ブルー・ラブ・ビーツが語るアフロビーツの真髄、文化の「盗用」と「リスペクト」の違い
UKのジャズシーンで特異な立ち位置を築いてきたブルー・ラブ・ビーツ(Blue Lab Beats)がついに初来日。恵比寿ガーデンプレイスに新しく生まれた「BLUE NOTE PLACE」のオープニングステージに登場した。旧来的なライブハウスではなく、DJブースも常設された会場は、ビートメイカーやDJとライブ・ミュージシャンを並列でカジュアルに楽しめるような作りになっていた。マルチ奏者Mr DMの生演奏とNK-OKのプロダクションを組み合わせてきたブルー・ラブ・ビーツにぴったりの会場だったと思う。
彼らのライブで強く印象に残ったのは、アフロビート/アフロビーツのこなれたサウンド。NK-OKのビートはもちろんだし、Mr DMの演奏も素晴らしかった。例えば、ベーシストのモードになれば特異なリズムパターンに合わせて絶妙にグルーヴするし、ギターソロのフレージングも洗練されたハイライフのようだった。
2018年のデビュー作『Xover』の時点でアフロビート曲「Pineapple」を手がけていたように、西アフリカ音楽への関心は、彼らの音楽性における重要なポイントのひとつだ。その後もザンビア生まれのラッパー、サンパ・ザ・グレイトに起用されたり、NK-OKは別プロジェクトの『The Sounds of Afrotronica』でも西アフリカのリズムにチャレンジしていた。それらの取り組みは、2人が起用された(西アフリカの大スター)アンジェリーク・キジョー『Mother Nature』でのグラミー受賞にも結実した。
そして、彼らは西アフリカへの関心を更に一歩先に進めるためにガーナを訪れ、同地のプロデューサーとのコラボレーションも交えつつ『Motherland Journey』を制作した。ブルー・ラブ・ビーツは他の誰とも違う形でアフロビートやアフロビーツを追求し、それを独自にやり方でUK由来のジャズのサウンドと融合させようとしている。
今回はアフロビートとアフロビーツにフォーカスして、2人に話を聞いた。音楽そのものだけでなく、黒人文化に対する考え方やアフリカ系イギリス人の視点からの文化盗用への考え方など、話は多岐にわたった。ここにはUKジャズの今を読み解くためだけでなく、様々なヒントが埋まっているはずだ。
「Pineapple」、今年11月にリリースされた『Jazztronica - Live at Late Night Jazz Royal Albert Hall』より
―そもそもアフロビーツを聞き始めたきっかけは?
NK-OK:アフロビートとアフロビーツは別物だってところから始めた方がいいよね。アフロビートはフェラ・クティ、トニー・アレンが(1960年代に)生み出したもの。僕らも最初はそこから興味を持った。そのうちウィズキッド、バーナ・ボーイ、プロデューサーのジュルス(Juls)に出会って、そこからアフロビーツにも興味を持つようになった。
―ウィズキッド、バーナ・ボーイのどんなところに惹かれましたか?
NK-OK:ウィズキッドは曲の中にある「楽しい」(Joy)部分が好きなんだけど、一方で歌詞を聴くと深い意味があったりする。そこはフェラ・クティがやってきたこととコンセプト的に通じる部分がある。同じようなコンセプトが世代を超えて受け継がれていて、そのクリエイティビティに惹かれるんだ。音楽的にはリズムがパーカッシブなエレクトロニックの音楽なんだけど、ライブ・パーカッションも使われていたりもするのもいい。ボーカルだとオートチューンも使うんだけど、それがあくまでエフェクトとして使われているのも好きな部分だね。
―歌詞にはどんな意味があるんですか?
NK-OK:例えば、バーナ・ボーイの初期の歌詞には政治的な部分がある。彼はナイジェリアの政治について歌っているんだ。そこはフェラ・クティと似ているし、僕はそこに世代間の継承を感じるんだ。だから、バーナ・ボーイは、なんていうかな、音楽を武器というか……。
Mr DM:プラットフォームだね。
NK-OK:そうそう、プラットフォームとして使ったんだ。そこに政治的なトピックを乗せていった。でも、曲調は楽しかったりするから、政治的なことを歌っていても、気持ちはリフレッシュされる。
Mr DM:そもそもバーナ・ボーイの祖父はフェラのマネージャーだったからね。直接的な繋がりもあるんだ。僕らは「Motherland Journey」(アルバムのタイトル曲)でフェラ・クティの「Everything Scatter」をサンプリングしていて、多くの人に楽しそうな曲だねって言われる。でも、僕らは「歌詞を知ったら全く違う感覚になるから、そこにもフォーカスしてみなよ」って言うんだ。
NK-OK:僕らも最初はそんなに深い意味があるなんて知らなかった。「Everything Scatter」ではバスの中でフェラが乗客たちとコール・アンド・レスポンスをやっているんだけど、そこではバスから降りてもっと政治のことを考えようって歌っているんだよね。あとでリサーチしたとき、そういう歌詞だって気付いたんだ。実は僕も「Motherland Journey」の冒頭にバスっぽい音のエフェクトを入れてる。たぶん偶然だけど、そういうものを感じ取っていたのかもしれないね。
―ブルー・ラブ・ビーツにとって、音楽におけるメッセージ性って意識している部分ですか?
NK-OK:両親がパブリック・エネミーやN.W.A.が好きで家でもよく流れていたから、それが当たり前だったんだよね。ジャズにしてもインストだけど、音楽をプラットフォームにして政治的な立場をとっていたジャズ・ミュージシャンは少なくない。歌手だったらビリー・ホリデイみたいに「奇妙な果実」のような曲を歌う人もいた。だから、ジャズに関わる時点で最初から意識していたね。でも、僕の場合は音楽によっていかに人の心を癒したり、楽しませることができるかってところの方が大きかったかもしれない。
Mr DM:チャーリー・パーカー、マイルス・デイヴィス、セロニアス・モンク、チャールス・ミンガス、みんなインストだったけど、自分たちの置かれた状況や人種差別などを音楽の中で語っていた。ミンガスの「フォーバス知事の寓話」(Fables Of Faubus)が有名だけど、ジャズをやるってことはそもそもそういうことだよね。
ガーナで学んだアフロビーツの真髄
―今、日本でもアフロビーツは人気が出てきていて、もっと聴きたいという人、自分でトラックを作りたいという人も増えています。
NK-OK:そうなんだ。日本のプロデューサーがアフロビートを作るための最もいい方法は、ガーナやナイジェリアのプロデューサーにコントタクトをとって、彼らとコラボレーションをすることなんじゃないかな。例えば、イギリス人でアニメ好きな人なら日本人とコラボレーションすることがベストなのと一緒。そう考えたらわかりやすいよね。
―『Motherland Journey』の制作でガーナにも行ったんですよね。実際に現地のプロデューサーとコラボしたことで気付いたことはありますか?
NK-OK:すごかったのはパーカッションの使い方だね。
Mr DM:(タイトル曲では)ガーナのキルビーツ(KillBeatz)とコラボしていて、彼がプログラミングの多くを手掛けているんだ。僕らも少しはやっているけど、彼が作ったサウンドはあまりに素晴らしかった。
NK-OK:そもそもサンプリングのやり方も違うんだ。UKにもアフロビーツのプロデューサーはいて、彼らはナイジェリアやガーナにルーツを持っているんだけど、やっぱり現地でやってるプロデューサーに会って、オリジナルのソースに近づくと全然違うんだよね。例えば、キルビーツはスタジオのその辺に置いてあったガラスの瓶を使ってみたり、ミントのキャンディーが入っているポットを使ってみたりしていて、自分たちの周囲の環境にあるものはすべて音楽になるって感じだった。そういう手法によってテクスチャーがオーガニックなものになるし、すごくハートに響くんだよね。
Mr DM:高価なスタジオを使えばいいってわけじゃないんだよね。
―プロダクションの部分でも何か発見はありましたか?
NK-OK:キルビーツの音楽って、クオンタイズされてて整っている部分もあるんだけど、ある部分はライブ・パーカッションになっていて、かなりレイドバックしていたりするんだ。J・ディラ的なヒップホップのセンスに近い部分もある感じで、かなり自由さを残している。シャバカ・ハッチングスが言うところの「彼らはグリッドの曲げ方を知っている」ってこと。そうすることでリズムがより自然でオーガニックなものになる。ドラムのキックとリムショットはクオンタイズするんだけど、それ以外のパーカッションはライブの生の感じをそのまま使っていたり、そういうコンビネーションが面白かったよ。
キルビーツのスタジオセッション映像(2011年)
―ブルー・ラブ・ビーツはそこに生演奏を加えますよね。アフロビーツらしい生演奏の部分に関してはどうですか?
Mr DM:例えば、コード進行ひとつをとってもアフロビーツに取り組んだことで学べたことは多いよ。すごくシンプルに聴こえるんだけど、実際に演奏してみると難しかった。例えば、バーナ・ボーイの「Ye」はシンプルで、あの曲がかかるとみんな楽しそうに踊り出すわけだけど、演奏する方はすごく難しいんだ。一見簡単そうなんだけどね。ウィズキッドの「Essence」もものすごくシンプルなんだけど、聴く人を飛び上がらせる何かがあるんだよね。「Essence」にはたった2つのコードしかないんだ。でも、あのリズムの上で、エモーションやフィーリングをたった2つのコードで表現するのはかなり難しい。
NK-OK:リズム面でいうと、アフロビーツはどこに4拍目を置くかの考え方が、僕らにとっての普通の位置じゃないんだよね。キックとリムショットの1小節がループされているだけだから、基本的にはシンプルなんだけど、その4拍目の位置が違うから四つ打ちとは違う感覚でやらなきゃいけない。その4拍目のタイミングによって、音楽のすべてが変わってくるんだ。例えば、ボーカルはそのリズムに乗っかってるから、すべてに関わっている。でも、パーカッションに関してはリムショットとは役割が違っていて、キックとスネアのメインのリズムにとってのベッドみたいな感じで敷かれている。面白いよね。
文化の「盗用」と「リスペクト」の違い
―「BLUE NOTE PLACE」でのライブを見させてもらいましたが、お2人はライブでもアフロビートやハイライフ、アフロビーツをうまく表現していました。ロンドンではそういう音楽を演奏できる場所って結構あるものなんですか?
NK-OK:ここ1年半くらいはそういうセッションができる場所が特に増えてきたね。でも、僕はロンドンじゃなくて、ナイジェリアやガーナに行って、そこで何かをやるってことをもっと増やしたいと思ってる。もちろんお金がかかるから簡単には行けないんだけどね。だから、もっとビッグネームの人がそういうことをやってくれると、アフリカの現地のプロデューサーやミュージシャンの知名度も上がるし、彼らにクレジットを与えることもできるのになって思う。僕にはガーナの血が流れているし、ドラム・プログラムもやるんだけど、現地に行ってキルビーツとやってみたら「僕はやらなくて大丈夫です」と思ってしまった。ガーナの音楽に関しては彼の領域だし、彼が現地で何年も培ってきたものだとわかったから、自分は一歩引いた立場でやることが大事だなって感じたんだよね。
―現地のプロデューサーとのエピソードをもう少し聞かせてください。
Mr DM:ガーナのクラブシーンをこの目で見ることも目的のひとつだったんだよね。
NK-OK:だから、ゲットー・ボーイ(Ghetto Boy)に連れて行ってもらったんだ。夜の11時に行こうと思ったら「今から少し寝る」って言われてね。夜中の2時半くらいになって「まだ行かないの?」って言ったら「じゃ、そろそろ行こうか」って準備を初めて朝の4時くらいになってしまった。でも、着いたらそんな人が多くなくて「5時くらいにならないと人が集まらないよ」って。実際に人が増えて、それで朝の10時くらいまでパーティーが続いたんだ。そのときは平日だったから「週末はどうなの?」って聞いたら「週末は次の日の昼の1時までやってるよ」って(笑)。
DJがプレイするのはアフロビーツ、アマピアノ、アフロビート、ハイライフ、アメリカのR&B、ヒップホップ、グライム、ドリルとなんでもって感じ。びっくりしたのは16小節か32小節でどんどん別の曲に変えていって、4、5分おきに別のジャンルに変わってるみたいな感じ。すごい体験だったね。
ガーナのDJ、DJ Aromaによるパフォーマンス
ゲットー・ボーイとブルー・ラブ・ビーツのコラボ曲「Blow You Away (Delilah)」
―今日は「現地を見た方がいい」「現地を尊重する」という話がすごく印象的でした。お2人からはリスペクトも伝わってきますし、文化盗用にならないように現地のミュージシャンと一緒にやったり、彼らの名前をクレジットすることにすごく意識的ですよね。そういう姿勢も『Mother land Journey』の魅力に繋がっているのがよくわかりました。
NK-OK:僕らは「これ好きだな、よし試してみよう」ってことを自由にやってきた世代なんだよね。面白いと感じたら何でもやっていいって感じで。でも、他の文化に関わる際はその時にそこにある意味について考えて、きちんと理解しようとしなきゃいけないと思う。例えば、コーンロウもそれによって奴隷たちが逃げるための暗号のように道筋を編み込んだって話がある。そういう経緯を知らずにファッションだけで取り入れるのは違うと思うんだ。だから、もし僕が日本のジャズをやりたいなと思ったら、それをサンプリングしたりするだけじゃなくて、お互いのトラックの中で演奏したりできたらいいなと思う。文化が違うものに関しては、ルーツを理解したうえで、感謝して、リスペクトしてからやる必要がある。
―実際にガーナに行ってみて、そういった黒人の文化に関して特にインスパイアされたものがあれば聞かせてもらえますか?
NK-OK:歴史的な場所を体験できたことだね。エルミナ城っていう場所があって、そこはアフリカから奴隷として連れていかれる人たちが囲われていた場所なんだ。ガーナの血が流れている自分だけじゃなくて、黒人だったらこれを現地で見るのはエモーショナルな部分で感じるものがあるよね。
Mr DM:エルミナ城は(ガーナを訪れた)目的のひとつだったから、首都のアクラから3時間かけて行ったんだよね。
NK-OK:西洋にいて教えられる黒人の歴史って奴隷から始まっていて、それ以前の歴史はなかったもののようになっている。せいぜいあっても、船で連れてこられて、その船旅が大変だって話くらいだったりね。実際のアフリカには、マンサ・ムサ(※)のようなビル・ゲイツよりも巨額の富を持っていた人もいた。そういう話も学ぶことはできない。アフリカの話はせいぜいローマ帝国の話の中に少し出てくる程度だったりして、結局は白人の歴史が中心なんだ。
※14世紀にアフリカで最も裕福だったマリ王国の王。豊かな文化や洗練された教育を育んだと言われている。
だから、自分としては実際の黒人の歴史を知りたかった。今だったらインターネットでなんでも見られるけど、現地に行って体験するってことが重要だと思った。エルミーナ城だったら、ここでどんなことが行われていたかを知りたかった。例えば、ここのドアの先に行ったら二度とアフリカには戻ってこられなかったって事実を深く知って、感じることができたことが僕らにとって重要だった。
そういう意味で、ガーナの滞在の95%は楽しかったけど、5%は辛かったんだよ。実は子供の頃にもエルミナ城に行ったことがあった。でも、その頃の自分には事実をきちんと受け止める準備ができていなかった。今回はようやく自分のこととしていろんなものが入ってきた。エルミナ城の中には第二次世界大戦中に、黒人たちが「人の盾」として前線に立たされるためのトレーニングをさせられるスペースもあった。黒人が奴隷として送られる人たちがいた場所だったところが、その後、黒人が戦争の捨て駒のように使われるためのトレーニングのための場所になった。僕らはそういう悲惨さをきちんと学びに行ったんだ。
ブルー・ラブ・ビーツ
『Jazztronica - Live at Late Night Jazz Royal Albert Hall』
再生・購入:https://Blue-Lab-Beats.lnk.to/Jazztronica
2018年のデビュー作『Xover』の時点でアフロビート曲「Pineapple」を手がけていたように、西アフリカ音楽への関心は、彼らの音楽性における重要なポイントのひとつだ。その後もザンビア生まれのラッパー、サンパ・ザ・グレイトに起用されたり、NK-OKは別プロジェクトの『The Sounds of Afrotronica』でも西アフリカのリズムにチャレンジしていた。それらの取り組みは、2人が起用された(西アフリカの大スター)アンジェリーク・キジョー『Mother Nature』でのグラミー受賞にも結実した。
そして、彼らは西アフリカへの関心を更に一歩先に進めるためにガーナを訪れ、同地のプロデューサーとのコラボレーションも交えつつ『Motherland Journey』を制作した。ブルー・ラブ・ビーツは他の誰とも違う形でアフロビートやアフロビーツを追求し、それを独自にやり方でUK由来のジャズのサウンドと融合させようとしている。
今回はアフロビートとアフロビーツにフォーカスして、2人に話を聞いた。音楽そのものだけでなく、黒人文化に対する考え方やアフリカ系イギリス人の視点からの文化盗用への考え方など、話は多岐にわたった。ここにはUKジャズの今を読み解くためだけでなく、様々なヒントが埋まっているはずだ。
「Pineapple」、今年11月にリリースされた『Jazztronica - Live at Late Night Jazz Royal Albert Hall』より
―そもそもアフロビーツを聞き始めたきっかけは?
NK-OK:アフロビートとアフロビーツは別物だってところから始めた方がいいよね。アフロビートはフェラ・クティ、トニー・アレンが(1960年代に)生み出したもの。僕らも最初はそこから興味を持った。そのうちウィズキッド、バーナ・ボーイ、プロデューサーのジュルス(Juls)に出会って、そこからアフロビーツにも興味を持つようになった。
―ウィズキッド、バーナ・ボーイのどんなところに惹かれましたか?
NK-OK:ウィズキッドは曲の中にある「楽しい」(Joy)部分が好きなんだけど、一方で歌詞を聴くと深い意味があったりする。そこはフェラ・クティがやってきたこととコンセプト的に通じる部分がある。同じようなコンセプトが世代を超えて受け継がれていて、そのクリエイティビティに惹かれるんだ。音楽的にはリズムがパーカッシブなエレクトロニックの音楽なんだけど、ライブ・パーカッションも使われていたりもするのもいい。ボーカルだとオートチューンも使うんだけど、それがあくまでエフェクトとして使われているのも好きな部分だね。
―歌詞にはどんな意味があるんですか?
NK-OK:例えば、バーナ・ボーイの初期の歌詞には政治的な部分がある。彼はナイジェリアの政治について歌っているんだ。そこはフェラ・クティと似ているし、僕はそこに世代間の継承を感じるんだ。だから、バーナ・ボーイは、なんていうかな、音楽を武器というか……。
Mr DM:プラットフォームだね。
NK-OK:そうそう、プラットフォームとして使ったんだ。そこに政治的なトピックを乗せていった。でも、曲調は楽しかったりするから、政治的なことを歌っていても、気持ちはリフレッシュされる。
Mr DM:そもそもバーナ・ボーイの祖父はフェラのマネージャーだったからね。直接的な繋がりもあるんだ。僕らは「Motherland Journey」(アルバムのタイトル曲)でフェラ・クティの「Everything Scatter」をサンプリングしていて、多くの人に楽しそうな曲だねって言われる。でも、僕らは「歌詞を知ったら全く違う感覚になるから、そこにもフォーカスしてみなよ」って言うんだ。
NK-OK:僕らも最初はそんなに深い意味があるなんて知らなかった。「Everything Scatter」ではバスの中でフェラが乗客たちとコール・アンド・レスポンスをやっているんだけど、そこではバスから降りてもっと政治のことを考えようって歌っているんだよね。あとでリサーチしたとき、そういう歌詞だって気付いたんだ。実は僕も「Motherland Journey」の冒頭にバスっぽい音のエフェクトを入れてる。たぶん偶然だけど、そういうものを感じ取っていたのかもしれないね。
―ブルー・ラブ・ビーツにとって、音楽におけるメッセージ性って意識している部分ですか?
NK-OK:両親がパブリック・エネミーやN.W.A.が好きで家でもよく流れていたから、それが当たり前だったんだよね。ジャズにしてもインストだけど、音楽をプラットフォームにして政治的な立場をとっていたジャズ・ミュージシャンは少なくない。歌手だったらビリー・ホリデイみたいに「奇妙な果実」のような曲を歌う人もいた。だから、ジャズに関わる時点で最初から意識していたね。でも、僕の場合は音楽によっていかに人の心を癒したり、楽しませることができるかってところの方が大きかったかもしれない。
Mr DM:チャーリー・パーカー、マイルス・デイヴィス、セロニアス・モンク、チャールス・ミンガス、みんなインストだったけど、自分たちの置かれた状況や人種差別などを音楽の中で語っていた。ミンガスの「フォーバス知事の寓話」(Fables Of Faubus)が有名だけど、ジャズをやるってことはそもそもそういうことだよね。
ガーナで学んだアフロビーツの真髄
―今、日本でもアフロビーツは人気が出てきていて、もっと聴きたいという人、自分でトラックを作りたいという人も増えています。
NK-OK:そうなんだ。日本のプロデューサーがアフロビートを作るための最もいい方法は、ガーナやナイジェリアのプロデューサーにコントタクトをとって、彼らとコラボレーションをすることなんじゃないかな。例えば、イギリス人でアニメ好きな人なら日本人とコラボレーションすることがベストなのと一緒。そう考えたらわかりやすいよね。
―『Motherland Journey』の制作でガーナにも行ったんですよね。実際に現地のプロデューサーとコラボしたことで気付いたことはありますか?
NK-OK:すごかったのはパーカッションの使い方だね。
Mr DM:(タイトル曲では)ガーナのキルビーツ(KillBeatz)とコラボしていて、彼がプログラミングの多くを手掛けているんだ。僕らも少しはやっているけど、彼が作ったサウンドはあまりに素晴らしかった。
NK-OK:そもそもサンプリングのやり方も違うんだ。UKにもアフロビーツのプロデューサーはいて、彼らはナイジェリアやガーナにルーツを持っているんだけど、やっぱり現地でやってるプロデューサーに会って、オリジナルのソースに近づくと全然違うんだよね。例えば、キルビーツはスタジオのその辺に置いてあったガラスの瓶を使ってみたり、ミントのキャンディーが入っているポットを使ってみたりしていて、自分たちの周囲の環境にあるものはすべて音楽になるって感じだった。そういう手法によってテクスチャーがオーガニックなものになるし、すごくハートに響くんだよね。
Mr DM:高価なスタジオを使えばいいってわけじゃないんだよね。
―プロダクションの部分でも何か発見はありましたか?
NK-OK:キルビーツの音楽って、クオンタイズされてて整っている部分もあるんだけど、ある部分はライブ・パーカッションになっていて、かなりレイドバックしていたりするんだ。J・ディラ的なヒップホップのセンスに近い部分もある感じで、かなり自由さを残している。シャバカ・ハッチングスが言うところの「彼らはグリッドの曲げ方を知っている」ってこと。そうすることでリズムがより自然でオーガニックなものになる。ドラムのキックとリムショットはクオンタイズするんだけど、それ以外のパーカッションはライブの生の感じをそのまま使っていたり、そういうコンビネーションが面白かったよ。
キルビーツのスタジオセッション映像(2011年)
―ブルー・ラブ・ビーツはそこに生演奏を加えますよね。アフロビーツらしい生演奏の部分に関してはどうですか?
Mr DM:例えば、コード進行ひとつをとってもアフロビーツに取り組んだことで学べたことは多いよ。すごくシンプルに聴こえるんだけど、実際に演奏してみると難しかった。例えば、バーナ・ボーイの「Ye」はシンプルで、あの曲がかかるとみんな楽しそうに踊り出すわけだけど、演奏する方はすごく難しいんだ。一見簡単そうなんだけどね。ウィズキッドの「Essence」もものすごくシンプルなんだけど、聴く人を飛び上がらせる何かがあるんだよね。「Essence」にはたった2つのコードしかないんだ。でも、あのリズムの上で、エモーションやフィーリングをたった2つのコードで表現するのはかなり難しい。
NK-OK:リズム面でいうと、アフロビーツはどこに4拍目を置くかの考え方が、僕らにとっての普通の位置じゃないんだよね。キックとリムショットの1小節がループされているだけだから、基本的にはシンプルなんだけど、その4拍目の位置が違うから四つ打ちとは違う感覚でやらなきゃいけない。その4拍目のタイミングによって、音楽のすべてが変わってくるんだ。例えば、ボーカルはそのリズムに乗っかってるから、すべてに関わっている。でも、パーカッションに関してはリムショットとは役割が違っていて、キックとスネアのメインのリズムにとってのベッドみたいな感じで敷かれている。面白いよね。
文化の「盗用」と「リスペクト」の違い
―「BLUE NOTE PLACE」でのライブを見させてもらいましたが、お2人はライブでもアフロビートやハイライフ、アフロビーツをうまく表現していました。ロンドンではそういう音楽を演奏できる場所って結構あるものなんですか?
NK-OK:ここ1年半くらいはそういうセッションができる場所が特に増えてきたね。でも、僕はロンドンじゃなくて、ナイジェリアやガーナに行って、そこで何かをやるってことをもっと増やしたいと思ってる。もちろんお金がかかるから簡単には行けないんだけどね。だから、もっとビッグネームの人がそういうことをやってくれると、アフリカの現地のプロデューサーやミュージシャンの知名度も上がるし、彼らにクレジットを与えることもできるのになって思う。僕にはガーナの血が流れているし、ドラム・プログラムもやるんだけど、現地に行ってキルビーツとやってみたら「僕はやらなくて大丈夫です」と思ってしまった。ガーナの音楽に関しては彼の領域だし、彼が現地で何年も培ってきたものだとわかったから、自分は一歩引いた立場でやることが大事だなって感じたんだよね。
―現地のプロデューサーとのエピソードをもう少し聞かせてください。
Mr DM:ガーナのクラブシーンをこの目で見ることも目的のひとつだったんだよね。
NK-OK:だから、ゲットー・ボーイ(Ghetto Boy)に連れて行ってもらったんだ。夜の11時に行こうと思ったら「今から少し寝る」って言われてね。夜中の2時半くらいになって「まだ行かないの?」って言ったら「じゃ、そろそろ行こうか」って準備を初めて朝の4時くらいになってしまった。でも、着いたらそんな人が多くなくて「5時くらいにならないと人が集まらないよ」って。実際に人が増えて、それで朝の10時くらいまでパーティーが続いたんだ。そのときは平日だったから「週末はどうなの?」って聞いたら「週末は次の日の昼の1時までやってるよ」って(笑)。
DJがプレイするのはアフロビーツ、アマピアノ、アフロビート、ハイライフ、アメリカのR&B、ヒップホップ、グライム、ドリルとなんでもって感じ。びっくりしたのは16小節か32小節でどんどん別の曲に変えていって、4、5分おきに別のジャンルに変わってるみたいな感じ。すごい体験だったね。
ガーナのDJ、DJ Aromaによるパフォーマンス
ゲットー・ボーイとブルー・ラブ・ビーツのコラボ曲「Blow You Away (Delilah)」
―今日は「現地を見た方がいい」「現地を尊重する」という話がすごく印象的でした。お2人からはリスペクトも伝わってきますし、文化盗用にならないように現地のミュージシャンと一緒にやったり、彼らの名前をクレジットすることにすごく意識的ですよね。そういう姿勢も『Mother land Journey』の魅力に繋がっているのがよくわかりました。
NK-OK:僕らは「これ好きだな、よし試してみよう」ってことを自由にやってきた世代なんだよね。面白いと感じたら何でもやっていいって感じで。でも、他の文化に関わる際はその時にそこにある意味について考えて、きちんと理解しようとしなきゃいけないと思う。例えば、コーンロウもそれによって奴隷たちが逃げるための暗号のように道筋を編み込んだって話がある。そういう経緯を知らずにファッションだけで取り入れるのは違うと思うんだ。だから、もし僕が日本のジャズをやりたいなと思ったら、それをサンプリングしたりするだけじゃなくて、お互いのトラックの中で演奏したりできたらいいなと思う。文化が違うものに関しては、ルーツを理解したうえで、感謝して、リスペクトしてからやる必要がある。
―実際にガーナに行ってみて、そういった黒人の文化に関して特にインスパイアされたものがあれば聞かせてもらえますか?
NK-OK:歴史的な場所を体験できたことだね。エルミナ城っていう場所があって、そこはアフリカから奴隷として連れていかれる人たちが囲われていた場所なんだ。ガーナの血が流れている自分だけじゃなくて、黒人だったらこれを現地で見るのはエモーショナルな部分で感じるものがあるよね。
Mr DM:エルミナ城は(ガーナを訪れた)目的のひとつだったから、首都のアクラから3時間かけて行ったんだよね。
NK-OK:西洋にいて教えられる黒人の歴史って奴隷から始まっていて、それ以前の歴史はなかったもののようになっている。せいぜいあっても、船で連れてこられて、その船旅が大変だって話くらいだったりね。実際のアフリカには、マンサ・ムサ(※)のようなビル・ゲイツよりも巨額の富を持っていた人もいた。そういう話も学ぶことはできない。アフリカの話はせいぜいローマ帝国の話の中に少し出てくる程度だったりして、結局は白人の歴史が中心なんだ。
※14世紀にアフリカで最も裕福だったマリ王国の王。豊かな文化や洗練された教育を育んだと言われている。
だから、自分としては実際の黒人の歴史を知りたかった。今だったらインターネットでなんでも見られるけど、現地に行って体験するってことが重要だと思った。エルミーナ城だったら、ここでどんなことが行われていたかを知りたかった。例えば、ここのドアの先に行ったら二度とアフリカには戻ってこられなかったって事実を深く知って、感じることができたことが僕らにとって重要だった。
そういう意味で、ガーナの滞在の95%は楽しかったけど、5%は辛かったんだよ。実は子供の頃にもエルミナ城に行ったことがあった。でも、その頃の自分には事実をきちんと受け止める準備ができていなかった。今回はようやく自分のこととしていろんなものが入ってきた。エルミナ城の中には第二次世界大戦中に、黒人たちが「人の盾」として前線に立たされるためのトレーニングをさせられるスペースもあった。黒人が奴隷として送られる人たちがいた場所だったところが、その後、黒人が戦争の捨て駒のように使われるためのトレーニングのための場所になった。僕らはそういう悲惨さをきちんと学びに行ったんだ。
ブルー・ラブ・ビーツ
『Jazztronica - Live at Late Night Jazz Royal Albert Hall』
再生・購入:https://Blue-Lab-Beats.lnk.to/Jazztronica