映画『スラムダンク』のネタバレ投稿、著作権侵害にならないのか?
人気漫画『SLAM DUNK(スラムダンク)』の新作映画『THE FIRST SLAM DUNK』(監督・脚本・井上雄彦氏)が、12月から公開された。
アニメ版の声優が入れ替えられたほか、公式が設定やあらすじなどを発表しない「異例」の展開となっていたことで公開前から話題だった。すでに鑑賞した人からは「とにかく観てほしい」など好評を博している。
一方で、SNSや動画配信サイトには「ネタバレ」となるような投稿・記事がアップされはじめている。未見で、これから映画館に行く予定の人にとっては、何がなんでも目にしたくないものだ。
映画のネタバレとは、どこまで許されるのだろうか。漫画を「すり切れるほど読んだ」というスラムダンクファンで、著作権法にくわしい田島佑規弁護士に聞いた。
●ネタバレを「死守!」
学生時代バスケ部だった私にとって、スラムダンクはまさに人生のバイブルです。「要チェックや!」ということで、映画の公開初日に観に行きました。
映画スラムダンクでは公式が設定やあらすじを一切発表しなかったことから「公式がそれを望むのなら、私たちは何の情報も入れずに試合(映画)に臨みたい!」というのが多くのファン心理であったように思えます。
実際にタレントの指原莉乃さんもTwitterで「誰もネタバレ絶対にしないでください!」と呼びかけるなど、ネタバレからのディフェンス力が問われる状況となりました。
--そもそも映画のあらすじ・ストーリーは「著作物」なのでしょうか。
これはまさに程度問題と言わざるを得ません。著作権が発生する著作物とは、端的に言えば「創作的な表現」であり、作品として具体的に表現されたものをいいます。
作品の根底にある、あるいは作品のもととなった「アイディア・着想」(たとえば、物語や登場人物の大まかな設定・コンセプト・作風といった要素など)は著作物とは考えられていません。
したがって、特定の映画を観て、そこから大まかなあらすじやストーリーを抜き出し、自らの言葉で端的に要約してSNSなどに投稿するといった行為は、あくまで特定の映画から「アイディア・着想」レベルの部分しか借りてきていない(著作物といえる部分を借りてきているわけではない)として、著作権侵害の問題にならない可能性も十分に考えられます。
--では、ネット上の投稿がネタバレとして著作権侵害になるのはどのような場合でしょうか。
つい先日、東京地方裁判所にて5億円の損害賠償を命じる判決言渡し(参考記事:https://www.bengo4.com/c_23/n_15275/)があったことでも話題の「ファスト映画」のようなケースが典型例かと思います。
ファスト映画は、基本的に映画全体を10分程度にまとめ、ストーリー展開を詳述するようなものを指すと考えられますが、このような内容となればもはや「アイディア・着想」レベルの部分だけを借りてきているとは言えないことが多いでしょう。
どこまでが許容されるかといった基準は難しいですが、一つ試験的に説明すれば、いわばネタバレの中でも「映画の代替物となり得るようなものを提供する類型」は著作権侵害になる可能性が高そうだと言ってもよいかもしれません。
たとえば、映画自体を観なくとも一定程度満足できてしまうようなネタバレとでも言い替えられるかもしれません。この類型を仮に「代替物型ネタバレ」と呼んでみましょう。
一方、今回の映画スラムダンクで問題視させるようなネタバレは、見たくない人にとってある程度自衛が可能とも思われる「代替物型ネタバレ」ではなく、物語の前提となる設定や結末、物語の核心に触れる内容を一言、あるいは1行のような極めて短い言葉で記すことで、まだ映画を観ていない者に大きな影響を与えてしまう類型のものをいうと考えられます。
たとえば、ブログのタイトルからしてネタバレみたいなものもこれに含まれそうですね。これを仮に「配慮欠如型ネタバレ」と呼んでみます。
●よりネタバレを避けたい人が憎むタイプの「ネタバレ」のほうこそ違法性を問われにくい?
――「配慮欠如型ネタバレ」は著作権侵害にならない?
「配慮欠如型ネタバレ」を、絶対に目にしたくないと思っている人に向けて故意におこなう行為は悪質ではあるものの、残念ながら「物語の前提となる設定や結末、物語の核心に触れる部分」を極めて短い言葉でSNSなどに投稿する程度であれば、映画のうち「著作物」と呼べる部分を投稿したとは言えず、著作権侵害にはならない可能性が高いようにも思います。
もちろん著作権法上の整理とは別に、配慮欠如型ネタバレを故意におこなうことがマナーとして許されるべきものでないことは言うまでもありません。また故意でなくとも、ネタバレ的な内容を含む感想などを不特定多数が目にするSNSなどに不用意に投稿することで、ネタバレを見たくなかった誰かが偶然目にしてしまう可能性もあります。
この辺りは、もはや法律上の問題というより、まさに配慮の問題ですが、同じ作品を愛する誰かが傷つかないよう気を付けつつ、コンテンツライフを楽しんでいければと思います。
--最後に、原作のスラムダンクで一番好きなシーンがあれば教えてください。
仙道がわざと牧に追いつかせるシーンです。
【取材協力弁護士】
田島 佑規(たじま・ゆうき)弁護士
2016年弁護士登録。第二東京弁護士会。2020年5月、骨董通り法律事務所加入。2022年1月、国内大手番組制作会社に部分出向。エンタメを愛する弁護士として、アート、演劇・ライブイベント、映像、出版、音楽といった分野にて日々法務サポートを行っている。Twitter:@houjichazuki
事務所名:骨董通り法律事務所
事務所URL:http://www.kottolaw.com