SNSに自分や他人の本当の姿は映らない(写真:asaya/PIXTA)

人々は皿洗いにゴルフの6倍の時間を費やしているけれども、ゴルフに関するツイートは皿洗いに関するツイートのおよそ2倍――。同様に、ラスベガスの格安ホテル「サーカス・サーカス」と高級ホテル「ベラージオ」の客室数はほぼ同じですが、フェイスブックでチェックインしたことを報告する人の数は「ベラージオ」のほうが約3倍もあるそうです。

『ポジティブ・シフト 心理学が明かす幸福・健康・長寿につながる心の持ち方』より一部を抜粋のうえ、本稿ではフェイスブックなどのSNSが生活に与える影響や、ついつい周囲の人が幸せに見えてしまう理由についてお届けします。

あなたが思うほど、他人は幸せではない

ある学校の同窓生たちのちょっとした集まりに招かれて講演をしたことがあります。その会場は、専門家が選んだ家具、絨毯、窓の装飾、きれいによく手入れされた景色、銀のトレーに乗せた飲み物や食べ物を配るケータリングスタッフなど、すべてがとても素敵な御宅でした。

ご家族も印象的でした。立派なご主人と奥様、そして身なりがよく、行儀が良い2人の幼いお子さんたちです。その夜はとても楽しく、イベントが終わって車に乗り込みながら、この家族はなんて完璧な人生を送っているのだろう、と思いました。

正直なところ、私はこの人たちの完璧な生活と、完璧とは程遠い自分の生活を比べていました。散らかったままの家、伸び放題の芝生、そして不機嫌な子どもたち。つまり、この家族は完璧な生活をしていて、私の家族はそれに追いつくことは不可能だ、と思ったのです。

翌日、このイベントに参加したことを友人に話すと、その家族のヒストリーについて知っているのかどうかを聞かれました。知らなかった私は、そのとき、ご主人が初婚だったこと、奥様は再婚だったことを知りました。

奥様は、大学卒業の数年後に、学生時代の恋人と初めての結婚をされたそうです。ところが、結婚から1カ月もたたないうちに、そのご主人は、職場があったワールドトレードセンターのノースタワーに飛行機が衝突したことで亡くなられてしまいました(訳注:2001年9月に発生したアメリカ同時多発テロ事件)。亡くなられた最初のご主人は、結婚式の写真を見ることはかなわなかったそうです。

他人の人生について、本当のことは何も知らない

私は、比較することに内在する誤った論理について、重要な教訓を得ました。それは、私たちは、他人の人生について、本当のことは何も知らない、ということです。社会的比較は、他者が提示する、あるいは場合によっては、他者が提示しようとして選んだ、外的な現実に基づいて行われます。

経済学者のセス・スティーヴンス=ダヴィドウィッツは、人々は皿洗いにゴルフの6倍の時間を費やしているけれども、ゴルフに関するツイートは皿洗いに関するツイートのおよそ2倍もある、ということを指摘しています。

同様に、ラスベガスの格安ホテル「サーカス・サーカス」と高級ホテル「ベラージオ」の客室数はほぼ同じですが、フェイスブックでチェックインしたことを報告する人の数は「ベラージオ」のほうが約3倍もあるそうです。

そして、イメージがたとえ印象的であったとしても、私たちは、他人が実際に何を経験しているのかを知ることはできません。

作家チェーホフは、作中でイヴァン・イヴァーヌイチという登場人物に、

「われわれの目につくのは市場へ食料品を買い出しに行ったり、昼は食って、夜はねむったりする連中、たえずとりとめのないことをしゃべったりしながら、結婚して、年をとって、身うちの物が死ねば神妙に墓地へなきがらをはこんで行く連中です。ところが、苦しんでいる者の姿は見ることができない。その声をきくこともできない。この人生のほんとうにおそろしいことがらは、すべてどこか目に見えない舞台うらで行われるのです」

と語らせています(訳注:チェーホフ(著)木村影一・神西清(訳)(1971)チェーホフ、筑摩書房、より引用)。

チェーホフの直感には強い裏付けがあります。

ある一連の研究は、大学生に、ネガティブな出来事(例えば、低い成績をとった、恋愛相手に断られた、など)とポジティブな出来事(例えば、楽しいパーティーに参加した、友人と外出した、など)を、過去2週間のうちに、どれだけ経験したのかを尋ねました。さらに、他の学生が同じような出来事を経験している頻度も推測してもらいました。

結果を予測できるでしょうか? 学生は、他の学生と比べて自分はネガティブな出来事を頻繁に経験していると考えていました。例えば、60%の学生が過去2週間に悪い成績評価を受けていましたが、そのような経験をする学生は44%にすぎない、と考えていました。

一方、学生は他の学生が自分よりもポジティブな出来事を頻繁に経験している、と考えていることもわかりました。例えば、過去2週間に楽しいパーティーに参加したと答えた学生は41%でしたが、このような経験をした学生が62%もいる、と考えていました。

悲しいことですが、このような知覚の相違は、たとえその内容が間違っていたとしても、ネガティブな結果を生みます。他の学生がネガティブな出来事を経験する頻度を過小評価し、ポジティブな出来事を経験する頻度を過大評価した学生は、孤独を感じ、人生への満足感が低下するのです。

「自らの失敗体験の共有を奨励」する理由

現在、多くの大学が、自らの失敗体験の共有を奨励することで、そうした誤解がもたらすネガティブな影響に立ち向かおうとしています。例えば、マサチューセッツ州ノーサンプトンにあるスミス大学では「レーリングウェル(Railing Well)」というプログラムを開始しました。

このプログラムでは、学生や教授は、個人や仕事上の失敗の経験を共有することで、誰もが直面するネガティブな出来事への気づきを生み出そうとする試みを行っています。同様のプログラムは、スタンフォード大学の「レジリエンス・プロジェクト」、ハーバード大学の「成功・失敗プロジェクト」、ペンシルバニア大学の「ペン・フェイセズ(Penn Faces)」など、他大学でも採用されています。

プリンストン大学のヨハネス・ハウホーファー教授(心理学、公共政策)は、自身の学問的なキャリアでの不合格体験をまとめた「失敗の履歴書」を作成しています。このリストには、不合格になった大学院、不採用になった学問的なポジション、支給されなかった奨学金などが含まれています。

この文書を作成した動機は、人の成功は可視化されるけれども、失敗はそうならないことのほうが多い、という問題意識からだそうです。ハウホーファー教授は「私の挑戦のほとんどは失敗に終わるのですが、成功は可視化されて、失敗はそうならないことが多いです。私は、このことが時に、ほとんどの物事が私のためにうまくいく、という印象を他人に与えている、ということに気づきました。

この失敗の履歴書は、記録のバランスをとることで、何らかの視点を与えようとする試みなのです」とコメントしています。

私自身の仕事上の失敗の履歴書をここに作成してみました。なお、この中には、私の研究論文の掲載を拒否した学術誌編集者や書籍出版社に関する長いリストは含まれていません。

私が進学できなかった博士課程の大学
● 1991年 イェール大学心理学部
● 1991年 ミシガン大学心理学部
● 1991年 カリフォルニア大学ロサンゼルス校心理学部

私が教員としてのポストを得られなかった大学
● 1996年 ラトガース大学心理学部
● 1996年 ジョージア州立大学心理学部
● 1996年 スタンフォード大学心理学部
● 1996年 ミズーリ大学コロンビア校心理学部
● 1997年 ミネソタ大学心理学部

人が他人に見せるものは、その人が体験していることの本当の姿を伝えていない場合がほとんどです。それを心にとめておくことで、私たちはもっと大きな幸せを見つけることができます。作家のアン・ラモットは「自分の内面と他人の外面を比べないようにしましょう」と述べています。

インターネット、携帯電話、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムなど、テクノロジーの進歩は、ある意味、私たちの生活を幸せにしてくれています。なぜならば、このようなテクノロジーは、遠く離れていたとしても、大切な人とつながることを可能にするからです。

ところが、残念なことに、それらのテクノロジーは幸福感を低下させることを示す、はっきりと一貫した証拠が得られています。インターネットが個人の幸福感に及ぼす影響に関する最も初期の研究の一つは、1998年にカーネギーメロン大学の研究者のロバート・クラウトが行ったものです。

彼の研究から、インターネットを利用する人ほど、孤独感や抑うつの割合が高くなり、自宅で一緒に暮らす家族とのコミュニケーションが減少し、人付き合いの関係も縮小することがわかりました。そして、40件の研究結果をまとめて分析した2010年のレビュー論文からは、インターネットの使用は、わずかですが、統計的に有意な悪影響を幸福感に与えることがわかっています。

ソーシャルメディアが孤独に与える影響を調べるために、ウィスコンシン大学のハヨン・ソン教授とその研究チームは、フェイスブックの利用と孤独感の関連性を取り扱った既存の関連研究のデータを分析しました。

研究者がフェイスブックに注目した理由は、フェイスブックが圧倒的に人気のあるソーシャルメディアサイトであり、全世界のユーザーのオンライン利用時間の54%、アメリカのユーザーのオンライン利用時間では62%をフェイスブックが占めていたからです。

孤独を感じている人ほどフェイスブックに魅力を感じる

フェイスブックの利用が孤独感に与える影響に関するさまざまな研究結果をまとめた、この研究からは、孤独感が増すにつれて、フェイスブックに費やす時間も長くなることがわかりました。つまり、孤独を感じている人ほどフェイスブックに魅力を感じるのです。

おそらく、この種の社会的なつながりは、内気な人や社会性に欠けると感じる人にとってより快適であることが一因なのでしょう。しかし、残念ながら、このような人たちがフェイスブックに長く時間を費したとしても、それによって他者とのつながりが感じられるわけではありませんし、孤独感が軽減することもないのです。

別の研究は、ミシガン州アナーバーの住民に毎日5回テキストメッセージを送信して、フェイスブックの利用が幸福感に与える影響を調べました。毎回、住民はフェイスブックをどれくらい利用したのか、不安や寂しさがあるのかどうか、前回のテキストからどれだけ他の人と直接的な交流を行ったのかなどを質問されました。

この研究結果は、フェイスブックを利用することの本当のデメリットを再び明らかにしています。2つのテキストの間にフェイスブックを利用した人ほど、幸福感が減ることが示されました。

さらに、研究期間中にフェイスブックを利用した人ほど、研究開始時と比べて、総合的な生活満足感が低下していることがわかりました。フェイスブックが人々の幸福感を低下させている、という結論はどうやら避けられないようです。

ところで、フェイスブックの利用が幸福感を損なうのは一体どういう仕組みなのでしょうか?

フェイスブックの利用が増えることで、妬みのレベルが高くなることが、可能性の一つとして考えられます。特に、フェイスブックを繰り返し利用すると、自分と何らかの点で似ている人とつながることが多いため、妬みが発生しやすくなる、と考えられます。自分と似たような人の成功談を聞くことが、特に難しいのはよくあることだと思います。

フェイスブックを利用することは、比較することを特につらくするので、それが幸福感に悪影響を及ぼす可能性があります。フェイスブックやインスタグラムで多くの人が目にする、友達の画像について考えてみてください。その友達は、とても素晴らしい時間を過ごしている様子です。

そうすると、きっと、自分たちの生活ではそのようなことはできない、自分たちは見合っていない、と思うことでしょう(我が家の3人の子どもたちは耐えていますが、私は、自分が高校生だったときに、招待されなかったパーティーの写真をインターネットで見ることがなく済んだことを、本当にありがたいと思っています)。

このような絶え間ない比較は「ソーシャルメディアやスマートフォンなどの電子機器に多くの時間を費やす青少年は、うつ病の割合が高く、自殺未遂の回数が多い」という理由を説明する手助けになります。

私たちの健康に影響を与えるフェイスブック

最近のある研究は、特にフェイスブックの利用が、私たちの健康にとって非常に悪いことを示す、説得力のある証拠を提示しています。

この研究では、まず、人々が1日にどれくらいの時間をフェイスブックに費やしたのか、また、他の人の投稿に「いいね!」をつけたり、自分の近況を投稿したり、リンクをクリックするなど、どのような行動をとったかを調べました。


そして、そのような交流の頻度が、1年後の総合的な幸福感と関連しているかどうかを調べました。その結果、フェイスブックを利用する時間が長い人ほど、1年後の身体的健康、精神的健康、生活満足感が低いことがわかりました。

したがって、より大きな幸せを求める私たちにとって比較的シンプルな実践法は、ソーシャルメディアを使う習慣をやめる、ということです。この選択をすることによって、気持ちを落ち込ませるような社会的比較をする機会が減り、もっと良い方法に時間を使うことができるようになります。

ソーシャルメディアに時間を費やすときは、良いところだけでなく、本当の自分の生活を紹介するようにしましょう。私は、フェイスブックでは「うちの子どもたち、全員シラミもちなんですよ!」みたいなことを意図的に投稿するように工夫しています。ちなみに、これは、これまでに何度もあったことなんですけどね。

(訳/本多明生)

(キャサリン・A・サンダーソン : アマースト大学マンウェル・ファミリー生命科学(心理学)教授)