本田真凜が闘い続ける「スターのイメージ」。目標に向け一歩前進も「もっとできるところを皆さんにお見せしたい」
10月2日、東京選手権フリーの本田真凜
9月30日、西東京市。全日本選手権の予選でもある東京選手権に、本田真凜(21歳、JAL)は出場している。
リンクサイドに姿を現した本田は、端から端を行ったり来たりしたあと、ピンクの上着を脱いで臨戦態勢に入った。黒を基調にちりばめたストーンが輝く、ドレスタイプの衣装。肩を回し、腕を振り上げ、体をほぐしたあと、ブレードのカバーを外す。前の選手と入れ替わりでリンクに立つと、表情はやや硬かったが、体の動きは柔らかく、足の運びはのびやかで気力に満ちていた。
ショートプログラム(SP)を滑ったあとに本田は語ったが、その言葉どおり、復調の兆しが見えた。ジャンプは3回転サルコウ、3回転フリップ+2回転トーループの連続ジャンプ、ダブルアクセルと3本とも「q」(4分の1回転不足)がついたが、練習どおりに降りている。『Assassin's Tango』で静かに燃える曲を艶めかしく演じきり、50.53点で7位と好発進だ。
「最初のジャンプのミスはあまりなくて、緊張して慎重になったと思います。切り替えられて、残りのふたつはよかったなと。フリーも練習ではノーミスが何回かできているので、自信をもって演技ができたらと思います。去年とは比べ物にならないくらい、状態はよくなってきているので。スケートをメインに置きながら、大学生活やお仕事の時間配分もうまくできてきて、今年は滑れているなって」
本田は笑顔で語った。「スターのイメージ」が生む異様な光景
しかし、彼女はこれからも「本田真凜というイメージ」との対峙を余儀なくされるのだろう。
本田は、天性のスターと言える。リンクに立つと、女優然とした引力があり、ほのかな色気を漂わせる。華があるのだ。
SPの本田
2016年の世界ジュニア選手権で優勝を果たし、頭角を現した。同年の全日本選手権では、中学生ながら4位になった。2017年の世界ジュニアでは、アリーナ・ザギトワ(ロシア)としのぎを削り、200点超えで自己記録を更新。愛くるしい容姿もあって、「天才少女」の人気は急騰した。2018年の平昌五輪に向け、新たなスケート界のヒロイン登場だった。
ところが、シニア1年目で失速し、五輪出場も逃している。それ以降は、好転し始めると不慮の事故に遭うなど、成績は低調。全日本選手権で7年連続出場権を獲得しているのは勲章だが、昨シーズンは21位だった。
ただ、「スターのイメージ」だけは今も同じくつきまとう。
たとえば今回の東京選手権でも、それは顕著だった。オンライン取材では、「引退はいつ?」「次の職業は?」「交際宣言を」という露骨な質問を容赦なく浴びる。それは控えめに言って、異様な光景だろう。シーズンをスタートさせた、競技後のアマチュア選手の取材だ。
「本田真凜のイメージ」だけが暴走している。
本人は、どんな質問にも受け答えしていた。それは真摯な人柄とも言えるし、大人の世界で生きてきた処世術なのかもしれない。あるいは、彼女自身が「本田真凜のイメージ」と共存しようとしているのか。
3年前のインタビュー、彼女はこう答えていた。
ーーすべてがハマった自分を見てみたい、という発言をしていましたが、パズルのピースはどれだけハマりましたか?
その問いかけに、本田は闊達な声でこう答えていた。
「ちょっとずつ組み立てたのが、まだバラバラって感じです。今までは考えてスケートをすることがなくて。小さい時は、感覚で何でもできるのがあったんです。でも、それはもうできなくて。普段の生活から、一つひとつ考えて行動するように心がけています。おかげでそろってきている感じで。粘り強く頑張りたいです」
10月2日、フリースケーティング。本田は赤いドレスに赤い髪飾りで、『ムーラン・ルージュ』を滑っている。冒頭、3回転ループ+2回転トーループ+2回転ループで高得点をたたき出した。しかし、その後のジャンプは転倒もあるなど、思ったように決まらなかった。スコアは88.01点で9位。トータル138.54点で8位、わずかに順位を下げた。
「(フリーは)よくなかったです。出だしは練習どおりできたんですが、ひとつ失敗したあと、"どうしよう"ってなっちゃうのもよくなくて」
本田は反省を口にした。ただ、この日の成績で無事、東日本選手権へ通過。8年連続の全日本出場権獲得に一歩近づいた。
「試合は練習と呼吸が違っていて、息をずっと吸い続けてしまうというのがわかりました。これからは落ち着いて、自信を持って滑れるように。タイミングとか、本当に少しのズレのところの調整でよくなると思うので。東日本選手権では、"もっとできる"ところを皆さんにお見せできるように。一番の目標は全日本出場なので」
11月、本田は東日本選手権に挑む。「本田真凜のイメージ」との対峙は、もはやあらがえない。彼女自身、スターとして求められる姿に近づくしかない。その格闘が人を惹きつけることも事実だ。