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「立ちんぼ公園」とも呼ばれる新宿・歌舞伎町の「大久保公園」周辺で、カオス化・エンタメ化が進んでいる。

未成年や外国人女性も立ち並ぶ中、冷やかし見学やライブ配信者が殺到。「アンダー(18歳未満)」を探したり、周辺の無料案内所に相場を聞いたりする男性も現れている。

一部報道やSNSで、女性たちの目的が、ホストや推し活へのお金だと強調される中、支援団体からは「生活に困っている女性の存在が見えにくくなる」という懸念も聞かれる。(ジャーナリスト・富岡悠希)

●自撮り棒を持った男性が通りかかる

4月中旬の週末、2晩連続で取材に向かった。うち1晩は小雨交じりのあいにくの天気だったが、ビニール傘を手にした若い女性たちが10人ほど立っていた。

「遊べる?」「1.5(万円)でどう?」

彼女たちに対して、買春目的の男性たちが次々と声をかけていく。短時間での交渉が成立すると、連れだって近くのホテルに向かう。不成立だった場合は、別の男性が女性に寄っていく。

こうした光景が繰り返される中、自撮り棒の先にスマホを付けていた男性が通りがかった。話している様子からするとライブ配信中のようだ。

女性の多くは20代と推測されたが、未成年らしき容貌の女性も混じっていた。特に赤系統のヘアカラーでロリータ系の洋服を着ていた女性は、まだ幼さを残していた。

彼女たちが居並ぶ道の反対側では、2、3人の男性が1組となり、その様子を眺めていた。20代30代を中心とする冷やかしや見学組だ。エリアが有名になるにつれて、新宿で飲んだ帰りに立ち寄ってみる現状が起きているようだ。

日本人女性がいるエリアから少し離れた場所では、目鼻立ちがはっきりした外国人女性が立っていた。

ワイシャツを着た、スラリと背の高い男性が話しかけていた。「ハウマッチ?」と金銭交渉をしている。しかし、値段が合わなかったのか、女性が気に入らなかったのか、男性は1分くらいで離れていった。

●無料案内所の男性「いや〜ひどくないですか」

日本一の歓楽街とされる歌舞伎町には、そこここに「無料案内所」がある。やってきた男性にキャバクラやガールズバー、風俗店を紹介している。いろいろな店と繋がりがあることから、ここのスタッフたちの中には地域の事情通がいる。

2日目の晩、歌舞伎町に集う女性たちを支援するNPO法人「レスキュー・ハブ」代表の坂本新さんと繁華街を40分ほど一緒に回った。坂本さんらは、客引きの女性たちに、団体を紹介する文章を添えたティッシュや化粧品を配っていく。いわゆるアウトリーチ活動だ。

その最中、坂本さんと無料案内所の中年男性が言葉を交わした。

「うちに来て『大久保公園の相場っていくらですか?』とか『いま何人立っているか、わかりますか』とか聞く奴らがいるんですよ。いや〜、ひどくないですか。オレも人のことは言えないけど、クズですよね」

「それにしても、何かもうすっかり、有名スポットになっちゃいましたよね。女も男もどんどん吸い寄せられている」

●立ちんぼ女性「トー横から来てる子もいるからね」

彼の肌感覚は、実際に立ちんぼをしている女性の意見とも重なる。20代のマリさん(仮名)は2年前から大久保公園周辺で売春をしている。

彼女は今年2月以降から相場の値上がりを感じている。日本人男性からでも1人あたり5千円から1万円ほど実入りが増えた。金払いのよい韓国人や中国人の客が入ってきているのも大きいという。

「月60〜70(万円)だったのが、3月は85(万円)と最高を更新できた。ラッキーだよ」

マリさんはあっけらかんと語ったが、未成年が増えている現状には懸念を示した。警察の摘発が増える可能性もあるからだ。

「この前、お客から『どこかにアンダーいない?』と声をかけられた。たしかにアンダーはいるよ。顔見知りの女の子から『あの子、17歳だよ』と教えてもらったこともあるし。トー横から来てる子もいるからね」

大久保公園のすぐ先に地上48階・地下5階建ての巨大複合施設「東急歌舞伎町タワー」が今月14日に開業した。

トー横キッズたちは、タワー前のシネシティ広場にたむろしていたが、その広場はイベント利用が増えていく。今後、大久保公園周辺に顔を出すキッズが増えてもおかしくない。

●支援者は「デジタルタトゥー」を心配する

坂本さんが、ますます不安視しているのがTikTokやYouTube、Twitterでの動画配信だ。

前からいた無断配信者に加えて、「本人の了解を取った」として、顔出しインタビューを掲載するケースも出てきた。

ただし、支援者として関わった経験から坂本さんは「彼女たちが顔出しのリスクをどこまで認識できているのか疑問です」と話す。

今は売春で稼いでいる彼女たちが別の道に進みたくなることもあるし、妊娠・出産を契機に歌舞伎町を離れることもある。そうしたとき、顔出し動画や写真が「デジタルタトゥー」として、人生に爪痕を残すことにならないか心配している。

また、売春女性=ホス狂い(ホストにはまり、多額のお金を使う状態)や推し活依存と伝えられていることにも懸念を示す。

坂本さんは過日、LINEで繋がっている女性から「15歳の子が路上に行くと言っているけど、どうにかできない?」と連絡が入った。深夜で終電がなくなり、一晩しのぐお金もなかったことが原因だ。

生活保護を受けているシングルマザーと暮らしていた。その子が売春を決意した裏にはホストも推し活もない。問題は、家庭に居場所がないことと、貧しさだ。

「女性が増え過ぎたせいで、実態を掴みにくくなっています。しかし単なる遊び金でなく、貧困から路上に立つ女性も一定数いることはたしかです。また、たとえホスト目的であっても『売掛(うりかけ)』が多額過ぎる問題もあります」

「女性たちがここを出たいと考えたときでも、1人では難しい。まずは知ってもらい、福祉行政との連携も深めつつ、地道に支援活動を続けていきます」