ビジネスパーソンに必要な「思考力」を磨く、超簡単な習慣を紹介します(写真:GARAGE38/PIXTA)

耳馴染みのない専門用語、難解な公式、膨大な英単語、数分間のスピーチ原稿やプレゼンの台本、複雑な歌詞やセリフ、何人もの顔と名前……。

大量に覚えなければいけない課題やテキストを前に圧倒され、絶望した経験が皆様にもあるかもしれません。そんな方にオススメしたいのが「A4・1枚記憶法」

A4・1枚の「魔法のシート」に書くだけで、覚えにくいものも大量に記憶できる画期的なメソッドです。

考案したのは、記憶力日本一を6度獲り、日本人初の「世界記憶力グランドマスター」の称号を得た池田義博氏。

池田氏は、40代半ば「ド素人」の状態からたった1年で記憶力日本一になりました。
その体験から生まれた「超効率的なシート学習法」をまとめたのが新刊『まるごと覚えて 頭も良くなる A4・1枚記憶法』で、同書は発売後たちまち重版がかかるなど、大きな話題を呼んでいます。

以下では、その池田氏が「手書きと思考力の関係」について解説します。

地頭力が次の時代の武器になる

コロナ禍以降、仕事における「ビジネススキル」の中身や定義は、一変した感があります。


旧来の意味でのビジネススキルとは、作業の効率化というニュアンスが大きいものでした。

もちろん現在でも仕事における作業の効率化は重要でしょう。

とはいえ近年のテクノロジーの発達により、単純作業や膨大な情報処理は、デジタルツールにかなりの部分まで代替されました。

煩雑な単純作業から、人が完全に解放される日も近いでしょう。

それは本来喜ばしいことであるはずです。

各人が、その人らしい仕事、一層クリエイティブな仕事に集中できることを意味するからです。

しかし皮肉な話ですが、そこにはシビアな一面も予想されます。

今までよりも、個人の成果に焦点が当てられる、つまり実力主義が加速していくことは想像にかたくありません。

そんな近未来に備え、ビジネスパーソンは「手持ちの武器」を増やしておく必要があります。

では「武器」とはいったい何でしょうか

電子機器などのデジタルの装置やツールを思い浮かべる人がいるかもしれませんが、先にお話ししたように、それらはあくまで効率化を図るためのツールにすぎません。

それらより重要なのは、人の思考力ではないでしょうか。

なぜなら、仕事における成果物の質を決めるのは、あくまでもその人の思考力だからです。

ここでの思考力とはいわゆる「地頭力」と言い換えてもよいでしょう。

大人でも思考力は伸ばせるか

「でも、思考力を今から高めることなんてできないでしょう?」

「地頭力なんて、今さら変わらないでしょう?」

こんな反論が聞こえてきそうです。

今回は、そんな大きな誤解を解いてみたいと思います。

いったいなぜ私が思考力の重要性について熱心に説くのかというと、答えはシンプル。40代半ばから、記憶力を訓練によって意識的に鍛えた結果、思考力も連動的に高まったと実感しているからです。それは予想もしていないことでした。

「記憶力日本一」というタイトルは6回獲得しましたが、その過程でひらめきが増えたり、自分でも驚くほど迅速にロジカルな結論が出せるようになったり、新たな思考のスキームを素早く構築できるようになったりしたのです。

記憶のプロとして言わせてもらうと「記憶力を磨くと思考力も磨かれる」、そんな相関関係が存在するのです。

その理由について説明していきます。

私はよく「昔から記憶力がよかったのでしょう?」と言われるのですが、そんなことはありません。

「見たまま、聞いたままを覚える能力」はまったくなく、脳の記憶の仕組みを利用した方法を用いているだけです。

また記憶力を鍛え始めたのは、一般的に記憶力が衰え始めるとされている40代半ば。しかも記憶競技の練習を開始した時点で、初めて出場する大会までの期間は約1年しかありませんでした。

短期間でよい成績を収めるため、積極的に利用して結果を出せたのが手書きのメモだったのです。

さらに翌年も翌々年も、記憶競技で好成績を収めるには、自分独自の記憶のテクニックを編み出さねばなりませんでした。すでに世の中で知られている記憶術以上のものが必要だったのです。

そこで頼りになったのも、やはり手書きのメモでした。

指先を動かす=脳へのアプローチ

なぜ私が手書きのメモにこだわったのかというと、その理由は単純です。

手書きのほうが覚えることや学習には有利だからです。

例えば記憶・思考が行われる場所は脳です。

そうすると、脳が受ける刺激が日常的に多ければ多いほど、強ければ強いほど、より高効率に記憶・思考ができることになります。

脳の中で、知覚、思考、推理、記憶、自分の意思による運動などに関係している場所は「大脳」ですが、その大脳は身体の各部分と神経でつながっています。

そしてその大脳のなかで「手と指」に対応する領域は全体の3分の1にもなるのです。

このことから、手や指を動かすことが、ほかの体のどの部位を動かすより脳に刺激を与えられるか、納得いただけるでしょう。

「それならPCなどの電子機器も手や指先を使うのだからいいのでは?」
そう思われるかもしれません。

これについては過去の多くの研究から「手書きのほうが記憶・思考(学習)に適している」という結果が出ています。

例えばプリンストン大学とカリフォルニア大学の研究者の共同論文によると、授業中のノートを手書きした場合とキーボードで打った場合を比較すると、手書きのほうが授業内容の理解を深め、記憶にとどめる効果が高いと報告されています。

あなたもぜひ手書きのメモを有効に活用してください。

思考力とは、そもそも既知の情報の組み合わせから生まれるものです。

手持ちの情報や知識がゼロの土壌から、何かがアウトプットできたり、判断を下したりすることなど不可能です。

つまり、既知の情報が豊富な人や、手持ちの情報が有機的に絡み合う知識のゆりかごが充実している人が、思考力を養ううえで優位に立てるのは間違いありません。

だから、記憶力を鍛えると、連動して思考力もアップするわけです。

「手書きの機会」を少しでも取り入れる

「記憶力にせよ思考力にせよ、特別な時間をとって能力を鍛えるなんて無理!」そんな悲鳴も聞こえてきそうですが、ご安心ください。

私が記憶のトレーニングの過程で発見した大原則をお伝えします。

それは1日のうちで手書きの瞬間を増やすということです。

To Doリスト、備忘録、議事録、日記、アイデアメモ、夢や目標、そして覚えたい事柄……。

それぞれについて、私の新刊『まるごと覚えて 頭も良くなる A4・1枚記憶法』で紹介していますので、ぜひ参考になさってください。

もちろん、ここに挙げたものはすべて、デジタルガジェットやアプリを駆使すれば記録、管理できるでしょう。

でも、だからこそアナログな手段に今一度目を向けてほしいと思います。

また、私はよく「脳内だけでなんでも処理しているのでしょう?」と聞かれることがよくあります。

「池田さんは記憶力がいいから、頭の中だけで論理を組み立てたり、原稿の構成を考えたり、計算していると思っていました」

ありがたいことに、そう捉えてくださる方もいます。

しかし実際は、「手書き」の作業をかなり介入させていることも事実。なぜなら、そのほうが脳が刺激されるせいか、予想外のアイデアに導かれたり、面白い展開になったりすることが多いからです。

さらに言うと、同じ内容をメモするのでもPCやスマートフォンに入力するのと手で書くのとでは感覚はまったく異なります。

手書きが人類を進歩させた!?

個人的な意見ですが、手書きのほうは脳の中にあるフィルター状のものを通過している感覚があります。

そのフィルターが刺激されることで脳が活性化していると自分では感じています。

それに対し、PCへの入力はその刺激を感じません。

しかし本来は外部記憶装置としての役割も持ちつつ発達してきたコンピューターの使い方として、それはそれでいいのでしょう。

また歴史をさかのぼれば、レオナルド・ダ・ヴィンチエジソン、アインシュタインなど時代を変えるような発明、発見をしてきた賢人たちは例外なく手書きのメモ魔だったそうです。

現代のエンジニアでさえ、アイデアのきっかけは紙やホワイトボードなどに記した手書きのメモ、ということが多いのではないでしょうか。

技術がいかに進化しても、人類はこれまで手を使い、脳を刺激して進化を遂げてきました

これからも「手書き」がすばらしいアイデアを生み出していくのは間違いありません。

(池田 義博 : 記憶力日本選手権大会最多優勝者、世界記憶力グランドマスター)