タイタン号事故「死んでも運営会社は責任負わない」乗客署名は有効か?
北大西洋で沈没した豪華客船「タイタニック号」を見学するツアー中の潜水艇タイタンが海中で消息を絶ち、乗船客5人が死亡したとみられる事故。潜水艇の安全性が不十分だった可能性が指摘される中、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルなどは、潜水艇の運営会社が乗船客に対して、「死亡しても責任は負わない」という免責の書類に署名させていたと報じた。
過去には安全性について、懸念が指摘されていたことも複数のメディアが報じている。
潜水艇だけでなく、バンジージャンプやスカイダイビングなど、危険をともなうレジャーは少なくない。もしも、利用客が「死亡しても責任は負わない」という書類にサインしたうえで、事故が発生してしまった場合、運営会社は本当に責任から逃れることができるのだろうか。消費者問題にくわしい上田孝治弁護士に聞いた。
●「安全について必要な注意を怠っていた場合には損害賠償責任ある」
--潜水艇の事故を国内法で考えた場合、運営会社の責任は?
潜水艇に人を乗せて移動するということは、日本の法律でいえば、商法の「旅客運送契約」ということになります。その場合、運営会社は、安全に旅客を運送する義務を負うことになります。そして、運営会社は、運送に関して必要な注意を怠らなかったことを証明できなければ、事故によって生じた損害を賠償しなければなりません。ここで、運送に関する注意というのは、運送行為そのもの(操舵方法など)の安全性はもちろん、運送に用いられた手段の安全性に関する注意も含まれます。
したがって、今回のような事故が国内で発生した場合、原因がどのようなもので、用いられた潜水艇が、そもそも見学ツアーを安全に遂行するのに耐えられるものであったかどうかなどの事情を踏まえて、運営会社が必要な注意を払っていたことを証明できなければ、利用客(利用客が亡くなった場合には、その相続人)に対して、損害賠償責任を負うことになります。
--免責の書類にサインしていた場合は?
利用客が「死亡しても責任は負わない」という内容の書類にサインをしていた場合(いわゆる免責特約がある場合)でも、商法によって、旅客の生命・身体の侵害による運送人の損害賠償責任を免除したり、軽減したりする特約は原則として無効とされます。やはり、運営会社側が必要な注意を払っていたことを証明できなければ、死亡による損害賠償責任を負うことになります。
なお、旅客運送契約にあたらないようなレジャーについては、旅客運送契約に関する商法の規定は適用されません。ただし、消費者がレジャーの実施に際して免責特約にサインをしていたとしても、消費者契約法によって、事業者の損害賠償責任を全部免除するような特約は無効とされます。運営会社が、利用客の安全について必要な注意を怠っていた場合には、特約と関係なく、損害賠償責任を負うことになります。
【取材協力弁護士】
上田 孝治(うえだ・こうじ)弁護士
消費者問題、金融商品取引被害、インターネット関連法務、事業主の立場に立った労働紛争の予防・解決、遺言・相続問題、不動産・マンション管理法務に特に力を入れており、全国で、消費者問題、中小企業法務などの講演、セミナー等を多数行っている。
事務所名:神戸さきがけ法律事務所
事務所URL:https://www.kobe-sakigake.net/