相場展望8月29日 パウエルFRB議長の『失敗』、バイデン大統領の大盤振る舞いが招いた高インフレ対策で、金融引締めは長期間・景気悪化は避けられず

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)8/25、NYダウ+322ドル、33,291ドル(日経新聞より抜粋)  ・足元で上昇基調にあった米長期金利が8/24に3.12%⇒8/25に3.02%に低下し、株式の相対的な割高感が和らぐと見た買いが優勢で、アップル・マイクロソフトが上昇。  ・8/26のパウエルFRB議長の講演を目前に控え、売りの持ち高を買い戻す動きが活発化したとの見方もあり、NYダウは取引終了に掛け上げ幅を広げる展開となった。  ・FRBのインフレへの認識や今後の利上げペースについて関心が高い。ただ、FRBは今後の利上げペースは、経済データ次第との姿勢で、先行きの金融政策について明確な示唆が出てくる可能性は低いと見られる。  ・中国の経済対策への期待で、ボーイング・キャタピラー・ダウなど景気敏感株が上昇。   ・通期業績見通しを下方修正したセールスフォースは▲3%安。

【前回は】相場展望8月25日 米国株:まだ楽観的、債券:慎重、と際だった相場見解 日本株:足元の反落は「調整」の範囲

 2)8/26、NYダウ▲1,008ドル安、32,283ドル(日経新聞より抜粋)  ・米国株市場8/26、約1カ月ぶりの安値、下げ幅・下落率ともに今年3番目の大きさ。  ・米パウエルFRB議長は、ジャクソンホール会議で講演し、インフレ抑制を最優先に利上げを続ける方針を改めて強調した。金融引締めの長期化観測が強まり、米景気の一段の悪化を懸念し幅広い銘柄が下落。  ・インフレ抑制について「やり遂げるまで、やり続けなければならない」とも述べた。物価安定の回復のため「景気抑制的な政策スタンスを当面は維持が必要」とも話した。  ・市場では「高い政策金利の水準が、金融市場の想定よりも長く続くとのメッセージだ」と受け止められ、市場の一部で浮上していた早期の利下げ転換への期待が後退した。  ・パウエル議長は、金融引締めが「家計や企業に痛みをもたらす」とも説明。  ・FRBは景気を犠牲にしてでも物価高を抑制との見方が強まり、幅広い銘柄が下落。景気敏感株とハイテク株への売りが目立った。スリーエム▲10%安、アップルとマイクロソフトともに▲4%下げた。  ・欧州中央銀行(ECB)が利上げペースを加速するとの観測も高まり、世界的な景気悪化が避けられなくなるとの懸念も、投資家心理の重荷となった。

●2.米国株:パウエルFRB議長の『失敗』、バイデン大統領の大盤振る舞いの『つけ』が『高インフレ』を招く。インフレ抑制のため金融引締めは長期間続く、景気はどん底に

 1)パウエルFRB議長の『失敗』、金融引締めをより強化・長期化し、景気どん底方向に  ・『失敗』とは、昨年来「インフレは一時的」とインフレ見通しについて間違った判断を1年にわたって続けたことにある。その時の根拠として、「データ」が高インフレを示していないとした。  ・そのため、この1年間、金融緩和のアクセルを踏み続けた結果、現状のような高インフレ率の高騰を誘引した。もちろん、ロシアのウクライナ侵攻が招いたエネルギー高・食料高もあるが、それはインフレを加速させたに過ぎない。  ・そして、現在は「データ」が高インフレを示しているとして、「インフレ抑制のため、金融を一段と引締める」と8/26の講演で述べた。8/26の講演内容は、珍しく従来とは違った「適切な状況判断」である。  ・ただ、彼が根拠したデータは、既にどうしようもないぐらい高インフレ圏にあることを示す「遅行したデータ」である。「データは過去の情報」である。「遅行したデータ」が出てから、今後の政策判断をするのは間違っている。この考え方をパウエルFRB議長が「自身の思考に固守」するならば、2023年後半以降になると思われる「金融緩和のタイミングを逸してしまい、米景気がどうにもならないぐらい悪化」するまで、つまり「高インフレ抑止がデータで証明されるまで金融引締めを継続」してしまう可能性がある。つまり「オーバーキル」してしまうことを示している。必要な能力は「過去となったデータ」から『先行きを正確に読み取り、先回りして悪い芽を摘み取る金融政策を実行する』ことにある。  ・パウエルFRB議長に求められるのは、「遅行データで確認してから政策判断」をするのでは、常に判断遅れの『失敗』が付き纏うことになる。そのためには、彼が弁護士時代に身に付いた「過去情報を根拠」として法廷対策を考えるという思考回路から抜け出す必要がある。それができなければ、次の『金融引締め⇒緩和への転換』も『景気がどん底』を確認してからということになりそうである。その場合、挽回するための過剰な金融緩和をするという、悪循環の繰り返しとなる。

 2)この度の、高インフレを起こした首謀者は2人「パウエルFRB議長、バイデン大統領」  ・バイデン大統領:行き過ぎた大規模景気対策(2021年春の大判振る舞い)  ・1.9兆ドル(約209兆円)の個人への現金給付含む経済対策  ・2.25兆ドル(約248兆円)(8年間)のインフラ投資計画  ・パウエルFRB議長:金融緩和の急膨張(FRB資産4⇒9兆ドル)  この最高責任者が、高インフレを招いた。  ・バイデン大統領は、米景気が回復軌道に乗っているにもかかわらず、大統領選挙公約の実施に邁進した。イエレン財務長官は、立場を忘れ、バイデン大統領を強烈で盲目的な支持をし、パウエルFRB議長にも迎合するように誘導発言をした。

 3)この結果、金融引締めを強く意識し、利上げが長期期間継続し、景気が大きく冷え込む懸念(リセッション)が確定したと思われる。  ・米株式相場は、6月下旬からの反騰は「1月初頭からの下落に対する戻り相場」という位置付けになりそうである。本格反騰とはならなかった。  ・グロース(成長)株であるハイテク銘柄は金利上昇のため、景気敏感株の株価は失速する可能性がある。  ・8/26米国株式相場の状況: 恐怖(VIX)指数は25.56と前日比▲17.4%悪化   NYダウ   : ▲1,008ドル下落、▲3.03%安   ナスダック総合: ▲497安、▲3.94%安   SP500    : ▲141安、▲3.37%安   半導体株指数 : ▲172安、▲5.81%安

●3.FRBパウエル議長「インフレ抑え込む痛みは避けられないコスト」(NHKより抜粋)

 1)パウエル議長講演要旨 : 「記録的なインフレを抑え込む決意を示した」  ・物価が安定しなければ経済は機能しない。  ・インフレを抑え込むには、家計や企業に何らかの痛みをもたらすことになる。それは避けられないコストだ。  ・物価の安定を取り戻すことに失敗すれば、もっと大きな痛みを伴うことになる。  ・早期利下げを否定「インフレ低下の確信にはほど遠い」。  ・インフレ抑制を「やり遂げるまで」利上げは継続。(高金利維持する可能性高いと示唆し、利下げへの転換期待裏切る)

●4.米7月コア個人消費支出(PCE)は前年比+4.6%、予想以上に鈍化(フィスコ)

 1)FRBのインフレ目標+2%のほぼ2倍以上となり、利上げペースが減速の可能性少ない。

●5.フィラデルフィア連銀総裁、FRBは3.4%まで利上げ後、様子見が適切(ロイター)

 1)ハーカー総裁は8/25、「インフレ制御が最優先事項となる」と語った。大幅利上げ実施後に、利下げに転じる方針は支持しないとの、考えも示した。

●6.セントルイス連銀総裁、高インフレは予想以上に長期化する可能性(ロイター)

●7.BofA、米国株強気論支える根拠は「かなり貧弱」(ブルームバーグより抜粋)

 1)インフレがピークを付けた兆候が出始める中、ウォール街の多くは強気になりつつある。だが、バンク・オブ・アメリカ(BofA)は違う。その根拠は、(1)インフレ率の高止まり (2)長期金利は引続き3%近くにある (3)4〜6月企業業績の増収率が15%となったが、エネルギー部門の80%増によるもので、その他の部門は精彩を欠いていると指摘した。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)8/25、上海総合+31高、3,246(亜州リサーチより抜粋)  ・中国政府の景気下支えスタンスが好感される流れだった。  ・国務院は8/24の常務会議で、特別地方債の発行額の上積みなどを決定した。会議では、一連の経済安定化策を実施し、金利低下を誘導する方針などを示している。  ・中国人的資源社会保証部の副部長は8/24に会見し、雇用拡大に向けて財政・金融政策を促進する必要性に言及した。  ・業種別では、エネルギー関連の上げが目立ち、発電も高い。ハイテクは冴えない。

 2)8/26、上海総合▲10安、3,236(亜州リサーチより抜粋)  ・中国経済の不透明感が重石となる流れとなった。  ・本土では記録的な干ばつや、電力需給の逼迫が経済活動を停滞させると懸念された。電力不足を補うため、一部地域では、工場の稼働停止や商業施設の時間制限を実施。  ・また、パウエルFRB議長に講演を今夜に控え、米金融政策を見極めたいとする姿勢も手控えにつながった。ただ、下値は限定されている。  ・中国当局の経済対策への期待感は根強く、指数はプラス圏で推移する場面があった。  ・業種別では、足元で上昇が目立った石炭が冴えず、不動産も安く、自動車はしっかり。

●2.中国経済の回復に警戒信号、海外需要急減と干ばつで景況感悪化(ブルームバーグより抜粋)

 1)懸念材料  ・ゼロコロナ対策のロックダウン(都市封鎖)による経済の打撃。  ・強い海外需要が、8月は急減。  ・不動産市場は住宅ローン増加、ローン金利引下げも、8月も低迷。  ・自動車販売の伸びも7月に比べて大幅に鈍化。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)8/25、日経平均+165円高、28,479円(日経新聞より抜粋)  ・前日まで▲900円下落基調が続いたため、幅広い銘柄に自律反発狙いの買いが入った。薄商いの中、売り方の買戻しが優勢となって、上げ幅は一時+200円を超えた。  ・新型コロナの水際対策の緩和でインバウンド(訪日外国人)需要が回復するとの期待も引続き投資家心理を支えとなった。  ・米カンザスシティー連銀主催の経済シンポジウムでのパウエルFRB議長の講演を8/26に控え、全般に様子見姿勢が強かった。  ・FRBの金融引締めへの警戒感は根強く、大引けに掛けて伸び悩んだ。  ・日製鋼・第一三共・TOTO・東エレク・KDDIが上昇、大日本印刷・東ガスが下落。

 2)8/26、日経平均+162円高、28,641円(日経新聞より抜粋)  ・前日の米株式しじょうでハイテク株を中心に買戻しが入った流れを受け、東京市場でも東エレクやアドテストなど値嵩の半導体関連銘柄などが買われ、上げ幅は一時+300円超の場面があった。  ・後場はパウエルFRB議長の講演を8/26に控え、積極的な売買を控えるムード強く、持ち高調整の売りが出て伸び悩んだ。  ・三井化学・コマツ・ヤマハ・ダイキン・エプソンが買われ、アサヒ・富士通が下落。

●2.日本株:米株式相場8/26下落の直撃を受けそうな展開

 1)日経平均は8/25・26と上昇したが、中味は弱い。  8/26 : 値上がり銘柄数 512、値下がり867  ・閑散相場のなかで、「空売り」が少ない中で、外国人の先物売りが直近3日間は売越し転換したとはいえ、まだ斥候的な売り打診の範囲にある。日経平均は上昇したが、少数の値嵩株の買いが要因となっている。          年初来高値  年初来安値      8/25   63       4      8/26   75       1   大勢の銘柄は、気迷いで、強い相場とは言えない。

 2)したがって、8/26の米国株相場の大幅安の影響は避けられない  ・8/29日経平均は▲1,000円〜▲500円安を想定する。ただし、外国人投資家の現物・先物は直近で2兆4,000億円の買越しとなっているだけに、外国人売りが本格化しやすく、想定を上回る下落となる可能性がある。

●3.東京都区部8月消費者物価指数は前年比+2.6%(生鮮食品除く)、30年ぶりの上昇幅(FNN)

 1)電気代+29.0%、都市ガス+28.5%、食パン+14.3%、食用油+43.8%、まぐろ+21.0%、タマネギ+41.9%、寿司(外食)+14.3%、寿司(持ち帰り)+11.6%高。

●4.エイチ・アイ・エス、資本金1億円に減資へ、税負担軽減がねらい(NHK)

■IV.注目銘柄(投資はご自身の責任でお願いします)

 ・4936 アクシージア    業績堅調 ・5021 コスモエネルギー  業績好調 ・9468 KADOKAWA    業績好調

執筆者プロフィール

中島義之 (なかしま よしゆき)
1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou