迷いインコを「腹が減ったから食べた」 SNSで探す飼い主に「血も涙もない」コメント、法的問題は?
迷子のインコをツイッターで探す飼い主に、「食べた」などと悪質なコメントで嫌がらせするアカウントが見つかった。
このような卑劣ともいえる行為に対して、慰謝料を求めたり、刑事罰を科したりできるのだろうか。専門家は複数の法的な問題を指摘する。
●「ブロック推奨です」
迷子になったペットの飼い主のため、ツイッターで情報発信を続けるアカウントが11月、注意を呼びかけて話題になった。
〈インコを捜索中の飼い主様に「保護しました」とコメントを入れて、その後に「腹が減ったので食いました」と嫌がらせのようなコメントを入れてくるアカウントがありますので、ブロック推奨です〉(11月26日の投稿)
見つかった喜びから一転、「食べた」と言われた飼い主が、天国から地獄に突き落とされるような気持ちになることは想像にかたくない。
投稿した「ぴーちゃん(@pi_chan_413)」さんは、弁護士ドットコムニュースの取材に、問題のアカウントは、ユーザー名を変更したのち、アカウントを削除したとみられるそうだと話した。また、過去にもこうした行為や差別的な言動をおこなっていたという。
こうしたコメントに対して、どのような責任を問うことができるのだろうか。坂野真一弁護士に聞いた。
●【弁護士の解説】裁判になれば「有力な証拠」になりえる場合も?
まず、誰かが飼っているペットのインコを実際に食べた場合に、どのような問題が生じるか検討してみましょう。
たとえば、海の魚は基本的に誰の物でもない(無主物)ので、魚の所有者は捕らえた人になります(民法239条1項)。
しかし、飼っているインコが逃げても、飼い主の所有権が失われたわけではありません。そのインコを捕らえても、その人の所有物にはなりません。
民法には、次のような規定もあります。家畜以外の動物で他人が飼育していた物を占有する者は、飼い主の占有を離れたときから1カ月以内に飼い主から回復請求を受けなかった場合、その動物に対して行使する権利(所有権等)を取得するというものです(民法195条)。
九官鳥は「家畜以外の動物」に当たらないとする判例もありますし、インコも日本においては通常、やはり「家畜以外の動物」に該当せず、インコを捕まえたとしても、取得後1カ月で所有権を得ることはできないでしょう。
したがって、そのインコを捕らえて食べる行為は、飼い主のインコ所有権を侵害したことになり、不法行為として損害賠償の対象となりえます。さらに、飼い主に精神的損害が生じた場合は、慰謝料も請求できる可能性があると考えられます。刑法上、器物損壊罪等に該当する可能性も考えられるところです。
もし飼い主が投稿者を特定し、損害賠償請求訴訟を起こした場合、投稿者が「保護したインコを食した」と自ら投稿していることは、飼い主のインコ所有権を侵害したことを自ら告白している内容になりますから、民事裁判において相当程度有力な証拠になる場合も考えられます。
●嫌がらせの虚偽ツイートだとしても、損害賠償の対象になりえる
仮に、単なる嫌がらせ目的で「保護したが食べた」と虚偽のツイートをしている場合には、客観的には飼い主のインコ所有権の侵害は生じていないことになります。
しかし、虚偽のツイートにより、飼い主がインコを取り戻そうとした場合に費用が生じた場合や、飼い主に精神的ダメージを与えた場合、故意または過失により、飼い主の権利を侵害したといえ、不法行為として損害賠償の対象となりうる場合があると考えます。
虚偽のツイートにより飼い主が神経衰弱などに陥った場合、投稿者に刑事責任が問えるかという問題も生じます。この点、具体的な投稿状況にもよりますが、嫌がらせ電話により不安感を与えて神経衰弱症にした場合に傷害罪の成立を認めた裁判例(東京地判昭和54.8.10)が参考になるかもしれません。
【取材協力弁護士】
坂野 真一(さかの・しんいち)弁護士
ウィン綜合法律事務所 代表弁護士。京都大学法学部卒。関西学院大学、同大学院法学研究科非常勤講師。著書(共著)「判例法理・経営判断原則」「判例法理・取締役の監視義務」(いずれも中央経済社)、「弁護士13人が伝えたいこと〜32例の失敗と成功」(日本加除出版)等。近時は相続案件、火災保険金未払事件にも注力。
事務所名:ウィン綜合法律事務所
事務所URL:https://www.win-law.jp/