ヤフコメ投稿主は「元同僚」? 無罪判決の男性経営者が怒りの刑事告訴、「バカボン」書き込み許せず
愛知製鋼の元専務で、不正競争防止法違反の罪に問われ、無罪判決を獲得した本藏義信さんが、ヤフーニュースに配信された記事のコメント欄(いわゆる「ヤフコメ」)で侮辱されたとして、投稿者とされる男性を相手取り、約200万円をもとめて名古屋地裁に訴訟を起こしている。提訴は10月13日付。
本藏さんに無罪を言い渡した地裁判決を伝える記事に書かれたヤフコメ「バカボン」「どれだけ人を踏み台にして上がっていったか」などは、人格をおとしめるものだと主張している。
本藏さん側によると、裁判の中で、投稿者はかつて愛知製鋼で働いていたと説明したことがわかったという。侮辱罪で刑事告訴もしており、愛知県警はすでに受理している。
●ヤフコメに「バカボン」などと書き込まれた
本藏さんは、愛知製鋼の磁気センサーに関連する情報を外部に漏らしたとして、2017年に逮捕・起訴された。今年3月18日、本藏さんと元社員の男性は、名古屋地裁から無罪を言い渡されている。検察は控訴せず、判決が確定した。
訴状によると、問題のヤフコメは、判決を伝えるニュース記事の投稿欄に書き込まれた。
〈バカボン〉 〈どれだけ人を踏み台にして上がっていったか、自分自身が知ってるだろう。上告。〉
このヤフコメは同22日までには見られなくなっており、同31日までに配信記事も消えたという。
記事には、本藏さんの氏名や、本藏さんが記者会見する様子が映っている。
そうしたことから、ヤフコメは裁判で無罪になった本藏さんのことを対象にして書かれたものであり、「バカ」「人を踏み台にして上がっていった」という表現は、名誉感情を侵害するもので、無実の証明に4年以上もかけた本藏さんにとって、追いうちをかけるような侮辱行為は許せるものではないとしている。
●突き止めた投稿者の反論「バカボンは人を馬鹿にする呼び方ではない」
民事・刑事で責任を問うため、投稿者の情報を求めて、3月〜9月にかけて手続きを進め、発信者情報開示の仮処分申請を申し立てた。
ヤフーからIPアドレスと送信日時(3月19日午前1時16分)の開示を受けると、複数のプロバイダへの訴訟を経て、大阪府にある企業のサーバーを利用して投稿されたことがわかったという。
企業からは、元従業員の男性が発信者であるとの回答を弁護士会照会を通じて得たとしている。
ヤフコメの投稿者を特定したと考え、本藏さんは今年10月に男性を提訴した。
本藏さんの代理人で、本藏さんが代表を務める会社のインハウスロイヤー・井上健人弁護士によると、男性側は自分による投稿と認める一方で、本藏さんを侮辱したつもりはないし、この投稿が、本蔵さんに向けられたものであるかは分からないようにしているなどと主張し、請求棄却をもとめているという。
「11月29日の第1回口頭弁論の陳述(被告側)によると、被告の男性は愛知製鋼の元従業員ということでしたが、本藏氏は男性と面識がなく、裁判において、投稿の動機や経緯も含めて、全容を解明したいと考えています」
男性側は、男性が愛知製鋼で勤務していたころ、本藏氏は「バカボン」あるいは「バカボンのパパ」というあだ名で呼ばれていたなどと振り返り、馬鹿にする意味で「バカボン」と書いていないと釈明した。
この点、井上弁護士は、「愛知製鋼時代に本蔵氏が、他の社員から面と向かって『バカボン』と呼ばれたという事実はありません」と否定したうえで、投稿の全体を見れば、「バカボン」とは、本蔵氏を「バカ」と侮辱する意味にしかとれないとの考えを示した。
●「ヤフコメ携帯電話番号必須」つい3週間前のこと
問題のヤフコメが投稿されたのは法改正前だったため、侮辱罪の公訴時効1年(現在は3年)のうちに特定する必要があった。
「特定のため、開示手続きを4度もおこなっています。ヤフーニュースは今年11月15日からヤフコメの投稿において携帯電話番号の登録を必須としました。それであれば、金銭的・時間的負担を大幅に減らすことが可能となると予想されます。」(井上弁護士)
本藏さんは10月5日、愛知県警に刑事告訴した。同11日に受理されたという。
厳重処分をもとめたうえで、不競法違反事件で取り調べにあたった県警本部刑事部の警部補を捜査担当として指名した。
「愛知県警察本部の誤った見立てによって無実の罪で逮捕、その後起訴され、多大な苦痛と損害を被った告訴人(=本藏さん)に対する償いにもなると思われる」という文章で告訴状は締められている。