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大麻は「悪」ですか?なぜ、持っていただけで、もっとも厳しい制裁である「刑罰」を科されなければならないのですかーー?

大麻を所持していたとして、大麻取締法違反の疑いで逮捕・起訴された陶芸家の男性が、こう問いかけ、法廷をざわつかせた刑事裁判<陶芸家の男性「大麻は悪なのか?」 刑事裁判で異例の問題提起、法廷どよめく(https://www.bengo4.com/c_1009/n_14269/ )>。

11月8日、5回目となる公判が前橋地方裁判所(群馬県前橋市)でおこなわれ、鑑定人への証人尋問がおこなわれた。大麻成分であるTHCが検出されなくても「大麻草」と鑑定できるとの鑑定人の証言に、公判後、裁判を傍聴した人たちからは驚きと混乱の声があがった。

●職務質問の理由は「ラテン系の服装」や「前歴」か?

裁判で「異例」の問いかけをしたのは、陶芸家として活躍する大藪龍二郎さんだ。「縄文」をテーマに数々の作品を手がけ、作品づくりの道具として大麻(精麻)を使っている。

長年、大麻取締法違反事件を手がけてきた丸井英弘弁護士(主任弁護人)と刑事政策・犯罪学の研究者としても知られる石塚伸一弁護士が担当している。

大きな争点の1つとなっているのが、職務質問から現行犯逮捕までの手続きの違法性。大藪さんは「ハッパの日」とされる2021年8月8日に逮捕された。陶芸イベントを終えた翌朝のことだった。疲労困憊だった大藪さんは、道路の路肩に車を停めて、車内で寝ていたという。「路上に車が停まっている」との近隣住民の通報を受けた警察官が車の窓を叩く音で目を覚ました。そして、職務質問がおこなわれた。

警察官に「車の中を調べさせて」といわれた大藪さんは、これに応じた。車内から植物片がみつかると、別の警察官が駆けつけた。簡易検査の結果、植物片は「大麻」と判断され、大藪さんは現行犯逮捕された。

警察官が大藪さんに職務質問をおこなった理由のひとつとして挙げられたのは「大麻使用者が好むラテン系の服装であった」ことだった。

5月11日に開かれた3回目の公判では、職務質問をおこなった群馬県警の警察官への証人尋問がおこなわれた。この警察官は、職務質問をした理由として、「ラテン系の服装」のほか、次のことを挙げた。

・前歴があり、その前歴の日にちが近かったこと
・目がとろんとしており、顔色が悪かったこと
・登坂車線に車があり、車の駐車の方法が明らかに異常であったこと
・車にキズがあったこと

6月29日におこなわれた4回目の公判では、この植物片が「大麻」であるかどうかの予試験をし、現行犯逮捕した警察官に対する証人尋問がおこなわれた。

警察官は、予試験の結果や「前歴」だけではなく、あくまで「総合的に」逮捕の必要性があると判断したと繰り返した。丸井弁護士が警察官に予試験の知識について質問を続けると、警察官は回答できず、裁判官が「質問はやめてください」と止める場面があった。

かわりに、5回目となる11月8日の公判で呼ばれたのが、鑑定人である科学捜査研究所の技官だ。鑑定人は、2つの袋に入った「植物片」を鑑定し、いずれも大麻草であると結論づけた。証拠となる検査結果はモニターにうつし出されず、傍聴席からは確認できなかった。

鑑定人によると、大麻草と判断したのは、顕微鏡による検査で特徴的な剛毛がみられたこと、大麻特有の成分が検出されたことが理由だという。

大麻特有の成分としては、CBD、THC、CBNがある。弁護人が「THCが含まれておらず、CBDやCBNだけでも大麻草と判断するのか」と質問すると、鑑定人は「はい」と答えた。 つまり、剛毛などの形態を備えていれば、THCが含まれていなくても「大麻草」にあたりうるということだ。

公判後、裁判を傍聴した人たちからは「そっくりな剛毛をもち、THCが含まれるウラジロエノキという植物があるが、これも大麻草となるのか」「自分はCBDとCBNしか含まれないハーブを持っている。これは、どうなるのか」など、混乱の声があがった。

●職務質問〜逮捕が「違法」ならば、無罪の可能性も

警察官が職務質問できる場合については法律に規定があり、異常な挙動をするなどの「不審事由」が要件とされている。

警察官職務執行法2条

警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。

職務質問をおこなった警察官は、大藪さんを起こした後に身分証明書の提示を求め、相勤者に照会を頼んだ。その結果、大麻取締法違反の「前歴」があることがわかったという。大藪さんは、大麻の種を所持し、起訴猶予になったことがある。このような「前歴」があることを理由に職務質問をおこなったとすれば、偏見を抱いていたことにもつながると弁護人は指摘している。

また、服装を理由に職務質問をすることは、人種や肌の色、国籍、言語など、特定の属性にもとづいて、個人を捜査の対象とする「レイシャルプロファイリング」と同じ問題を含んでいる。

東京弁護士会がアンケート調査をおこなった結果、外国にルーツをもつ回答者のうち、6割以上が過去5年以内に職務質問を受けていることも明らかになった<「見た目でクスリ持ってると疑われた」 外国ルーツの人々、差別的な「職務質問」受ける実態浮き彫りに…東京弁護士会が調査(https://www.bengo4.com/c_1009/n_14987/)>。

東京弁護士会が9月9日に公開した最終報告書によれば、職務質問を受けた外国にルーツをもつ回答者のうち、8割以上が「カジュアルな服装」であると回答している。

アンケートにこの質問を入れた理由について、会見では「(東京弁護士会に)ヒップホップ系やスーツではないときに話しかけられやすいとの情報があった」との説明があった。

さらに、逮捕は必要だったのかという問題もある。「逮捕の必要性(逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがある場合)」がなければ、逮捕権の濫用(らんよう)にあたる。職務質問から現行犯逮捕に至るまでの一連の手続きが違法と判断されれば、「植物片」の証拠としての力もなくなる。つまり、無罪となる可能性も考えられる。

●東京近郊から前橋地裁へ、署名活動も

公判後におこなわれた報告会で、大藪さんは鑑定人に「あの場で話すことは負担があったのでは。たいへんありがたい。涙が出た」と感謝の気持ちを語った。傍聴券を求めて、東京近郊からはるばる裁判所まで足を運んだという人たちも少なくなかった。

大藪さんと弁護団は、今後も一連の手続きの違法性のほか、大麻取締法そのものの問題点についても切り込んでいく方針だ。

現在、国では法改正に向けた動きもある。刑罰による影響やスティグマの観点などから反対の声も上がる中、大麻の「使用」罪を設ける方向性での議論もおこなわれている。

大藪さんは、裁判所を舞台に「大麻とは何か」「大麻は悪なのか」を正面から問い続ける。公正な裁判を求めるための署名は11月9日時点で、4150通以上集まっている。

次回の公判は2023年1月24日(予定)。大藪さんに対する質問のほか、弁護人の意見陳述がおこなわれる。