ヤクザとしての第一線から離れても、拳銃調達は比較的容易だという

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ヤクザとしての第一線から離れても、拳銃調達は比較的容易だという
帰宅途中の買い物客らでごった返す夜の駅ビルが、突然の銃声によって鮮血に染まった。5月26日に東京・町田駅の隣接ビル構内で起きた拳銃射殺事件は、その大胆すぎる手口が社会に衝撃を与えた。

【写真】発砲事件の現場を調べる警察官

事件を取材した警視庁担当記者が振り返る。

「特定危険指定暴力団の六代目山口組傘下にある極粋会の鈴木英東幹部(51)が、駅ビルのカフェを出ようとした際に銃撃され、腹などに3発の銃弾が命中して死亡しました。

撃ったのは、稲川会系元組員の佐々木誠容疑者(58)。佐々木容疑者がFX投資をうたい、鈴木幹部から数百万円の出資を受けたにもかかわらず配当を渡せず。当日はその返済についての話し合いがカフェで行なわれましたが決裂。居直った佐々木容疑者が、鈴木幹部を拳銃で銃撃しました。

佐々木容疑者は逃走し、翌27日に出頭して逮捕されました。極粋会は山口組内の有力組織で、元タレントの芸能界引退の原因となった暴力団との密接交際問題の当事者でもあります」

事件直後には、店外の通路で血を流して倒れている鈴木幹部を撮影した動画が拡散。衆人環視のもとで行われた大胆極まりない犯行で、ともすれば一般人に流れ弾が当たってもおかしくない危険性があったことをうかがわせた。

事件の背景について、暴力団関係者の男性が解説する。

■健康不安も事件の一因か

「ふたりは宮城刑務所で知り合った。だが、佐々木容疑者が方々で借金をつくっていて、鈴木幹部への返済ができず、かなり厳しく脅されていて『ヤるかヤられるか』という切羽詰まった状況に陥っていたらしい。

そのうえ、佐々木容疑者は『俺は末期がんで余命3か月』と触れ回っていたらしい。真偽は不明だが、死期迫ったヤクザ者が華々しくこの世を去ろうと、思い切った事件を起こすのは最近多いわな。カネに詰まってシャバで生きていくのがしんどいならなおさらだ」 


発砲事件があったJR町田駅付近の喫茶店内を調べる警視庁の警察官
山口組と神戸山口組の分裂抗争では2019年10月、当時は神戸側傘下だった山健組の組員ふたりが神戸市内の本部前で、山口組側のヒットマン(当時68)の銃撃を受けて死亡。このヒットマンは山口組の弘道会系の組員で、現行犯逮捕されたものの初公判を迎えることなく1年ほど経った後に病死した。

「このヒットマンも末期がんで、事件前から人口透析を受けていたそうだよ。組織のためにカラダをかければ、組から拘留生活や家族の世話を見てもらえる。死が近づいて、最後に一花咲かせてやろうと大仕事を企てるのは分からんでもないよ。

組としても、ヒットマンが病死してしまえば警察の追及をかわせるしな。稲川会でも2017年に、破門した元幹部を銃撃する事件が起きた。ヒットマンを出した組織の組長は逮捕されぬまま間もなく病死したんだが、一説にはこの組長は死期が近づき、刑事責任を問われるのを覚悟で襲撃を全面的に指揮したとされる。組長クラスでカネがあっても、任侠道を全うして人生を締めくくろうと危ない橋を渡るのを厭(いと)わない人物もいるんだよ」(前出関係者)

■渡世を離れても拳銃を容易に調達

今回の事件を起こした佐々木容疑者は、稲川会から処分を受けて離脱していたということで、山口組からの報復は今のところ起きていない。ただ、名目上は堅気であっても拳銃を所持していた事実は重い。だが、前出の関係者は平然と語る。

「基本的にチャカは自己管理が原則。幹部クラスでも、愛人宅といった関係先でひっそり保管する。今回の事件で使ったチャカは、現役当時に持っていたのを使ったのか、もしくはかつてのコネクションを生かして、業者から段取りしてもらったのか。まぁ、ヤクザをやっていれば調達するのはさほど難しくないよ」(前出関係者)

たとえ現役を離れた元ヤクザでも拳銃を所持し、人出の多い駅頭でも平気で拳銃を発砲するほどの暴力性を有していることをまざまざと見せつけた今回の事件。ヤクザの"終活"は血なまぐささを秘めている。

●大木健一 
全国紙記者、ネットメディア編集者を経て独立。「事件は1課より2課」が口癖で、経済事件や金融ネタに強い

文/大木健一 写真/時事通信社 photo-ac