現地時間の2022年12月11日(日)、NASAによる「2024年までに月面に人類を送る」ためのアルテミス計画の一環として、同ミッションで使用予定の宇宙船「オリオン」を月周回軌道で飛行させるテストが無事終了しました。オリオンはマッハ32という音速の32倍の速度で大気圏に突入し、バハ・カリフォルニア半島のグアダルーペ島近くに着水し、無事地球に生還しました。

NASA's Orion capsule blazes home from test flight to moon

https://phys.org/news/2022-12-nasa-orion-capsule-blazes-home.html

NASA’s Artemis I Orion capsule splashes down in the Pacific Ocean - The Verge

https://www.theverge.com/2022/12/11/23503957/nasa-artemis-i-mission-orion-splashdown

Here’s why NASA’s Artemis I mission is so rare, and so remarkable | Ars Technica

https://arstechnica.com/science/2022/12/after-decades-of-false-starts-nasa-really-is-returning-to-the-moon-this-time/

宇宙飛行士が最後に月面に着陸したのは50年前の1972年12月11日のこと。当時、アポロ17号に搭乗した宇宙飛行士のユージン・サーナン氏とハリソン・シュミット氏が月面着陸し、3日間かけてタウルス・リットロウ渓谷を探査しました。しかし、それ以降に月面探査を行った宇宙飛行士はいません。

50年以上ぶりの月面探査を計画しているNASAのアルテミス計画では、有人での月探査を2024年に実施することを目標としています。この月探査では4人の宇宙飛行士がオリオンに乗って月へと旅立つ予定で、2025年には2人の宇宙飛行士が月面着陸を実施します。

このミッションで利用される宇宙船の「オリオン」が、2022年11月16日にケネディ宇宙センターのスペース・ローンチ・システムで打ち上げられました。ミッション名は「アルテミス1号」で、アルテミス計画のメインミッションに向けた無人飛行試験という立ち位置です。

アルテミス1号のオリオン打ち上げ時の様子はNASAがYouTubeの公式チャンネル上でライブ配信しており、以下の動画で打ち上げの瞬間を見ることができます。打ち上げの瞬間は以下の動画の3時17分頃です。

Artemis I Launch to the Moon (Official NASA Broadcast) - Nov. 16, 2022 - YouTube

その後、打ち上げから25日半・140万マイル(約225万km)かけて月の周回軌道を飛行してきたオリオンが、東部標準時12時40分頃にメキシコのバハ・カリフォルニア沖に安全に着水し、アルテミス1号のミッションがすべて終了しました。地球へ帰還した際のオリオンは時速約2万4500マイル(約3万9000km)の速度に達しており、オリオンの表面シールドは華氏約5000度(摂氏2760度)となっていた模様。

NASAは公式Twitterアカウントで「スプラッシュダウン。宇宙を140万マイル移動し、月を周回し、将来のアルテミス計画で宇宙飛行士を贈る準備を整えるためのデータを収集したのち、宇宙船・オリオンは地球へ帰還しました」とツイートし、オリオンが無事地球に帰還したことを明かしました。





今回のアルテミス1号では、オリオンが地球の大気圏に再突入する際に「Skip Entry(スキップエントリー)」と呼ばれる操縦方法をテストしました。スキップエントリーは大気圏突入時にオリオンが揚力を利用して一度高度を上げてから再び大気圏に突入するという方法で、大気圏内での飛行距離を稼ぐことで、着水地点をより正確に定められるようになるというもの。着水地点をこれまでよりも詳細に指定できるため、宇宙飛行士の回収が比較的容易になります。なお、人を載せるよう設計された宇宙船でスキップエントリーを採用したのはオリオンが初めてです。

スキップエントリーを成功させたオリオンは、地上から約2万4000フィート(約7.3km)の地点でパラシュートを展開し、太平洋に着水するための減速をスタート。着水に成功したオリオンの回収はアメリカ海軍が実施予定となっていますが、回収完了までは数時間かかる見込みです。

回収完了後、NASAはオリオンに搭載されたセンサー内蔵のマネキンからデータを収集し、人間が搭乗することとなる有人ミッションに備えることとなります。なお、2024年に実施されるアルテミスII号ミッションでは、月の周回軌道に宇宙飛行士を派遣し、次の2026年のアルテミスIII号ミッションで月面着陸が実施される予定です。ただし、アルテミスIII号ミッションは早くても2026年までは実現しない模様。

NASAのビル・ネルソン長官は、「私は圧倒されています。今日は特別な日です……。我々は今、新しい世代と共に宇宙に戻ろうとしているのです。これは歴史的なことです」と述べミッションの成功を祝いました。