布団の中でゲームをする人は危ない…本人は気付かない「大人のゲーム依存」の恐ろしさ
■コロナ禍で「ゲーム依存」が増えている
新型コロナウイルスの流行をきっかけに、それまでの生活習慣が少なからず変化したという方は多いと思います。在宅時間の増加などでスマホの使用時間が増えたという方も多いのではないでしょうか。
コロナ禍前後で行われたスマホ利用に関する調査では、コロナ流行後においてスマホの使用時間が増加していることが示されています(KDDI Research「コロナ禍でスマートフォン利用時間が増加し、ゲーム障害、ネット依存傾向の割合は1.5倍以上増加〜コロナ禍で変化するスマートフォンの利用方法と、スマホ依存などへの影響を調査〜」2021年10月12日)。同じ調査の中で、「ゲーム障害」の傾向がある人の割合が有意に増加しているという結果も出ています。
ゲーム障害とは、世界保健機関(WHO)の公表する疾病の国際的統一基準である「国際疾病分類(ICD-11)」に2019年より認定された比較的新しい疾患です。ゲームの使用を自分でコントロールできなくなることに加え、それに起因して何らかの問題が起こっていること、それらの症状が1年以上続く場合にゲーム障害と診断されます。
ゲームの過剰使用というと、「子どもの問題」というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。ですが、スマホゲームの普及もあり、近年は成人でもゲーム依存になる人が増えています。そこで今回はゲーム障害(ゲーム依存)を取り上げます。
なお、医学的な診断名としては「ゲーム障害」ですが、本文章内ではよりイメージしやすく、また一般に浸透している「ゲーム依存」という言葉を使用することとします。
■「終わりがなく没入しやすい」オンラインゲーム
はじめに、ゲーム事情について簡単に触れておきます。ゲーム障害として依存状態が認められるゲームはオンラインゲームがほとんどです。オンラインゲームはアップデートにより新たなコンテンツが追加され続けたり、ユーザー同士がコミュニケーションを取ったりなど、「終わりがなく没入しやすい」という特徴があるためです。また、ゲームの進捗(しんちょく)や成績が課金によって左右される傾向があり、射幸心をあおるゲーム内アイテムのランダム販売手法(いわゆるガチャ)が多くのゲームで行われるようになり、金銭面の問題が生じるケースも増えているようです。
■「やり過ぎ」と「依存」の境界線
「依存」とは特定の物質や行為等を、ほどほどにできない、あるいはやめたくてもやめられない状態を指します。依存する対象が物質の場合(物質依存:例「アルコール依存・ニコチン依存・カフェイン依存」など)と、行為への依存とに分けられ、ゲーム依存は後者にあたります。行為への依存は医学的には「行動嗜癖(しへき)」と呼ばれます。行動嗜癖の例としては、ギャンブル依存や買い物依存、パチンコ依存などが挙げられます。
これらにのめり込み、生活面で問題が起こっても、やめられない状態に陥ってしまうのがいわゆる依存症です。とはいえ、ゲームの「やり過ぎ」が「依存症」に当たるのか、疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。
「やり過ぎ」と「依存」の境界は、ゲーム時間の長さに加えて、「健康面や生活面、社会的に何らかの問題が生じているか」をポイントとして見極めるのがよいでしょう。
・身体的影響
眼精疲労、ドライアイ、視力低下、頭痛、頸部(けいぶ)痛(首の痛み)、肩や手指の痛み
・生活習慣の乱れ
睡眠不足、食事がおろそかになる、会社や学校を休みがちになる
・経済的問題
多額の課金をしてしまう、借金をしてまで課金する
その他、物に当たる、暴力を振るってしまう、ゲームができないと無気力になる、イライラするなども挙げられます。
大人のゲーム依存の場合には、特に、経済的問題が表出することが多く、本人はただハマっているだけと思っていたが、高額の請求が届き依存状態に気付くケースが多いようです。
■「やめられない」のはなぜなのか
では、やめたくてもやめられないのはなぜでしょうか。これは単に意志が弱いということではなく、脳の働きによるものと考えられています。依存症患者の脳内で何が起こっているか簡単にご説明します。
・「報酬系回路」が変化している
動物の脳内には「報酬系」という神経回路が存在します。これは、ある行動に伴って心地よさや楽しさなどの刺激(報酬)を感じた際に活性化されるもので、「報酬が得られることがわかると、脳はさらなる報酬を求めてその行動を続けようとする」という仕組みを持っています。
この仕組み自体は、やる気を引き起こしたり積極的な行動を促したりする、生きるために必要なものです。ですが、ゲーム依存の場合は、ゲームによる刺激に慣れてしまうために報酬系の反応が鈍くなっているといわれます。そのため、過度に依存対象を求めるようになり、渇望やとらわれにまで発展してしまうと考えられます。
■欲求を理性でコントロールできなくなる
・「前頭前野」の働きが低下している
人間は通常、欲求や行動を理性でコントロールしています。これは、脳内の、理性をつかさどる部分である「前頭前野」が、本能や感情をつかさどる「大脳辺縁系」に対して優勢であるためです。一方、ゲーム依存の人の脳では、前頭前野の働きが悪くなっていることがわかっています。そのため、ゲームを求める欲求を理性でコントロールできなくなり、ゲームをやめられない状態に陥ってしまいます。
これらの脳への影響はゲーム依存患者に特有のものではなく、他の依存症患者の脳でも同様の反応が見られることがわかっています。
繰り返しになりますが、やめたくてもやめられないのは意志が弱いせいではありません。ゲーム依存はギャンブル依存やアルコール依存などと同じように病気として捉える必要があるのです。脳の仕組みに起因するため、誰でも何かに依存してしまう可能性がある点にも、留意が必要です。
■精神疾患との関連も
ゲーム依存には他の精神疾患を合併している場合が多いこともわかっています。うつ病を合併する割合は19%、自殺のリスクは35.4%に上ったという報告もあります(樋口進「ゲーム障害について」国立病院機構久里浜医療センター)。新しい疾患なので、さらなる検証が必要ではありますが、精神疾患がゲーム依存のリスク因子となっている、つまり、精神疾患がゲーム依存の引き金になったり、逆に、ゲーム依存が精神疾患を悪化させる可能性も否定できません。ゲーム依存が疑われる際には早めの対処が何より大切と考えます。
治療が可能な専門医療機関は、近年増えてきているとはいえ、患者数の増加に対して、まだ十分とは言えない状況です。インターネットに公開されている専門医療機関リストなどを参考にご相談されることをお勧めします。(「インターネット依存・ゲーム障害治療施設リスト(2020年版)」久里浜医療センターホームページ)
■「食事や睡眠時間を削ってゲーム」は気を付けて
一度依存状態に陥ってしまうと、依存を断ち切るのは容易ではありません。また、日常生活でゲームに関する情報を目にする機会はあふれています。いったんは抜け出せたとしても、そのような情報に触れ再発ということも起こり得ます。「予防は治療に勝る」という言葉があるように発症させないことが重要になります。
ゲーム依存予防の観点から、要注意な習慣を以下に挙げます。習慣的にゲームをプレイしている方は、ご自身の状況をチェックしてみてください。
・寝室で(布団の中で)ゲームをしている
・ゲームがストレス解消の唯一の手段になっている
・リアルの生活でゲーム以外の趣味がない
・食事や睡眠の時間を削ってゲームをしてしまう
・クレジットカードで気軽に課金してしまう
上記に心当たりのある方は、意識的にゲームから離れる時間をつくるとよいと思います。衝動的に課金してしまう方は、スマホとクレジットカードの連携を解除したり、端末の機能制限で課金を制限したりするのもよいでしょう。その際、信頼できる家族などに、パスワードを設定してもらうのも有効です。
ゲームが生活に支障をきたしていなければ基本的には問題ありませんし、どの程度のゲーム使用で問題が生じるかには個人差もあります。ですが、依存症の当事者は、自らが依存症であると気付くことはほとんどなく、自覚できた頃にはかなり依存が進んでいる可能性が高いものです。依存に陥らない範囲でゲームを楽しむよう、日頃からの心掛けが大切だと考えます。
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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。
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(産業医 池井 佑丞)