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K-POPグループとして韓国デビューを果たした「SKY GIRLS‘」(スカイガールズ)のメンバー4人が退所を申し出たところ、所属事務所から約1500万円もの損害賠償を請求された。この裁判は3月28日に東京地裁で判決が言い渡されるが、1月24日に証人尋問がおこなわれた。

この日出廷したメンバー3人が事務所代表によるハラスメントについて証言する一方、代表は「責任は自分とメンバー、日韓情勢にある」と主張し、原告側の証人である音楽プロデューサーは「新曲が発売されなかったことで、韓国の音楽界からの信用を失った」と語った。

6時間30分に及ぶ証人尋問で、いったい何が語られたのか。前編では、被告となったメンバーの主張を紹介する。(ライター・玖保樹鈴)

(後編)「K-POPグループ」脱退裁判、事務所代表はセクハラ否定「厳しい指導はメンバーたっての希望」
https://www.bengo4.com/c_5/n_15817/

●日本人メンバーだけで韓国デビュー果たした

スカイガールズは、同じ音楽系専門学校に通っていたメンバーで結成された。

事務所代表は、その専門学校の講師で、学内でK-POP歌手を養成するオーディションイベントがおこなわれた際、4人を含む7人が合格した。3人が脱けたあとの2019年11月、ワーナーミュージック・コリアから『ノッテムネ』という曲でデビューした。

しかし、メンバーによると、全員が日本人であることを理由に韓国メディアからは出演依頼を受けることができず、地方イベントに参加する程度の活動だったという。そのうえ、2020年に入ると、コロナ禍により、活動停止を余儀なくされてしまった。

メンバーは個別の自主練習を続けていたが、代表から毎晩のようにビデオ通話を強いられるようになったという。夜21時から22時の間に「電話」と書かれたLINEメッセージが届くと、それに対応できる順番で連絡していた。

すると、代表から個別に「会いたい、死にそう」「いつ結婚してくれる?」「愛してる♥」というメッセージが届くようになったという。そのほかにも、どこに出かけたかなどの行動報告や韓国語の日記提出も求められていたそうだ。

2019年にデビューしたものの、メンバーと事務所との契約は、2017年5月からの10年契約となっていた。また活動にかかる経費を除いた売り上げを折半することになっていたが、実際には活動に対しての収入がなかったと主張している。

●事務所に損害を与えたとして訴えられた

思うように活動ができない中、代表への不信感が募ったメンバーは話し合い、2020年7月に退所を決めた。事務所側とは複数回話し合いの場を設けて、同年10月には内容証明を送ったものの、話し合いは平行線のまま終わった。

ところが2021年5月、メンバーのもとに、マネジメント契約が続いているのに活動を拒絶しており、減量の指示に背いた債務不履行などから、事務所に損害を与えたという内容の訴状が届いた。

メンバーは、韓国への渡航費や宿泊代、ファーストシングルの制作費、セカンドシングルのキャンセル違約金など、1521万1554円もの損害賠償が請求されていた。

メンバーは、減量指示は一方的で、代表が決めた活動をしていたことは労働契約に該当するのに賃金を支払わず使用者の義務を履行していなかったとして、「契約解除は有効だ」と反論している。

●「俺は大丈夫、と着替えの際も出て行かなかった」

この日はメンバー4人のうち3人が出廷した。裁判は匿名で進行しているため、Aさん、Bさん、Dさんとして証言台に立った。

Aさんは2015年、専門学校のK-POPプロジェクト講師だった代表と出会い、2年後の2017年、代表が関わっていたオーディションイベントに参加した。合格後は練習生として活動を続けていたが、2019年10月に所属事務所とのマネジメント契約を締結している。

その際、代表から契約書についての細かい説明はなかったという。しかしAさんは、その場で署名・捺印をしている。法廷で、その理由を問われると、Aさんは「契約しないと、韓国デビューできないと促されたから」と語った。

そんなAさんが事務所を退所したいと思い至ったのは「給料がもらえず、このまま続けていいのかと思ったこと、何よりも代表からのセクハラやパワハラ、過度な拘束に耐えきれなくなった」と主張した。Aさんの陳述書にはこう記されている。

「代表は私たちが着替えをするときに、控え室から出ていかないこともありました。もちろん、私たちは見えないように試行錯誤して着替えをしていましたが、とても不快でした。私たちの気持ちが、わかってないと思いました」

Aさんによると、私服からステージ衣装に着替える際、毎回代表が控室にいたという。

●恐怖心から「楽しいふりをしていた」

代表とのビデオ通話は、2019年6月から2020年7月まで、グループ通話だけでも21時以降に88回、それ以外にも個人通話がほぼ毎日おこなわれていたと、主張している。

Aさんは「正直苦痛に感じていた」。ビデオ通話のスクリーンショットも撮られていたことを知らなかったという。さらにポーズの練習のために、下着姿の写真を送ることも求められたと語った。

なお、Aさんはその場では「かしこまりました」と言ったものの、データが残ってしまう恐怖があり、写真は送っていない。

「メンバーはビデオ通話を楽しんでいた」という代表の主張に対して、Aさんは「恐怖心があったので楽しいふりをしていた」と反論。

ダンスや歌の練習中に、うまく表現できないことがあると、韓国語で突然「야!」(ヤー!/おい!)と怒鳴りつけるため、言われるたびに恐怖心を感じて涙が出て、怖くて逆らえない存在だったと話した。

●過呼吸を起こして泣き出してしまった

Aさんは2020年8月、代表の前で課題曲を披露することがプレッシャーとなり、また、それまでの恐怖がフラッシュバックしたため、過呼吸を起こして泣き出してしまったそうだ。

その以前にも 代表にメンバーが意見すると、「俺のやり方に従えないなら辞めればいい」「誰か1人がやめたらスカイガールズは解散だ」「죽을래」(チュグレ?/死にたいの?)」などと言われたため、Aさんは「過度な拘束をやめてほしいと言うのは、怒られてしまうので言えなかった」としている。

しかし、他のメンバーも「活動存続は難しい」と感じていることがわかったため、4人は2020年7月、連名で「退所したい」と書面で伝えた。その数日後、メンバーと代表との話し合いが設けられ、同月下旬には業務提携していたプロダクション代表も交えた話し合いもおこなわれた。

Aさんによると、翌月の話し合いの場で、メンバーから「されて嫌だったこと」を聞かされた代表は「すべて私が悪かった。私たちが意見を言える環境を作らなかったすべて自分が悪い」「裁判になるんだったらその前に自殺しようと思う」と泣いていたという。

その場で謝罪文を手渡されたものの、「何回も謝っていたが、謝ればすむとは感じなかったし、いまさら遅いと思った」とAさんは振り返った。

●「マネジメントに期待できなかった」

いったん業務提携先の社長がマネジメントを担当して、代表は音楽ディレクターに変更するというかたちで活動継続が決まったが、その社長と代表の関係が悪化したことで、メンバーは「2人がもめて先が見えないし、このまま続けられない」と考え、同年9月に正式に退所を申し出た。

その際、代表は契約期間が残っているから退所できないとしたうえで「裁判はお互い傷つくからやめよう」と諭したという。しかし、代表側は2021年5月、裁判を起こした。

証人尋問で、原告代理人に「やめた原因はすべて代表にあるか」と質問された際、Aさんは「私はそう思ってる」と答えた。

原告代理人が続けて、「メジャーデビューは誰でもできることではない。それは代表のおかげだと思わなかったのか」と質問した。

Aさんは「はい」と答えたものの、涙ぐみながら「歌は代表から教わっていたが、ダンスは日本と韓国で各1、2回程度しか指導を受けることができず、トレーナーもいなかったうえにスタジオもなく、環境や設備が整っていなかったから、マネジメントに期待できなかった」と答えた。

一方、被告代理人に前回の取材(https://www.bengo4.com/c_18/n_13339/)を受けた理由を問われたAさんは、「代表が新しいガールズグループを用意しているという話を聞き、これ以上私たちのような人を作らないでほしいと思った。他のグループの子にもハラスメントをしているのではないかという思いがあった」と口にした。

現在、スカイガールズの元所属事務所のSNSには、新たなK-POP女性ユニットが紹介されている。

●メンバーの悪口を聞かされるのが「ストレス」に

続いて証言台に立ったBさんによると、代表は大声で怒鳴るだけではなく、レッスン中に「ボディチェック」と称して、服を引っ張り、胸のサイズを見ることがあったという。その際、Bさんのあばら骨や、太ももとヒップの境目に手を当て、「もう少しヒップをあげたほうがいいんじゃない?」と言うこともあったそうだ。

「不快に思ったものの、嫌だと言えずに顔をしかめることしかできなかった。控室から退出しないことを代表に聞くと、『別に俺だからいいじゃない』って言われたり、『某アーティストはスタッフの前でも裸で着替えることがあるんだよ』と言っていました。それを言われて、これからも着替えるときも近くにいるのかと不安になり、嫌というか、怖い気持ちになりました」(Bさん)

ボディチェックは1〜2週間に1回程度あり、毎回触られていないが、7、8割は触られたと主張した。控室に他の出演者がいたり、下着が見えるようなときは見えないようにトイレで着替えていたという。

その言葉を聞いた原告代理人から「代表がいるときもトイレで着替えれば良かったのでは?」と問われたBさんは「見えないようにすればいいというのは違います。トイレが狭かったりすることもあるし、出て行ってほしい気持ちは、察してほしかった」と語気を強めて反論した。

また、メンバー全員、デビュー曲リリースと新曲発売の2回にわたり、代表から目標体重を提示されダイエットすることを求められた。

身長165センチのBさんは体重43キロ以下まで減量することを言い渡されて、食事制限をした結果、体力がなくなり、まともに練習ができなくなったという。

目標体重まで減量出来なかった「罰」として、SNSの更新を停止させられることもあったそうだ。Bさんは、代表からビデオ通話で「2人だけの秘密だよね」と他のメンバーの良くない部分を聞かされることがストレスになったとも語っている。

●「代表を信頼できなくなった」

練習生時代に7人いたメンバーが5人になったころから、時々辞めたいと思いつつも夢をあきらめたくなかったDさんの退所理由は「代表のもとでは続けられないし、この4人じゃないとスカイガールズをやる意味がないと思ったから」だった。

なぜ続けたくなくなったか、原告代理人に問われると、Dさんはこう答えた。

「たくさんありますが、専用の練習スタジオがなかったり、専属のトレーナーがいないなど、マネジメント力が不足していることがありますが、一番はハラスメント。韓国でメジャーデビューできたのは代表のおかげだけど、もっと早く韓国に滞在する予定だったのに、実現したのが2019年6月になるなど、言っていることと行動が合わないことがよくあった。それで代表を信頼できなくなった」

あるとき、発声方法に悩んだDさんが代表に質問すると、「俺もわかんない」という答えが返ってきたという。それを聞いたDさんは「この人は本当に音楽のことわかってるのかな」と不信感を募らせるようになったそうだ。

「原告側証人のSさんに1、2回指導してもらったり、違う方からも1、2回指導を受けましたが、そのときも発声法は質問できませんでした。プロの指導を受けられる機会は、ほぼありませんでした」(Dさん)

Dさんは「죽을래?」(チュグレ?/死にたいの?)に加えて、代表から「돼지」(テジ/豚)と言われることもあった。

また、ビデオ通話の際、代表からキス顔を求められることもあったそうだ。しかし、原告代理人によると、代表は「キス顔は、新曲MVの演出として考えていたから求めたことを説明していた」と言い、その点についてはDさんも認めている。

被告代理人から、裁判について思うことを問われたDさんは、この日の前日に祖父が亡くなったと明かしたうえで、涙ぐみながら声を振り絞った。

「代表にされたことが許せないし、証言したかったので、お通夜に参加せずにここに来た。代表にこんなことをされなかったら、今ごろ祖父に会えていたと思う。この裁判を起こされたせいで、祖父に会うのが遅くなってしまった。一生かけて私たちに謝罪してもらいたいと思っています」(Dさん)

(原告側の主張は「後編」に続く)