インフルエンザの予防接種は何歳から受けるべき?

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ワクチン接種は、ウイルスに対する実戦形式のシミュレーションと言ってもいいでしょう。模擬戦のできる年齢制限はあるのでしょうか。そこで、「ソージュ山下町内科クリニック」の中村先生に、インフルエンザワクチン接種の適応年齢を伺ってみました。すると、2020年10月に改訂された重要なポイントがあるそうです。現時点での最新情報をお届けします。

監修医師:
中村 蓉子(ソージュ山下町内科クリニック 院長)

東京医科歯科大学医学部医学科入学後、海外留学を経て、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科博士課程神経病理学分野入学、修了。東京医科歯科大学医学部附属病院や横浜市立みなと赤十字病院へ勤務後の2020年、神奈川県横浜市に「ソージュ山下町内科クリニック」開院。予防の観点から、定期的に相談できるかかりつけ医を目指している。医学博士。日本内科学会認定内科医、産業医、協力難病指定医。

6カ月から可能で、接種間隔に大きな変更あり

編集部

赤ちゃんのインフルエンザワクチン接種って、何歳から可能なのでしょうか?

中村先生

ワクチンに添付されている説明は「生後6カ月から」で、日本小児科学会でも同様の時期を推奨しています。ただし、「生後1歳から」接種を受け付けている先生もいらっしゃるようです。なお、インフルエンザの予防接種は、希望する人だけが受ける“任意接種”となっています。

編集部

赤ちゃんには、母体から免疫力が受け継がれていると聞きます。

中村先生

そうなのですが、母体から受け継いだ免疫力は徐々に失われていきます。自分自身の免疫力にとって変わる “谷間”の期間は「生後6カ月」前後です。ワクチンは体の免疫力に働きかけますから、「谷間の期間に接種すると、限定的な効果しか得られない」とも考えられますよね。

編集部

医師によって、評価が分かれているんですね?

中村先生

かつての小児用ワクチンは用量が少なかったため、効果を疑問視する見方もあったのです。その時代の名残かもしれませんね。なお、現在では、小児用ワクチンの用量が増えています。また、海外の統計調査ですが、「生後6カ月のインフルエンザワクチン接種は効果的」という報告が出ています。

編集部

たいてい、大人の場合は1回の接種です。

中村先生

12歳までのお子さんは2回を推奨しています。ただし、12歳と13歳でなにかが決定的に違うのかというと、そんなことはありません。一般的にですが、過去、インフルエンザに感染していると、1回の接種でも免疫を獲得しやすくなります。その線引きを統計的に考えたとき、「12歳」という数値が出てきたのではないでしょうか。ですから、その年の流行状況などを参考としつつ、柔軟に運用してもいいのかなと考えています。

編集部

ほかのワクチン接種と重なりそうなときは?

中村先生

この件に関して、2020年の10月から状況が“大きく変化”しました。今まで、「インフルエンザのワクチン」と平行して「麻しん風しん混合ワクチン」を接種する場合、一定の間隔が必要でした。しかし2020年10月1日以降は、翌日以降あるいは同時でも可能となっています。医療機関のサイトなどが更新されていないと、“古い情報”を目にするかもしれません。注意してください。

毎年接種する、インフルエンザの特殊性

編集部

基本的にインフルエンザの予防接種って毎年ですよね?

中村先生

はい。インフルエンザウイルスが少しずつ「姿を変え続ける」のが理由です。このため、毎年、その年の姿に合わせたワクチン接種が必要となります。また、ワクチンを接種したとしても、インフルエンザにかかることがあります。厚生労働省の乳幼児を対象とした研究によると、「インフルエンザワクチンの発病防止効果は20~60%」とのことです。

編集部

20%って、本当に必要なんでしょうか?

中村先生

インフルエンザのワクチン接種に限って言うと、感染予防というより、「重症化防止」の役割の方が大きいと考えています。肺炎や脳炎などへの進行、生涯にわたって抱えるような後遺症、あるいは異常行動などを防ぐという考え方ですね。

編集部

治り方はどうでしょう。接種していた方が早いと考えていいですか?

中村先生

重症化を防ぐわけですから、「早い」と考えていただいて構いません。また、そのことにより、ほかの病気を併発した場合でも、早期の回復が見込めます。最悪なのは、インフルエンザも重症で、ほかの病気も重症というパターンです。このような事態を、インフルエンザのワクチン接種で防いでいきましょう。

編集部

周りの大人も、インフルエンザに気をつけないといけないと?

中村先生

ワクチン接種による予防効果が100%ではないことを考えると、非常に大切な発想です。「かかる可能性がある人を1人でも少なくしていく社会的責任」のようなものが、感染症対策には求められます。とくに1歳に満たない赤ちゃんの場合、「家族からもらうケースが全て」と考えていいでしょう。

最大の懸念事項は副作用

編集部

逆に、注意を要する赤ちゃんのケースはありますか?

中村先生

インフルエンザワクチンの培養には鶏卵を使うため、「卵アレルギー」の赤ちゃんは注意が必要です。しかし、日本製のワクチンに関して言うと、「混じり込んでいる卵の成分」をかなり抑えこめているようです。卵を食べても大丈夫な子どもなら感染予防の効果が勝るので、接種は可能と考えていいと思います。念のため、卵アレルギーがわかっていたら、担当医と相談してください。

編集部

慌てないためにも、ほかの副反応があったら教えてください。

中村先生

軽度なものとしては、「注射した箇所の腫れ」、「発熱」、「風邪と似た症状」などです。これらが次第に軽くなっていけば、心配はありません。他方、「痙攣(けいれん)している」、「食べ物をもどす」、「反応がない」などの副反応があったら、ためらうことなく救急車を呼んでください。可能なら、接種後30分は院内に残って様子を見ましょう。この段階で特段な変化がなければ、安心してご帰宅いただいて結構です。

編集部

赤ちゃんの注射って泣かれるので、見ているとかわいそうです。

中村先生

接種は一瞬でも、その効果が長く続きます。「インフルエンザや合併症にかかるのと、どちらがかわいそうなのか」という視点に立っていただくしかないでしょう。赤ちゃんは自分で健康管理できませんので、大人が守ってあげてください。

編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。

中村先生

インフルエンザに限らず、国内のワクチンは安全性が認められています。感染症を広めない社会的なシステムとして、前向きに検討してください。また、接種間隔の改訂により、「麻しん風しん混合ワクチン」との接種スケジュールが組みやすくなっているはずです。最寄りの医療期間で最新情報を確認しましょう。

編集部まとめ

標題について、教科書的な回答としては、「生後6歳から可能」ということになりそうです。しかし、12歳以下の接種回数も含め、弾力的に運用しているケースもあるとのこと。インフルエンザワクチンの接種を検討している人は、事前に周囲の医療期間のサイトを調べてみましょう。その際、「麻しん風しん混合ワクチン」との接種間隔には要注意です。古い情報を鵜呑みにしないよう心がけてください。