次の五輪へ新たな挑戦

 今年2月の北京五輪では、強豪ロシア勢の一角を崩して銅メダルを獲得。そして、その1カ月後の世界選手権では、ロシア勢不在のなかで自他ともに「優勝候補」と認める重圧を乗り越えて初優勝を果たした坂本花織(22歳、シスメックス)。世界女王として次の五輪へ向けて踏み出す2022−2023シーズン、新たな挑戦を始めた。


「ドリーム・オン・アイス」に出演した坂本花織

 そのひとつが過去4シーズン、プログラムの振り付けを担当し、今の坂本を育て上げたと言えるブノワ・リショー氏から一度離れ、新しい振付師を選ぶ決断だった。

「シニアに上がってから5年間、ここまでスケーティングスキルが上がったのもブノワ先生のおかげだったので、今回も頼もうと思いました。でも、五輪の次の1年は、いろんな挑戦がしやすい年でもあるので。そういう気持ちもあったし、中野園子先生にも『ショートもフリーも新しい人に頼もうか』と言われ、そうしました」

 ショートプログラム(SP)は、ジャネット・ジャクソンのメドレー『ロック・ウィズ・ユー/フィード・バック』。ジェイソン・ブラウン(アメリカ)の振り付けを長く担当していたロヒーン・ワード氏が手がけた。そして、フリーの『エラスティック・ハート』は、アイスダンス北京五輪優勝のガブリエラ・パパダキス/ギヨーム・シゼロン組などを指導し、ネイサン・チェン(アメリカ)の北京五輪優勝時のフリー『グッバイ・イエロー・ブリック・ロード』の振り付けを担当した、マリー=フランス・デュブレイユ氏だ。

 7月1日、コーセー新横浜スケートセンターで開かれた「ドリーム・オン・アイス」で披露したのは新SP。坂本が「ショートの振り付けは、最初はすごく不安だったけど、途中から楽しくなってきて、これをやりきったらカッコいいなと思うようになりました」と話すプログラムだ。

これまでと違う「坂本花織の世界」

 軽快なテンポと歌声の曲のなか滑り始め、最初の要素はチェンジフット・コンビネーションスピンという珍しい出だし。ダブルアクセルを跳び、次は3回転ルッツ。そしてフライングキャメルスピンのあとには3回転フリップ+3回転トーループという昨季と同じジャンプ構成を予定している。

 だが、5月末から4公演に出演した「ファンタジー・オン・アイス」でジャンプが不安定だった坂本は、今回のショーでも練習からジャンプに苦しんでいた。本番は、ダブルアクセル(2回転半ジャンプ)以外は2回転になるのがほとんどで、プログラムはまだ完成しきれていなかった。

 それでも、つなぎなどの滑りは、新たな挑戦を明確に見せるものだった。昨季までの独特な曲調と複雑な動きで「坂本花織の世界」とも言える空気感をつくり出していた演技に、今回はテンポとスピードを加えて、キレを倍増させたような振り付け。

 坂本自身はブノワ氏の振り付けとの違いを「直線的ではなく、うねりのあるような動き」と表現していたが、ステップシークエンスはまさにその言葉のとおり。スピードを落とさないままの複雑な振り付けの連続で、まさに疾走し続ける。そして、そのまま最後のレイバックスピンにつなげている運動量の多いプログラムになっている。

 このプログラムを完成させれば、彼女自身の言う「カッコよさ」満載になるだろうし、これまでとは違う坂本の可能性を見せてくれるプログラムになりそうだ。

 新シーズン最大の目標は、さいたまスーパーアリーナで開催される来年3月の世界選手権。2019年に同会場で行なわれた世界選手権は初出場ながら、平昌五輪出場の経験を生かしてSPは2位発進。だが、フリーでは集中しきれず5位まで順位を落とし、0.97点差でメダルを逃した。その悔しさを晴らすことが大きな目標だ。

「(今年)7月のアイスショーに出たあとはプログラムをブラッシュアップして、8月の『げんさんサマーカップ』が初戦の予定。今年も昨年のように試合にたくさん出てプログラムを完成させていきたいです」

 フリーは7月下旬の「ザ・アイス」で披露する予定。今後、4回転トーループの練習にも取り組むという坂本だが、今季も新プログラムで元気いっぱいの"坂本花織、満開"の演技を見せてくれる期待は大きい。