「ちょっと一生懸命になりすぎてしまったところが反省点」 大怪我から復帰し2戦目で勝利した伊藤工真騎手
【取材・構成:大恵陽子=コラム『今週のface』】
先月、netkeibaでお届けした伊藤工真騎手の調教復帰インタビュー。頚椎椎体骨折という大怪我を負いながら、約5カ月のリハビリを経て復帰するまでの道のりをご紹介しましたが、その後約5週間の調教騎乗ののち、10月16日に待望の復帰戦を迎えました。
そして、なんと2戦目で復帰後初勝利! ゴール前は「半年ぶりのレースで一生懸命になりすぎました(笑)」と反省点を挙げますが、本人も覚悟を持って挑んだ復帰初日でもありました。どんな思いがあったのでしょうか。
※このインタビューは電話取材で行いました
◆チャンスをくれた田畑オーナーと林調教師への感謝
――10月16日東京6Rティケイプルメリア(美浦・林徹厩舎)で復帰後初勝利、おめでとうございます!
伊藤 ありがとうございます。
――直線で抜け出しての勝利でしたけど、どんな気持ちで追っていたんですか?
伊藤 手応え良く直線を迎えられたので、「これなら」という気持ちでした。いざ追い出してからも馬がしっかり反応してくれて、抜け出した時は「勝てるんじゃないかな」という気持ちになりました。馬を頑張らせなきゃという気持ちと、僕が半年ぶりのレースだったこともあって、ちょっと一生懸命になりすぎてしまったところが反省点です(笑)。
――見ている方も力が入ったゴール前でした。勝った瞬間のお気持ちは?
伊藤 復帰週からいきなり勝てる馬に乗せていただけて、田畑勝彦オーナーと林徹調教師にただただ感謝の気持ちです。
――林調教師は以前から「伊藤騎手が復帰したら応援したい」と気にかけてらっしゃいました。引き上げてきてどんな会話を交わしましたか?
伊藤 先生からは「ありがとう」と言っていただいたんですけど、こちらの方が「本当にありがとうございます」という気持ちでいっぱいでした。あとは何より、勝てたことにホッとしました。
――「レース復帰を果たしたらインタビューを行いましょう」ということが以前から決まっていただけに、この企画の存在でプレッシャーも感じてらっしゃるのかな? とも案じていました。
伊藤 プレッシャーがないことはなかったです。この半年間、ただ休んでいたわけではなく、リハビリやトレーニングを行っていたので「しっかりした騎乗ができなければいけない」という気持ちはありました。
――騎乗したティケイプルメリアについてですが、昨年8月30日に新潟で3歳未勝利を勝った時も伊藤騎手が乗ってらっしゃいましたね。
伊藤 最後の未勝利戦に近い時期で、先生からも「時期が時期なだけに、リスクを負ってでも思い切ったレースをしよう」というお話で、それが好位につける形の競馬になりました。
――翌週で3歳未勝利戦が終わるというタイミングですから、「2着でよくがんばった。次またがんばろう」という話ではないですもんね。
伊藤 そうですね、勝たなければ中央競馬には残れないという時でした。ましてや1番人気でもあったので、何としてでも勝たせなければいけないという気持ちで乗っていました。1着でゴールできた時には本当にホッとしましたし、その気持ちに馬が応えてくれました。
――年明けの昇級初戦にも騎乗して、今回はそれ以来となる騎乗でした。成長などは感じましたか?
伊藤 あの頃よりも走りがしっかりしてきたなという印象を受けましたし、返し馬ではすごく気合いが入っているのを感じて、よりレースに向かうメンタルでいるのかなと思いました。レースでも集中して走っていました。
◆「こうして騎手として戻ってくることができました」
――復帰に向けてのトレーニング中に腰を痛めて調教復帰が2週間遅れてしまいましたが、結果的に元々レース復帰の目標としていた新潟開催でカムバックできましたね。
伊藤 調教に乗り始めて2週間経った頃から、怪我をする前のような感覚で乗れているな、という印象を受けました。新潟の開幕週(10月9、10日)でレース復帰できる状態だったんですけど、騎乗依頼をいただいた馬が出走枠に入らず、翌週になりました。
――復帰初戦、パドックで騎乗する瞬間はどんなお気持ちでしたか?
伊藤 以前と変わらない気持ちもありましたけど、ここで馬に乗れることがすごくありがたいことだと感じました。今はこういう世の中なので、ファンの方から声を掛けていただくことはなかったですけど、それでもお客さんの前で乗れるというのはすごく嬉しい気持ちになりました。
――その復帰初戦はフレッシュな2歳新馬戦(ヤマニンクラビーア)でした。
伊藤 馬は初めてのレースで不安になると思うので、僕が久しぶりとは言え東京競馬場もレースも経験しているので、しっかりエスコートできればいいなと思って乗りました。
――そして、続く2戦目で勝利を挙げたわけですが、復帰初日を終えてどういう気持ちでしたか?
伊藤 レースに乗せていただけるありがたみを感じました。復帰初日からいきなり勝てたことはもちろん嬉しかったですし、半年間休んでいた自分に勝てる馬の依頼をしてくださったオーナーさんと調教師さんには本当に「ありがとうございます」の言葉しかありません。レースに乗せていただかないと、勝負にも参加できないので、チャンスをいただけることがすごくありがたいです。
――そのチャンスを復帰週でいきなりモノにできることもすごいです。
伊藤 いえいえ。半年間の休養中はしっかり結果を出せるようにがんばってきたので、それが結果として出たのは良かったなと思います。
――復帰後初勝利の後、厩舎の方々からは何か声をかけられましたか?
伊藤 翌日の日曜日に調教に乗ったのですが、いろんな厩舎のスタッフさんから「復帰の日にいきなり勝ててよかったね」「おめでとう」と声をかけていただきました。今回勝たせていただいたのは林厩舎でしたけど、所属する金成貴史厩舎をはじめ、依頼をいただいた他厩舎の馬でもいい結果を得られるようにしっかりとした騎乗をしたいです。
――これからどういうジョッキー人生を歩みたいですか?
伊藤 いただいたチャンス一つ一つに対して、いい騎乗で応えられるような仕事をしていきたいです。
――最後にファンのみなさんへメッセージをお願いします。
伊藤 怪我もしっかり治って、こうして騎手として戻ってくることができました。今まで以上にいいレースを見せられるようにがんばりますので、応援よろしくお願いします。
(文中敬称略)