜』の主演も決まり、俳優人生の次なるターニングポイントを迎えつつある。そんな若き才能のまっすぐな仕事観と人生観に迫った。

俳優にならなければ格闘家を目指していた

──佐藤浩市さんとW主演する『春に散る』は、作家・沢木耕太郎さんの小説を瀬々敬久監督が映画化した、ボクシングに生きる世代の異なる2人を主人公にした人間ドラマです。本作への出演を決めた理由を教えてください。

自分はこの業界に入らなかったら、格闘家を目指していたと思います。本作に出演することで、仕事を通して夢をかなえられる楽しみが大きくて、オファーを快諾しました。その反面、ボクシングにもボクサーにもリスペクトがあるから、生半可な気持ちではやれない。覚悟が必要ではありました。

広岡仁一(佐藤)と黒木翔吾(横浜)は、同じような境遇で、一度は失敗する人生を歩んできました。でも、2人が出会ったことで再挑戦する道が開ける。そんな2人の姿に背中を押されました。

翔吾が今を心から真剣に生きている姿は、自分自身が生きていくうえで大切にしていることでもあります。だからこそ翔吾の言動には、すごく共感できるものがありました。

──ボクシングシーンは映画の中の芝居とは思えない迫力でした。

撮影でいちばん大変だったのはボクシングシーンです。自分は空手経験もあるので、形だけで見せることもできましたが、そうはしたくなかった。ボクサーに失礼がないようにやらないといけない。スタッフ、共演者、みんなが本気で取り組んでいました。

とことん突き詰めたくなる性格

──横浜さんはプロテストを受けて、プロボクサーC級ライセンスを取得しました。

いままでのボクシング映画とは違うことを証明したかったので、自分から責任を持って壁を乗り越えようと思いました。その覚悟としてプロテストを受けることにして。プロテストに向けた2カ月間、必死に猛練習しました。


『春に散る』のシーン(©2023映画『春に散る』製作委員会)

──所属事務所から止められませんでしたか?

もしプロテストがヘッドギアなしだったらマネージャーに止められていたと思います(笑)。ケガは絶対にしないと説得して、挑戦させてもらいました。一発で合格できてホッとしています。

──ドラマ『DCU』(TBS系)で潜水隊員を演じたときもスキューバダイビングのライセンスを取得しました。その姿勢は、役柄を突き詰めていくこだわりからでしょうか。

そうですね。基本的には、演出やカメラアングルでそう見せることはできるんですけど、本当にその人の気持ちになりたいというか、少しでもリアルを追求したい気持ちがあります。そこが原動力になって、挑戦したいという想いが強くなっています。好きなこともそうですけど、一度携わったことをとことん突き詰めたくなる性格です(笑)。

──資格の取得は、その先の芸能活動の中で活かせるという狙いもありますか?

それもあります。挑戦したことは、芝居でも、これから生きていくうえにおいても、きっと活きてくると思います。今回のプロテストでは、対戦相手はこれからボクシングで生活していく選手であり、人生をかけて自分を倒そうとしてきました。そこにある本気さと、リングで向かい合うことで得た経験、感じたことは、この先の自分の人生の糧になっていくと思います。

──今回はボクシングでしたが、私生活の時間をかなり割いて、トレーニングを積んでいたのではないでしょうか。

今回はとくにそうでした。トレーニングだけでなく、格闘家の友人に食事の相談をして、ボクサーと同じ生活をしていました。計量シーンはなかったのですが、試合シーンの撮影前日は、体重をフェザー級の57.15キロに合わせました。そこからリカバリーして、撮影当日は60キロくらいに戻して。プロボクサーと同じ気持ちになって臨んでいました。

──“そう見せる”芝居をしているほうが楽そうですが、そうではない道を選ぶのは横浜さんのこだわりでしょうか。

そっちのほうが楽しいからです。自分も翔吾と同じで、人生一度きりだし、いつ何が起きるかわからないから、後悔したくないという気持ちがあります。自分にとって厳しい道をつねに進んでいきたいと思っています。

──仕事に向き合うストイックな姿勢が印象的です。

自分は不器用なので、できる限り役柄になりきりたいと思っています。だらしない人物の役であればそういう生活をしますし、ストイックな人間なら私生活もそうなります。作品や役柄によって生活がすごく変わります。今回の作品は、とくにプライベートの時間まで気持ちを引きずっていたかもしれないですね。

役柄とは適度な距離感を保つ

──役柄との距離感はどう考えていますか?

ずっと役でいることが必ずしもいいわけではないと思っていて。入り込みすぎるのも視野が狭くなって逆によくない。まわりと会話ができないのは作品作りにおいていちばんダメなので。入り込みつつも、ときには離れる適度な距離を保つことを心がけています。


『春に散る』のシーン(©2023映画『春に散る』製作委員会)

──オンオフの切り替えはどうしていますか?

つねに頭のなかのどこかで役のことを考えています。でも、風呂に入っているときは、すべてを忘れてリラックスします。体の疲れをしっかりとるために必ず湯船に入るんですけど、お湯に浸かっている時間は音楽を流してぼーっとしています(笑)。

──今作も前作の『ヴィレッジ』もそうですが、出演作ごとにインパクトを残しています。そんな横浜さんの役作りのメソッドを教えてください。

台本には役柄の人生の一部しか書かれていないので、その前後から人物像を想像したり、考えたりするようにしています。監督や共演者との会話からも人物像を掘り下げたり、そこから生まれる感覚を大事にしています。

以前は、このセリフはこう言おう、このシーンではこういう表情を作ろうとか、役を作り込みすぎることが多かったんですけど、それだと独りよがりになってしまう。作品を重ねていくうちに気づいて、しだいに変わっていきました。

まったく仕事がない期間もあった

──10年を超える俳優活動のなかで、壁や挫折にぶちあたったことはありますか?

戦隊シリーズが終わって、この世界で生きていこうと決めたんですけど、1年間くらいまったく仕事がなくて。オーディションで落ちるたびに人生の選択を間違えたのかと悩んだり、自分がやるべきことを見失って迷走していた時期がありました。

でも、そこから映画やドラマを勉強したり、ワークショップに参加したり、自分で前に進もうといろいろなことに挑戦しました。そうこうしているうちに少しずつ仕事をいただけるようになって。振り返ると、その時間があったからこそ今の自分があると思います。

──仕事がなかったときに、諦めずに頑張れた原動力は何ですか?

そのときは俳優業に対するモチベーションは正直なかったんです。でも、よくも悪くも一度自分が決めたことは何としてもやり遂げるという頑固な性格で(笑)。だから意地でも諦めないんです。

──芸能界の第一線で活躍している若手俳優の筆頭のポジションにいます。そこに至るまでの転機やきっかけはありましたか?

たくさんあったと思います。参加させていただいたそれぞれの作品で監督やプロデューサー、共演者との出会いがあって、そこから学んだり、成長できたり、また次につながったり。刺激を受けて吸収して、自分が変わっていくことの積み重ねだったような気がします。

──昨今の横浜さんの出演作品は、社会性の強い作品が多い気がします。

純粋にそういう作品が好きなことがあるのですが、藤井道人監督や李相日監督との出会いもあって、早い段階から俳優として本物の道を目指したいという気持ちが芽生えていました。

大河ドラマの主演も決定

──そんななか、2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう 〜蔦重栄華乃夢噺〜』の主演が決まりました。

夢の1つでもあり、目標でした。それをかなえることができたんですけど、なぜオファーをいただけたのか謎です(笑)。

──撮影は来年です。準備はこれからですか?

東京・吉原に石碑があって、先日そこに手を合わせに行きました。いまは史実を調べたり、関連する書籍を読んで時代背景や人物像の勉強をしています。ただ、オリジナル脚本なので、それがそのまま活かせるとは限りません。まだ先のことなので、これから準備していきます。

20代最後の作品にもなるので、俳優人生の1つのターニングポイントになるように頑張りたいです。

──俳優として目指す将来像を教えてください。

流れに身を任せて、どんな作品にも挑戦したい。自分が心躍る作品はもちろんですけど、すべていいバランスでできればと思っています。

(武井 保之 : ライター)