「K-POPグループ」脱退裁判、事務所代表はセクハラ否定「厳しい指導はメンバーたっての希望」(後編)
日本人のK-POPグループ『SKY GIRLS‘』(スカイガールズ)のメンバー4人が、所属事務所から約1500万円もの損害賠償を請求された裁判の証人尋問が1月24日に東京地裁であった。
被告側はメンバー3人が出廷し、原告側は代表と韓国人プロデューサー・S氏が証言台に立った。ラッパーとしても活動するS氏は、現在は日本を拠点にアーティスト活動や、日韓の両方で楽曲制作などを手掛けている。
6時間30分に及ぶ証人尋問で、いったい何が語られたのか。後編では、原告側の主張を紹介する。(ライター・玖保樹鈴)
(前編)「K-POPグループ」脱退裁判、約1500万円賠償請求されたメンバーは「事務所代表のセクハラ」主張
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●新曲がリリースされなかったことで「信用を失った」
代表に先立って証言したS氏によると、2020年1月にスカイガールズの事務所から委託を受けて、1曲あたり100万円で、新曲2曲を制作したが、リリースされなかった。
S氏は2020年7月、代表からメンバーとの間にトラブルが起きたと説明されたが、その際「誤解がある」と聞いていたという。意見が合わないのはよくあることで、どういう誤解があるのかについては「興味がなかった」そうだ。
また、正式に中止すると言われなかったため、メンバーが退所を決めたあとの2020年8月まで作業をしていたという。
「誰が原因でスカイガールズの活動が中止になったかを聞いたか?」と被告代理人から問われると、S氏は次のように答えた。
「そこまで興味ないから説明を受けていない。だが、韓国からスタッフをコーディネイティングし、MV作成の準備をしていたものが中止になってしまった。それにより自分が運営する会社と組むとドタキャンされると韓国で噂になってしまい、関係者からの信用を失った」(S氏)
S氏は2020年6月、メンバーのレッスンをした際「歌詞を覚えて声を出しているだけ。スキルが高くない」と感じたという。そこでレコーディングの時間を長めにとり、音源制作プロデューサーによる編集を施せばいいと思っていたそうだ。
メンバーが請求されている1521万円のうち、755万円が新曲に関する違約金となっているが、この中には、楽曲制作費用やMV制作に関わった約15名の人件費、S氏への違約金などが含まれている。
代表から2021年7月までに320万円は取り戻したものの、それ以降は支払いが止まっているとし、S氏は「払ってほしいです」と残金の支払いをうったえた。だが、被告代理人の質問によって、2曲のうち1曲は、日本国内の大手芸能事務所に売却されていることもわかった。
これについて、S氏は「楽曲使用による印税は発生するものの、楽曲は日本で実績を作りたくて、無料で渡した」と説明した。
●「厳しい指導はメンバーたちが望んだこと」
メンバーが証言する間、うつむきながら何度も眉毛を動かしていた代表は韓国出身で、1998年1月に来日し、日本滞在25年目になる。そんな代表は「メンバーが韓国デビューできたのは、自身のプロデュースがあってのことだ」と明言した。
「学校を卒業したばかりで、韓国で知名度もない、人脈もない練習生がデビューすることはゼロに近い。イベントや番組出演、それ以外のことも人脈がないとなかなか仕事までにはつながらない。メンバーたちはデビューするほどの実力ではなかったものの、可能性を見出したから選抜した」(代表)
そのうえで、韓国式の厳しく管理する指導は「メンバーたっての希望だった」と語った。
「韓国人が韓国でデビューするのは難しいけれど、日本人は2倍、3倍、いや10倍難しい。メンバーたちも『韓国式で厳しく教えてほしい』と言っていた。本当にできるかどうか、最初は不安な気持ちがあったけれど、本人たちは覚悟して一生懸命やっていた。でも一方的ではなく、メンバーたちに自由に議論してもらうこともあった」(代表)
●「控室にいたのは、衣装にアイロンをかけるため」
メンバーはLINEやビデオ通話以外に、韓国語で毎朝のあいさつ、行動の報告を求められたと主張している。また、日記を提出することもあった。
代表によると、日記は「韓国語の勉強と、今後、韓国語で作詞もしてもらいたかったので、表現力をつけるために書かせた」という。あいさつは「韓国式指導の基本であり、韓国のK-POP練習生もおこなっている習慣」だったとしている。
行動の報告については、「2017年10月に座間市で女性8人と男性1人が殺害される事件が起き、被害者に20代女性が多かったことでびっくりした。あるメンバーの家が座間から遠くない場所にあったので、こまめに連絡を取り合いましょうという意味」だったと説明。
ビデオ通話は「韓国語の練習と、韓国のバラエティ番組に出演して知名度を上げるために、表現力と語学力を増やす練習だった」として、メンバーも了承していたと述べた。
韓国語で「죽을래?」(チュグレ?/死にたいの?)と言ったり、Dさんに「돼지」(テジ/豚)などと発言したことは、ハラスメントにあたるとメンバーから指摘されている。一方、代表は、ハラスメント行為について全面的に否定した。
「『チュグレ?』は『しっかりしてくれよ』という意味で言った。Dさんは教え子だったので、愛らしいという意味で『テジ』を使った。何かやる際、かならず理由を説明して行動に移していた。
ボディチェックは見せ方の研究のためで、身体に触れたことはないし、『いつ結婚してくれるの?』というのは、Dさんが『韓国人になりたいから代表と結婚したい』と冗談で言ったので、冗談で返した」(代表)
なお、この「韓国籍を取りたいので、代表と結婚したい」という冗談について、Dさんは「一度もありません」と反論している。
●「メンバーの着替えを見ていたわけではない」
また、メンバーが着替える際に控室にいたこともあったが、「日本も韓国も、控室に人の出入りが激しいので、慣れないといけないということだった。メンバーに背を向けて、衣装にアイロンかけたり靴を磨いたりしていた」と着替えを見ていたわけではないと述べた。
ダイエットの指示については「K-POPアーティストとして綺麗に見せるため」であり、韓国のアイドルはみんなやっているから、ダイエットで筋量が下がってパフォーマンスが落ちても「それは乗り越えなければいけないものであった」とした。
身長165センチあるBさんが、43キロまで体重を落とすと、BMIが「15.79」になってしまう。(日本肥満学会では、標準体重をもっとも疾病の少ないBMI22を基準としている)。
「BMIが16未満になると、女性の総死亡リスクが3倍近くになるというデータがあることを考慮したか?」と被告代理人に問われると、代表は「知らなかったから考慮しなかった」と答えていた。
また、裁判所からもダイエット方法についての質問があったが、韓国のアイドルが実践している「ワンカップダイエット(紙コップの中に食べたいものを入れる方法)」や、19時以降は食事をしないなどのアドバイスをしたものの、トレーナーや医師に相談することはなかったと述べた。
●「退所の原因は自分とメンバー、日韓情勢にある」
2曲目のリリースに向けて活動していた2020年7月、突然メンバーから退所を申し出られたことは「メンバーは家族みたいな感じだったので、退所についての書面を渡されたときはショックだったし、死にたい気持ちになった」とした。
メンバーとの話し合いの場で、代表は、自身のハラスメント行為について謝罪している。
その理由について「活動を続けてほしいと思う親の気持ちがありましたし、韓国にも関係者はいてファンもいるので、周りに迷惑をかけることになる。少しでもメンバーの気持ちが収まるなら、私が頭を下げて謝罪するしかないという気持ちもありました。でも、すべてのことを認めて謝罪したわけではない」と、ため息交じりで説明した。
さらに「新曲がリリースできなかったことで、S氏もそうだけど、私も信頼失い、今は仕事がなくなり、SNSで誹謗中傷受けるようになった」と苦境に立たされていることを明かした。
被告代理人から「メンバーがやめると言ってきた原因はあなたかメンバーか、他にあるのか」と問われた代表は、原因は本人たちの気持ちを読めなかった自分とメンバー、社会情勢の3つにあるとした。
「ならば1500万円のうち少なくとも3分の1は、あなたが負担するべきでは?」(被告代理人)
これに対して、代表は「そういう簡単な問題ではない」と反論した。
●「権力者である代表とメンバーは対等ではない」
裁判を通して、代表は、家族のように思っていたメンバーが離れてショックを受けたことや、メンバーがビデオ通話などを嫌がるそぶりを見せていなかったから、同意していたと思っていたと、自身の思いを振り返った。
「メンバーを一心同体の家族のように思い、人生をかけてやってきたのに、2020年7月に突然、『信頼できない』と書かれた書面を渡されて、もともと高血圧気味だったが血圧が上がり、頭が真っ白になってしまった。それまでは信頼されていると思っていたし、やめたいと言われたこともなかった」(代表)
「もう少し乗り越える力と考える力、私とのコミュニケーションを持ってほしかった。コロナでいろいろなアーティストが苦しんでいたが、コロナがなければスカイガールズは今も韓国で活動していたと思う。2020年8月11日、話し合いが終わって帰るときに、メンバーが一度も私のほうを振り向いてくれなかった。離れちゃったなと思った」(代表)
おそらく彼の言葉に偽りはなく、本当にそう認識していたのだろうと思われる。ただ、権力を持っている代表とメンバーは決して対等な関係ではない。自身の持つ権力について、どこまで意識していたのか、取材メモをとりながら疑問は残った。
閉廷後、質問しようと試みたものの、原告代理人は「係争中の案件につきコメントはありません」とだけ言い残し、無言を貫く代表とともに去っていった。
裁判所が双方に和解案を申し入れたが決裂して、3月28日に判決が言い渡される。