※この記事は2012年08月10日にBLOGOSで公開されたものです

写真左が『ソーシャルファイナンス革命』の著者である慎泰俊氏 写真一覧
現代社会の問題点を改めて提示する新感覚のインタビューシリーズ「SYNODOS×BLOGOS 若者のための『現代社会入門』」。第８回目のテーマは、新たな金融の仕組みとして注目を集めている「ソーシャルファイナンス」。ソーシャルファイナンスとは、ソーシャルメディアなどのテクノロジーを活用し、小口で広く出資や寄付を募る金融の仕組みを指します。ソーシャルファイナンスを普及させるための課題や、その未来図をNPO法人LIVING IN PEACEの代表で、『ソーシャルファイナンス革命 ~世界を変えるお金の集め方 』の著者である慎泰俊氏に聞きました。【取材・執筆：永田 正行（BLOGOS編集部）】

※本シリーズは、SYNODOSに寄稿している論者のインタビュー記事を掲載した後に、その記事への疑問や異論・反論に対する回答記事を掲載するという方式を採用しています。記事へのご意見は、コメントフォームおよび議論ページにお寄せください。締め切りは8月13日（月）正午とさせていただきます。次回の記事掲載日は22日（水）を予定しております。

「人間関係」を活用した新しい金融の仕組み


―「ソーシャルファイナンス」という言葉に、あまり馴染みがない方も多いと思います。まず概要を教えてください。

慎泰俊氏（以下慎氏）：この分野は、言葉が乱立している状態です。ソーシャルファイナンスという人もいるし、クラウドファンディング（多くの個人からの資金調達）、P2Pファイナンス、ソーシャルレンディング（共に個人から個人へのお金の貸し付け）などという人もいます。私はそれらを一つにまとめて「ソーシャルファイナンス」と呼ぶようにしています。「金融の今後」を占うという意味では、この「ソーシャルファイナンス」という名称が一番いいと思っています。そして、ソーシャルファイナンスの定義は、「人間の社会関係を活用した金融の仕組み」であるというものです。

この仕組みの歴史自体は非常に古く、日本であれば「頼母子講（たのもしこう）」という連帯責任でお金を貸すことで、借り手に「なんとか返さなければいけない」という動機づけを与え、高い返済率を実現する仕組みがありました。また海外でも、同じようなムラ社会的な共同体に基づく人間関係を使った金融の仕組みが結構あったんです。今でもムラ社会的な共同体が残っている途上国では、こうしたファイナンスの仕組みが生き続けています。一番有名なのが、マイクロファイナンス（主に途上国で利用されている小額の金融サービス）と呼ばれているものです。

ただしソーシャルファイナンスは、途上国と先進国でその形や仕組みが異なってきます。途上国と先進国では、基盤となる人間関係のあり方が異なるからです。途上国の人間関係というのは、共同体に根付いたものが非常に強い。よって、金融も強固で数が少ない人間関係に基づいたものになる。しかし、先進国の場合、都会に住んでいれば知り合いの数は100人や200人になると思いますが、そこには途上国のムラ社会のような強い結束があるわけではない。そうした幅広くて、強固ではない人間関係をベースにした金融のあり方、つまり小口で多くの人から集めるという形が、先進国の望ましいソーシャルファイナンスではないかと考えています。

―ソーシャルファイナンスという言葉は、比較的新しい言葉だと思うのですが、こうした仕組みが注目を集めはじめた背景は何でしょうか？

慎氏：日本では震災が大きなきっかけとなっていますね。震災のときにインターネットを通じたお金の動きが一気に増えました。「Music Securities」というファンドの出資を募るプラットフォームは、震災後に「セキュリテ被災地応援ファンド」を販売し8億円ほど集めました。「JustGiving」というプラットフォームもかなりの金額の寄付を集めましたし、ここがひとつの転機になったと思いますね。

―ソーシャルファイナンスは、単純な出資や寄付とどのように違うのですか？

慎氏：種類はいろいろあって、まず出してもらったお金が、返すことが前提の「貸し借り」か、利益を分配するタイプの「出資」か、金銭的な見返りを求めないものかで異なります。また、金銭的な見返りを求めないものの中にも、配当の代わりにサービスなどを提供する「購入型」 といった、寄付とは違ったタイプのものもあります。

また純粋な寄付であっても、先ほど名前を挙げた「JustGiving」のように、ちょっと変わった仕組みを採用しているプラットフォームがあります。「JustGiving」は、「私たちはこれこれのチャレンジします。このチャレンジを応援してくれる人は寄付してください」とサイトで寄付を募り、集まった寄付をその団体に届けるという仕組みなんです。累計で既に9億円ぐらいの寄付を集めています。

―いわゆる「寄付」行為の背後にある「善意」ではなく、「共感」や「応援」といった感情を動員しようとするわけですね。

慎氏：「JustGiving」には他にも、「ダイエットに挑戦します」といって寄付を募っている事例もありますね。

「JustGiving」は2001年にイギリスでスタートしたサービスです。日本でのサービスインは2010年。他にも「KIVA」というサービスがあって、2005年にスタートし、これまでに300億円を集めています。こうした成功の背景には、英語のプラットフォームなので利用する人口が多いというのもありますし、英語圏の人々は投資や寄付に対する心理的ハードルが比較的低いためにお金が集まりやすいということもあります。

―これまでのような寄付や既存の金融機関のほかに、ソーシャルファイナンスが必要な理由は何でしょうか？

これまでよりも効率的に、お金を必要としているところに、お金を届けることができるようになります。人間関係というのは人の満足感に大きな影響を与えます。そしてそれを投資に含めることができると、投資の際に求められるリターンが変わってきます。金利などのような、投資する側から求められるリターンを「資本コスト」と呼びますが、人間関係を含んだ投資の場合、資本コストを低く抑えることができ、その結果、これまでは届かなかった場所にもお金を届けられる可能性が出てきます。

例えば「CAMPFIRE」というクリエイターが出資を募るプラットフォームがあります。通常は、アーティストが作品を作るため100万円必要だったとしても、普通の金融機関から借りるのはかなり難しい。仕方なく消費者金融から年率13％で借りざるをえないということになる。そうなるとお金を借りるハードルがあがって、結局、必要なところに必要なお金が届きにくくなるわけです。

しかし、「このアーティストを応援したい」という気持ちを組み込むならば、お金を出してくれる人が出てくる。中には、「金利はいらない」という人もいるでしょうし、「リターンゼロ、寄付でもいいよ」というような人も出てくるでしょう。人間関係を含めれば「資本コスト」が下がるというのはこういうことです。これがソーシャルな関係性がもたらす力なんです。

人間関係というのは人のモチベーションに非常に強い影響を与えます。誰かに応援されていると思う人は頑張ることができるし、それは結果として、高い投資リターンにもつながるはずです。現在のようなソーシャルメディアの時代に、こうした人間関係を活用した金融の仕組みはきわめて適合的だし、とても大きな可能性をもっていると思います。

「お金以外の心理的快感」がリターンとして提供される。


―今後、ソーシャルファイナンスが普及していくためには、どのような課題がありますか？

慎氏：日本の場合、まず規制が厳しい。日本でソーシャルファイナンスを普及させていくためには、様々な規制をクリアしていかなければいけない。例えば、単純に寄付を募るのであれば免許はいらないのですが、投資になると業者として登録しなければならない。けれども、資金面や法律上の手続きのハードルが結構高くて大変なんです。

アメリカでは、最近「JOBS ACT」という法案の一環で、クラウドファンディングによってベンチャー企業が株式の資金調達をすることが可能になりました。これによって、アメリカのソーシャルファイナンスは一層成長していくと思いますが、日本ではそうした環境はまだまだ整っていません。

規制の問題のほかにも、認知の問題があります。余り知られていないという現実です。ただ、これについてはプラットフォーム運営者の努力とともに、時間が解決するしかないと思っています。すべてのサービスがそうであるように、何かが浸透していくにはある程度の時間が必要ですし、金融のように「お金が動く」サービスの場合だと、参加者も用心するところがある。

ただ、こうした心理的ハードルを下げるのに、「小口で始められる」というのはソーシャルファイナンスの一つのメリットだと思います。例えば、「CAMPFIRE」ならば500円ぐらいから始められる。そういうところから「これって結構楽しいね」とわかってもらえれば、広がっていく可能性はあると思います。認知度を上げていくためには、「人間関係に基づいた楽しみ」みたいなものをどうやって演出し、それを如何にバズらせるかというのが鍵になるでしょう。

―ソーシャルファイナンスというと、何か「大義名分が必要」といったイメージもあると思います。「いいことをしよう！」という動機も重要な一方で、「楽しさ」も必要になってくるということでしょうか？

楽しくない仕組みというのは回らないんですよね。かかわった人たちが心理的に快感を得られる仕組みじゃないと継続していくのが難しい。従来の金融の場合、金銭的なリターンが唯一の心理的快感でした。そうではないリターンをもたらすことができるのが、ソーシャルファイナンスの強みだと思うんです。ですので、今後ソーシャルメディアと金融は、どんどんつながっていくのではないかと僕は思っています。

―他にはどういった課題がありますか？

慎氏：もう一つの課題として、「お金を使う側」「調達する側」の数というものがある。これは橘玲さんが指摘していたのですが、非常に共感しました。こうしたプラットフォームを必要としている人が、どれぐらいいるのかという問題ですね。「CAMPFIRE」や「Music Securities」など、「応援したい人」たちのためにお金を集める仕組みになっています。しかし、そういった「応援したい人」「チャレンジしている人」というのは実はそれほど多くない。基本的に社会というのは、普通の人たちが普通に回している。そうした中で、「応援したい人」たちをどうやって見つけてくるのか、が一つの課題だと思います。

より正確に説明すると、これは申請者の選別の問題です。プラットフォーム側は、「お金を集めたい」と集まってくる申請者をきちんと選別しなければいけない。誰でもいいわけではないのです。問題は、その選別にかなう人材が十分に集まるか、ということです。例えば「Maneo」という、個人と中小企業をつなぐファイナンスの仕組みを提供しているプラットフォームがありますが、そこが苦労しているのは「お金を借りる側」をどう集めるかなんです。20件応募が来て、通過させるのが1件ぐらいだと聞いています。

こうした状況がなぜ起きるかというと、「CAMPFIRE」のようにクリエイター向けならばともかく、起業する場合であれば、日本には国民金融公庫などのような、非常に低い金利でお金を出してくれるところがある。そこで借りればいいわけです。そうした国からバックアップされた仕組みではないものを使いたいという人たちを、どうやって増やしていくのか。これがソーシャルファイナンスを行うプラットフォーム側の課題だと思います。

それには、ソーシャルファイナンスを行うプラットフォームが、「お金を集めたい」という人たちに、どれくらいメリットをもたらしてくれるのか、がポイントになってきます。例えばiPhoneのアプリを作りたいという人だとしたら、アプリの販売前にテストユーザーになってもらえたり、口コミ的に宣伝をしてもらえるといったメリットです。そうしたメリットがないと、お金を集める人たちにインセンティブが働かない。これは結構、重要なところなんです。

―加えてプラットフォーム側としては、情報開示や透明性が重要になりますよね？

慎氏：通常の投資も同じですが、投資家への情報開示、IR（インベスターリレーション）はきわめて重要です。ただ従来のようなお金のかかるレポート作成なんかとは別に、現在、個人的に考えているのは、ソーシャルファイナンスをやるプラットフォームはTwitterやfacebookなどのソーシャルメディアに登録して、その状況をみんなが見ることができるようにするというかたちです。「トゥルーマン・ショー」という映画がありましたが、投資した人の様子を出資者やファンの人たちが、いつでも見られる仕組みがあるのは非常にいいことだと思います。逃げ場が無くて怖くもありますけれど。

それから、「ウソをつかせない仕組み」を工夫する必要があります。でも、ソーシャルメディアで様々な人間がつながっている時代において、ウソをつくことのコストというのは非常に高い。たとえばTwitterで「こんなサービスできましたー」といって、嘘をついたとしても、そのうちバレて損をすることになりますから。

ソーシャルファイナンスで「コミュニティ」が復活する


―ソーシャルファイナンスの登場は、社会にどのような影響を与えるのでしょうか？

慎氏：先に述べたように、お金が「必要な場所に届く」というのが一つあります。もう一つ、私が非常に重要だと思っているのが、共同体、コミュニティといったものが復活してくる可能性があるということです。

人間にはやはり、自分が所属するコミュニティが必要です。しかし、かつてあったムラ社会的な共同体はとうに崩れてしまった。日本では会社が、ある時期まではコミュニティを提供していたと思うのですが、それもなくなりつつある。“場所”に根付いたコミュニティがなくなったか、あるいは希薄化してきています。

しかし、今、Twitterやfacebookを舞台に再生されつつあるのは、人の思いや好きなものといった趣味や嗜好に根付いたコミュニティです。ただ、それだけであればコミュニティがリアルなものにはなり得ない。リアルなものにするためには、モノのやり取りが必要になる。部屋であればシェアハウス、お金であればソーシャルファイナンスといったように、モノのやり取りが発生することで、コミュニティが再生されつつあるわけです。

これが広い意味で、ソーシャルファイナンスがやらなければならないことだと思います。お互いが顔を知っていて、「こいつにお金を出して失敗しても仕方ないか」と思えるコミュニティを、300人とか1000人単位で作るということは、今後、非常に重要になってくると思うんです。これから、日本を含めた先進国全体において、グローバリゼーションと技術進歩によって格差が広がり、社会不安も大きくなっていきます。そうした中にあって、ソーシャルファイナンスによって再生されるコミュニティは、新しいセフティーネットにもなりうると思うんです。

1000人くらいのソーシャルなコミュニティが作られていくとき、そこには様々なニーズが発生するはずですし、それを解決するためには、お金のやり取りをする仕組みが必要になってくる。アーティストがお金を集めたいというのもそうだし、学校に行きたいけれどもお金がないという場合もあるでしょう。あるいは、家が火事になって住むところがないとか。ソーシャルなコミュニティの中で、そうしたニーズに対応する新しい形の相互扶助が成り立つためには、絶対にファイナンスの仕組みが必要になってくるのです。

―お金というのは良くも悪くも非常に重いものだと思います。重い分、地に足が着くということなんでしょうか？

慎氏：絆とお金には関係があると思います。絆というのは“信頼”でしょう。かつての金本位制の時代とは違って、千円札が千円という価値をもった貨幣として成立するのは、みんなの信頼があるからです。そして、信頼の仕組みが金融には存在することが、コミュニティを作る上でも非常に大切だと思います。

言葉としてちょっと臭くなっていますが、「信頼」が今後どのように金融やメディアと結びついて行くかが楽しみですね。アンソニー・ギデンズが「The Consequences of Modernity」という本で説いていますが、近代において最も重要な概念は信頼であって、それは金融やメディアととても親和性が高いんです。21世紀においては、金融とメディアがより近い場所に存在するようになって、それが新しい市場や共同体を作っていくのではないかと思っています。

―本日はありがとうございました。

プロフィール

慎泰俊(しん・てじゅん)1981年東京生まれ。 早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。モルガン・スタンレー・キャピタルを経て、現在投資ファンドに勤務している。2007年10月より特定非営利活動法人LIVING IN PEACEを設立、現在は代表理事をつとめる。国内初のマイクロファイナンスファンドの企画と、児童養護施設のための資金調達支援とキャリアセッションを実施中。
Twitter:@81TJ
LIVING IN PEACE公式サイト





冒頭でも紹介したように、本シリーズでは、読後にユーザーが感じた意見に対する解答記事の掲載を予定しています。コメント欄や議論ページを通じて、寄せられた意見・異論・反論を基に次回のインタビューを実施しますので、議論への積極的な参加を期待しています。

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