AppleシリコンMacの第二章を予感させるiPhone 13のA15 Bionic(本田雅一)

ご存知のようにAppleはIntel製プロセッサ採用Macを2年かけて独自SoCに更新していくと発表し、昨年末にはその最初の製品が登場している。すなわち残り期限はあと1年。その中間となる今年の年末向けには、パフォーマンス重視のノートブック型コンピュータ、MacBook Proの刷新が期待されている。

……と、やや堅い書き出しで始めてしまったが、IntelのCPUロードマップや製品ラインナップに左右されず、Appleなりの製品計画を進められるのがAppleシリコンをMacに採用した最大の利点と言える。

Mac向けAppleシリコン最初のチップとなったM1については、ご存知の通り、多くの製品に採用されている。MacBook Air、MacBook Proの13インチエントリーモデル、Mac miniエントリーモデル、iMac 24インチモデルとエントリークラスの製品がM1で埋め尽くされた。他にもiPad ProがM1を搭載したが、こちらはMacではないためここでの話からは除外したい。

共通するのは、いずれも”エントリークラスの製品”ということ。M1は高性能ではあるが、パフォーマンスモデルには採用されておらず、年内になるだろうAppleシリコンMacの第二章はM1をどのように拡張、幅広い用途へと広げていくかがテーマと言える。そのヒントとなるのは、当然ながら技術的に連続性があるA15 Bionicだ。

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A15 Bionicが示す新型Macの可能性

落ち着いてAppleM1の構成を振り返ると、パソコンであるMacに必要な要素を盛り込みつつ、高性能コアを2倍に増やした上、搭載機器のサイズが大きくなることで生まれる熱処理の余力をクロック周波数に割り当てたプロセッサだった。

このように書くと回りくどく感じるかもしれないが、搭載する処理プロセッサという意味では高性能CPUコア、高効率CPUコア、GPUコア、Neural Engine、MLアクセラレータ、ISPなどはiPhone用でもMac用でも共通。あとはその組み合わせだったと言えるだろう。

では今年はどうなるのだろうか。

M1Xという名称が出てきているが、これが正式かどうかはわからない。合理的に考えればCPU、GPU共に設計が一新されたA15 Bionicを基本とし、Mac向けにアレンジしたSoCと考えられる。つまり、M1とはCPU、GPUともコア設計が異なるため、はたしてM1の拡張版であることを示すM1Xという名称が使われるのだろうか? という素朴な疑問はある。もしA15 BionicのMac向け拡張であるならば、M2という名前になってもおかしくはないだろう。もっとも、名称で価値が決まるわけではない。

A14 Bionicとその拡張版であるM1が発表された現在での変化は、生産を委託するTSMCの生産プロセスが同じ5nmでも、N5からより低消費電力なN5Pになっていることだ。以前にも紹介したが、動作速度で5%、消費電力で10%改善される。

この数字が信頼できるのは、A14 Bionicが3GHz動作だったのに対して、A15Bionicは3.25GHzで動作しているからだ。M1はMacでは3.2GHzで動いていたため、iPhone向けにはクロックを消費電力を下げるために抑えていたのだと予想できる。消費電力が上限を決めているならば、10%の改善で3.3GHz。少し誤差はあるが、A15 Bionicの3.25GHz動作は妥当なところだ。

ではM2でどうなるかだが、MacBook Airや15W版のMacBook Proのプラットフォームに組み込むのであれば、3.6GHz程度(同プラットフォームではM1が最大3.2GHzで動作。A14 BionicとA15 Bionicの差分を考えると3.69GHzという数字になるため)と予想する。

ただし、新型MacBook Proにはより高い能力の冷却システムが搭載されるだろう。仮にそれが30ワット程度の消費電力を許容するものであるなら、ピークで4GHz以上の瞬発力が出てもおかしくはない。

内蔵GPU、同一パッケージDRAMでどこまで行ける?

このような推測に意味があるかどうかはともかく、仮にCPU構成がA15 Bionicを4ビッグ、4リトルの8プロセッサ構成にした上でクロック周波数が4GHzまで回るようになれば、GeekbenchのCPUスコアは9695程度が見込まれる。

A15 Bionic搭載コアは、ビッグコア1個あたり1740、リトルコア1個あたり333(いずれも3GHz時)、それぞれを4倍して合算した上で、3.25GHz動作のA15 Bionicに対するクロック動作差分を見積もれば、おおよその値が見えてくるわけだ。

正解はもちろん発表後にならなければわからないが、モバイルワークステーション向けのXeon Wシリーズ並か、あるいはそれを超えるパフォーマンスになる可能性が高そうだが、内蔵GPUに関してもかなり優秀な数字を出すと思われる。

A15 Bionic内蔵の5コアGPUは、iPhone 13Proに搭載されているものでも14541という数字が出た。Mac向けには8コアおよび16コアのGPUが配置されるのでは? と予想されているが、例えクロック周波数が同一だったとしても8コアなら23265、16コアなら46531という数字が予想される。

予想通りならば、16コアモデルの予想GPUスコアはRadeon Pro 5600Mを搭載する16インチMacBook Proの最高性能構成時と同等ということになる。内蔵GPUでここまで出せれば十分高性能で、余分なメモリ転送が発生しない共有メモリということも考えれば、より高い実性能になるだろう。

また、それぞれの値は本体の熱設計次第でもう少し高めに振れる可能性がある。例えば同じ構成でも16インチモデルの方が性能は出るといったこともあるだろうし、CPUを重視するならCPU性能に、GPUを重視するならGPU性能にと、消費電力枠の割り振りを変えるといった味付けも行える。

この辺りは実際に登場してから、Appleがどのような思想でMac向けの上位プロセッサを設計したのかを観察し、Intelプラットフォーム時代との比較や、今後さらに上位のMacではどうなるのか? と想像してみるのも、技術的な妄想としては面白いかもしれない。

このような”取らぬ狸の皮算用”ができるのは、M1XあるいはM2といった名称になるだろう新しいMac向けAppleシリコンがM1と同じように同一ダイにシステムのほとんどを収めた上で、パッケージ上にDRAMを搭載している場合の話に限ることは言うまでもない。

専用の外部GPUを開発中との噂もあるが、今回は内蔵、あるいは外部チップがあるとしても同一パッケージに収める形での搭載になるのでは? と予想している。

拡張性、スケーラビリティへのヒントに期待

さて、M1が高性能であった理由のひとつは、SoC近傍に配置され広帯域インターフェイスで接続される共有メモリのアーキテクチャだった。前述したようなCPUとGPU(それ以外のプロセッサモジュールも)が同じメモリにアクセスできるため、メモリ転送の必要がなく、得意な領域で異種プロセッサが活躍しやすい。

Appleが開発しているような、推論エンジンやイメージ処理プロセッサなど多種類の異種プロセッサが混在するSoCでは共有メモリアーキテクチャがとてもうまく機能する。また、同じパッケージに搭載することでSoC近傍にDRAMを配置してメモリアクセスの帯域幅を広くしやすいわけだ。

しかし、これまでのMacのラインナップを振り返るに、このアーキテクチャだけでカバーできるのは、噂されている14インチMacBook Proまでではないだろうか。より多くのDRAM、より高いGPU性能、より多くのThunderbolt端子などがプロ向けモデルには必要になってくる。そうした意味で16インチモデルが「一回だけ」で全ラインナップ入れ替えになるのか、一部は残された上で最新モデルに更新されるのかに注目したい。

16インチモデル上位にディスクリートGPUのIntelSoC搭載モデルが残されたならば、そこにはより拡張性を重視した「さらに先の」Mac向けAppleシリコンが用意され、ディスクリートGPUやメモリ拡張性を備えたものが用意されるだろう。

ではどのように拡張性を持たせるのか、そのヒントが新SoCに観察できることを期待したい。