プロ野球2022開幕特集
真中満インタビュー後編 ヤクルト連覇のカギ

3月25日、いよいよプロ野球が開幕する。今回、東京ヤクルトスワローズでの現役時代に計4回の日本一を経験し、監督として2015年リーグ優勝を果たした真中満氏に今季のプロ野球を展望してもらった。前編ではセ・リーグ、中編ではパ・リーグのそれぞれ順位予想を聞き、セ・リーグではヤクルトを1位としている。昨年20年ぶりの日本一に輝いた高津臣吾監督率いるヤクルトは、はたして連覇達成となるのだろうか。後編は、真中氏にヤクルト連覇の可能性を尋ねる。


真中満氏はヤクルトを優勝予想。投打の期待や課題を語った

連覇の可能性は「60%」、その心は?

ーー元優勝監督である真中さんに、ヤクルト連覇の可能性をズバリ伺います。

真中満(以下、真中) 結論から言うよ、ヤクルト連覇の可能性は60%ぐらいかな(笑)。

ーーなるほど。その理由とは?

真中 やっぱり、前年の日本一チームだから、そもそも戦力は整っていますよ。選手たちが故障もなく、普通に機能すれば優勝争いにからんでくるし、優勝もできると思います。不安があるとすれば中継ぎ陣ですよね。今野龍太にしても、清水昇にしても、マクガフにしても、去年と同様のピッチングができるのか? 去年の開幕当初にクローザーだった石山泰稚も、ここ数年は少しずつスピードも落ちてきているのが気がかりかな。

ーーしょっぱなから不安要素が挙がってきましたね(笑)。

真中 さらに今年からは延長12回制になるから、去年までよりも中継ぎ陣の登板機会は増えるのは間違いない。その点でも、郄津監督のやりくりに注目が集まると思いますね。たとえば今野や清水が3連投となる時に、昨年までは同点かビハインドの場面で登場していた大西広樹、大下佑馬、星知弥などがパッとそのポジションを埋めてくれると助かるんだけどね。

ーーいかに、昨年までの「勝利の方程式」を担った中継ぎ陣の負担を減らすかというところが大きなポイントとなりそうですね。

真中 そのためには代わりのリリーフ投手が登場することも大切だけど、先発陣が少しでも長いイニングを投げることも重要になりますよ。昨年台頭した奥川恭伸にしても、高橋奎二にしても、幸いにしてまだ若くて体力があるから、先発陣が7回まで投げきってくれれば、「勝利の方程式」の3人のうち、ひとりは休ませられる。そうすれば、「今野、清水」「今野、マクガフ」「清水、マクガフ」という少し余裕のある起用が可能になりますからね。

先発投手は質量ともに大充実

ーー先発投手陣についてはどう見ていますか?

真中 先発陣はそろっていると思いますよ。昨年の日本シリーズ全6戦で6人が先発を経験した。大舞台で奥川、高橋が好投を見せたことで、少しくすぶっていた原樹理にもいい刺激となったし、若手が頑張れば小川泰弘や高梨裕稔だって、ベテランの石川雅規だって発奮するから、チーム全体に好影響をもたらしたと思います。そこに金久保優斗にサイスニードも加わって、新外国人のスアレスやコールが活躍することがあれば、先発陣には何も不安はないと思います。

ーー確かに、数年前がウソのようにグッと厚みを増した顔ぶれとなりました。伊藤智仁ピッチングコーチは「左の中継ぎが田口麗斗しかいない」と発言していましたが、この点はどうお考えですか?

真中 確かに、左の中継ぎは現状では田口と、坂本光士郎ぐらいだけど、たとえ右ピッチャーでも、結果的に左バッターを抑えれば何の問題もないわけでしょ。左右のバランスがいいほうが首脳陣としては使いやすいけど、結果だけを考えるのならば今の右の中継ぎ陣でも十分抑えることができる。伊藤コーチはぜいたくを言っているんですよ。理想を言い出したら、キリがないから(笑)。

ーーキャッチャー陣はいかがでしょう? 中村悠平選手が、あの古田敦也さんの背番号《27》を受け継いだことが大きな話題となっています。

真中 郄津監督としては「正捕手は中村」というのが基本線だと思うし、僕も当然それでいいと思います。その一方で、キャンプ、オープン戦で注目を集めている内山壮真にも期待したいですね。ただ、彼をベンチに座らせておくのはとてももったいない。だから、中村のサブとして古賀優大を一軍に帯同させて、内山はファームで実戦をみっちりと経験させてあげたほうがいいと思いますね。

ーー今季からは嶋基宏選手が兼任コーチ補佐となったことで、まだプロ2年目の内山選手は二軍で鍛えるということになるかもしれないですね。内山選手の魅力とは、どのあたりにありますか?

真中 やっぱり、バッティングですよ。小柄だけどパンチ力はあるし、バットがしっかり振れる。キャッチャーとしてはまだまだ配球、キャッチングに課題はあるけど、スローイングを見ても野球センスを感じさせるので、期待の逸材であるのは間違いないです。

チャレンジャーとして目の前の試合を戦い抜く

ーー昨年、12球団トップとなる625得点をたたき出した野手陣については、どのようにご覧になっていますか?

真中 打線に関しては、不安要素はないと思いますね。強いて言えば、一番を任される塩見泰隆がシーズンを通じてコンスタントに成績を残せるようになってほしいという思いはあります。彼の場合はいい時と悪い時の波がちょっと激しい。引っ張れば長打もある、追い込まれたらセンターから逆方向に打つ意識もある。いい選手になったけど、彼にはもうワンランク上を目指してほしいね。

ーー昨年は2番で活躍したベテランの青木宣親選手はいかがでしょうか?

真中 青木の場合、まだまだ元気なので頼りになりますよ。ただ、40歳という年齢を考えると、適度に休養を与えながらの起用が現実的だと思うんです。本人は「休みたくない」と言うと思うけど、首脳陣はコンディションを気にしながら起用するでしょうね。現状のレギュラーメンバーを考えると、若手、控え選手にとっては青木のポジションをがむしゃらに奪いにいかないとダメだよね。

ーー青木選手の座をおびやかす若手候補は誰でしょう? オープン戦で爆発した濱田太貴選手や渡邉大樹選手ら、イキのいい若手も控えていますが。

真中 実際のところ、山崎晃大朗、宮本丈あたりが候補になってくるとは思うけど、まだ青木をおびやかすような存在とは言いがたいかな? 宮本はバッティングはいいけど、外野守備はまだ素人だし、並木秀尊は足が魅力的だけど、バッティングはまだまだ粗削りだし......。そうなると、今年も青木の存在感は際立つかもしれないですね。

ーー主軸となる山田哲人、村上宗隆の両選手は今年も死角なしでしょうか?

真中 年齢的にもキャリア的にも、まだまだ死角なしと言っていいんじゃないかな? ふたりとも故障さえなければ、ある程度の成績は確実に残せますからね。村上もそうだけど、山田もオープン戦の成績はまったく関係ないですから。特に山田は公式戦、クライマックスシリーズ、日本シリーズ、侍ジャパン戦など、大舞台になればなるほど力を発揮するタイプの男だから、シーズンが佳境になればなるほど頼りになりますよ。

ーー元監督の言葉は説得力があります(笑)。さて、あらためて連覇を目指すヤクルトナインに激励の言葉をお願いします。

真中 これまでのスワローズ史では2年連続日本一というのは一度もないわけだから、もちろん簡単なことではないけど、今年のヤクルトなら十分に連覇を狙える実力はあると思います。他球団からのマークもきつくなるなかで、大切なのは「自分たちはチャレンジャーなんだ」という気持ちを忘れないことだよね。

ーー真中さんが優勝した2015年の次の年のシーズンは、他球団からのマークはきつくなりましたか?

真中 いや、そもそも2016年シーズンは故障者が続出したので、マークのきつさを感じる余裕もなかったかな(笑)。「気のゆるみ」とは言わないけど、優勝した次の年こそ気持ちを引き締め直してチャレンジャーとして、先を見ずに目の前の一戦一戦を全力で戦っていくこと。これが大事だと思います。今年のヤクルトもやってくれると思いますよ。

(おわり)

【プロフィール】 
真中満 まなか・みつる 
1971年、栃木県生まれ。宇都宮学園、日本大を卒業後、1992年ドラフト3位でヤクルトスワローズに入団。2001年には打率.312でリーグ優勝、日本一に貢献した。計4回の日本一を経験し、2008年に現役引退。その後、ヤクルトの一軍チーフ打撃コーチなどを経て、監督に就任。2015年にはチームをリーグ優勝に導いた。現在は、野球解説者として活躍している。