日本人と「トップダウン」は相性が悪い モチベーションを高める「話の聞き方」
コミュニケーションが上手く、相手の能力を引き出せる人は「聞き方」が上手だと言われることが多い。
では、どんな「聞き方」が良いのだろうか?
それは相手に対しての共感は必要なく、質問をしなくてもいい。ただ、黙って話を聞いている。それが相手の気持ちや考えの整理、そして成長につながるというのだ。
今回は『成功している人は、なぜ聞き方がうまいのか?』(日本文芸社刊)を上梓した社会心理学者の八木龍平さんにお話をうかがい、「聞き方」の極意について教わった。
ここでは、話を聞いている側の反応の仕方やリーダーシップとモチベーションについてお話を展開してもらった。
(新刊JP編集部)
■日本人のリーダーは「空っぽ」でいい? 人材を成長させる「聞く」極意とは
――本書には聞く力を高めると、相手の根源的欲求を引き出すことができると書かれていました。これは相手にどんどん話をしてもらうことで、より深い本音が出てくるというイメージで良いですか?
八木:そうですね。根源的欲求は奥底に眠っています。それを引き上げるためには、まずは浅い部分にある本音を一通り出していき、それが終わったら湧き上がってくるという感じですね。
――浅い本音と深い本音は違うものなんですか?
八木:例えば、何か願望はありますか?と聞かれたら、誰もが「お金が欲しい」とか「素敵な恋人がほしい」と言いますよね。これは浅い本音というか、誰もが分かっているような願望です。
でも、人間には個性というものがあって、人生を重ねる中で大事に育ててきた哲学みたいなものがあるわけですよ。仲間を大切にしたいとか、その人特有の願望が出てきたら、それは深いところにある本音なんです。でもそれはいきなり話をしても出てこない。
――その人のことを掘り下げていって初めて出てくる本音ということですね。
八木:そうですね。そうして出てくる根源的欲求って意外と綺麗事だったりすることがすることがあって、建前とよく似ていたりするんですよ。
――では、相手の話を聞いているときってどんな反応をしていればいいのでしょうか? いろいろ返し方はあると思いますが、前半でお話をしていた「分からない状態」の中でどんな反応をすればいいのかなと。
八木:極論を言うと、相手に意識を向けているだけでいいんです。あなたに興味・関心を持っているよと言えばいい。特別に何かしないといけないということは、実はないんです。
――相手に意識を向けているよという示し方について、具体的なものってありませんか?
八木:例えばあいづちを打ったり、合いの手を入れたりというのは一つあるでしょう。本書では「さしすせそ」なんて書きましたけれど、「さすがですね」「知らなかった」「すごいですね」といった合いの手を入れていくことで、相手は「聞いてくれているんだな」という気持ちになります。ただ、実はあいづちにしても合いの手にしても、その言葉そのものにはあまり意味はないわけです。
――確かにあいづちって意味のある言葉ではないですね。
八木:あいづちは相手の話の続きを引き出しているんです。相手が話しやすいテンポやリズムを作る技術があいづちだったりする。
――なるほど。
八木:でも、極論を言えば、自分自身が本当に相手に意識を向けていれば、その技術関係なく、相手は話をしてくれるはずです。
――相手が自分に対して意識が向いているか向いていないかって、分かります。それで、意識が向いていればちゃんと話しますし。
八木:(笑)この人、明らかに話を聞いてないなと思う時ってありますよね。そうしたら気力が折れてしまう。
――話す意味がないなと思うというか。それに、あまり意識がこちらに向いていない人ってわりとインスタントな解決方法を示してきたりして、「そういうことを言ってるんじゃないんだけどな…」って思うことも多くて。
八木:そういうことってありますよね。モチベーションという観点から言うと、自分から話したがる人って、モチベーションが高いんですよ。だって、自分が提案した解決法に基づいて誰かが問題を解決したら、それって自分の手柄じゃないですか。
力の強い人って、アドバイスしたがりだったりしますが、それはモチベーションを独占しようとしているからなんですね。でも、逆に弱い側の人はモチベーションが低下してしまうことになる。
日本のリーダーシップの型として、鹿児島薩摩藩士のスタイルがあります。薩摩藩の武士たちのリーダーシップのスタイルって、上の人は責任だけ取り、あとは下の人間に任せるという形なんです。これは「お神輿構造」と言われています。
お神輿の中には何も入っていないけれど、下で大勢の人間が担いでいるので、あたかもお神輿の中に誰かが入っていて、指示しているように見える、と。これって、日本特有のリーダーシップの構造で、上はある意味空っぽだけれど、その代わり下の支えている人たちのモチベーションが高いわけです。
もし、神輿の上に誰かがいて指示を始めると、下の人たちのモチベーションは下がっていってしまう。一方でアメリカはリーダーの能力が高くて、現場はモチベーションが低いということがあります。だから、どちらかがモチベーションを握っているということなんですね。
――どちらかしかモチベーションを独占できない。
八木:そうです。だから、日本人がアメリカのスタイルを真似ようとしてトップダウンで指示を出そうとすると、失敗してしまうことが多い。そういう風に人材教育されてきていないので。教育そのものをアメリカ式に変えていって、本当に超優秀な人間だけが上に立てるようにしないといけません。
――確かに日本ってそういうスタイルに不慣れですよね。
八木:日本はリーダーが空っぽで下が支えるというスタイルでやってきたので、急に変えるのは難しいと思います。そして、そういうお神輿方式が定着してきたのも、日本人が「聞いて任せる」ということを大切にしてきたからではないかと思いますね。
――聞く立場の人がやってはいけないNGな振る舞いって何かありますか?
八木:聞く側なのにしゃべり続けることですかね。聞く立場であるはずなのに、聞かない人って少なからずいますよね。特に力の強い人間って、話している方が気持ち良いから、話すんですよ。
――例えば上司と部下の面談で、上司がずっとしゃべり続けているような。
八木:そうです。どちらも話したい場合、力の強い方が話す立場をとってしまう。これは何も意識していないとそうなるんです。だから、力のある人が話す立場を譲るということが求められます。
力の強い側の人が弱い側の相手に一方的に話をすると、メンタルを崩しやすくもなるでしょう。だから、特に人材を育成している人っていうのは、指示を出すのではなく、相手の話を聞くという態度を取ってほしいです。
――今、1on1のような、上司と部下で1対1で話すようなケースって増えていると思うんです。そこでは上司の人たちは気を付けないといけませんね。
八木:我慢できずに話してしまう上司もいるかもしれませんが、話を聞けるリーダーの方が人望は高まるし、相手のモチベーションも高まるのだと思います。「聞く」ということを身につけるだけで、周囲は大きく変わる。そのことを知ってほしいなと思います。
――最後に、本書のメソッドをどんな人に実践してほしいですか?
八木:この本で書いた「聞き方」って、コミュニケーションのあらゆる場面で使えるので、ぜひ誰でも実践してほしいと思っています。
ただ、おそらくこの本を手に取っている人って、ある程度「聞く力」がある人だと思うんです。そういう人たちに、聞くという態度の価値について、自分が目立たずに相手の話を聞くことの価値の高さについて深く実感してほしいですね。
(了)
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それは相手に対しての共感は必要なく、質問をしなくてもいい。ただ、黙って話を聞いている。それが相手の気持ちや考えの整理、そして成長につながるというのだ。
今回は『成功している人は、なぜ聞き方がうまいのか?』(日本文芸社刊)を上梓した社会心理学者の八木龍平さんにお話をうかがい、「聞き方」の極意について教わった。
ここでは、話を聞いている側の反応の仕方やリーダーシップとモチベーションについてお話を展開してもらった。
■日本人のリーダーは「空っぽ」でいい? 人材を成長させる「聞く」極意とは
――本書には聞く力を高めると、相手の根源的欲求を引き出すことができると書かれていました。これは相手にどんどん話をしてもらうことで、より深い本音が出てくるというイメージで良いですか?
八木:そうですね。根源的欲求は奥底に眠っています。それを引き上げるためには、まずは浅い部分にある本音を一通り出していき、それが終わったら湧き上がってくるという感じですね。
――浅い本音と深い本音は違うものなんですか?
八木:例えば、何か願望はありますか?と聞かれたら、誰もが「お金が欲しい」とか「素敵な恋人がほしい」と言いますよね。これは浅い本音というか、誰もが分かっているような願望です。
でも、人間には個性というものがあって、人生を重ねる中で大事に育ててきた哲学みたいなものがあるわけですよ。仲間を大切にしたいとか、その人特有の願望が出てきたら、それは深いところにある本音なんです。でもそれはいきなり話をしても出てこない。
――その人のことを掘り下げていって初めて出てくる本音ということですね。
八木:そうですね。そうして出てくる根源的欲求って意外と綺麗事だったりすることがすることがあって、建前とよく似ていたりするんですよ。
――では、相手の話を聞いているときってどんな反応をしていればいいのでしょうか? いろいろ返し方はあると思いますが、前半でお話をしていた「分からない状態」の中でどんな反応をすればいいのかなと。
八木:極論を言うと、相手に意識を向けているだけでいいんです。あなたに興味・関心を持っているよと言えばいい。特別に何かしないといけないということは、実はないんです。
――相手に意識を向けているよという示し方について、具体的なものってありませんか?
八木:例えばあいづちを打ったり、合いの手を入れたりというのは一つあるでしょう。本書では「さしすせそ」なんて書きましたけれど、「さすがですね」「知らなかった」「すごいですね」といった合いの手を入れていくことで、相手は「聞いてくれているんだな」という気持ちになります。ただ、実はあいづちにしても合いの手にしても、その言葉そのものにはあまり意味はないわけです。
――確かにあいづちって意味のある言葉ではないですね。
八木:あいづちは相手の話の続きを引き出しているんです。相手が話しやすいテンポやリズムを作る技術があいづちだったりする。
――なるほど。
八木:でも、極論を言えば、自分自身が本当に相手に意識を向けていれば、その技術関係なく、相手は話をしてくれるはずです。
――相手が自分に対して意識が向いているか向いていないかって、分かります。それで、意識が向いていればちゃんと話しますし。
八木:(笑)この人、明らかに話を聞いてないなと思う時ってありますよね。そうしたら気力が折れてしまう。
――話す意味がないなと思うというか。それに、あまり意識がこちらに向いていない人ってわりとインスタントな解決方法を示してきたりして、「そういうことを言ってるんじゃないんだけどな…」って思うことも多くて。
八木:そういうことってありますよね。モチベーションという観点から言うと、自分から話したがる人って、モチベーションが高いんですよ。だって、自分が提案した解決法に基づいて誰かが問題を解決したら、それって自分の手柄じゃないですか。
力の強い人って、アドバイスしたがりだったりしますが、それはモチベーションを独占しようとしているからなんですね。でも、逆に弱い側の人はモチベーションが低下してしまうことになる。
日本のリーダーシップの型として、鹿児島薩摩藩士のスタイルがあります。薩摩藩の武士たちのリーダーシップのスタイルって、上の人は責任だけ取り、あとは下の人間に任せるという形なんです。これは「お神輿構造」と言われています。
お神輿の中には何も入っていないけれど、下で大勢の人間が担いでいるので、あたかもお神輿の中に誰かが入っていて、指示しているように見える、と。これって、日本特有のリーダーシップの構造で、上はある意味空っぽだけれど、その代わり下の支えている人たちのモチベーションが高いわけです。
もし、神輿の上に誰かがいて指示を始めると、下の人たちのモチベーションは下がっていってしまう。一方でアメリカはリーダーの能力が高くて、現場はモチベーションが低いということがあります。だから、どちらかがモチベーションを握っているということなんですね。
――どちらかしかモチベーションを独占できない。
八木:そうです。だから、日本人がアメリカのスタイルを真似ようとしてトップダウンで指示を出そうとすると、失敗してしまうことが多い。そういう風に人材教育されてきていないので。教育そのものをアメリカ式に変えていって、本当に超優秀な人間だけが上に立てるようにしないといけません。
――確かに日本ってそういうスタイルに不慣れですよね。
八木:日本はリーダーが空っぽで下が支えるというスタイルでやってきたので、急に変えるのは難しいと思います。そして、そういうお神輿方式が定着してきたのも、日本人が「聞いて任せる」ということを大切にしてきたからではないかと思いますね。
――聞く立場の人がやってはいけないNGな振る舞いって何かありますか?
八木:聞く側なのにしゃべり続けることですかね。聞く立場であるはずなのに、聞かない人って少なからずいますよね。特に力の強い人間って、話している方が気持ち良いから、話すんですよ。
――例えば上司と部下の面談で、上司がずっとしゃべり続けているような。
八木:そうです。どちらも話したい場合、力の強い方が話す立場をとってしまう。これは何も意識していないとそうなるんです。だから、力のある人が話す立場を譲るということが求められます。
力の強い側の人が弱い側の相手に一方的に話をすると、メンタルを崩しやすくもなるでしょう。だから、特に人材を育成している人っていうのは、指示を出すのではなく、相手の話を聞くという態度を取ってほしいです。
――今、1on1のような、上司と部下で1対1で話すようなケースって増えていると思うんです。そこでは上司の人たちは気を付けないといけませんね。
八木:我慢できずに話してしまう上司もいるかもしれませんが、話を聞けるリーダーの方が人望は高まるし、相手のモチベーションも高まるのだと思います。「聞く」ということを身につけるだけで、周囲は大きく変わる。そのことを知ってほしいなと思います。
――最後に、本書のメソッドをどんな人に実践してほしいですか?
八木:この本で書いた「聞き方」って、コミュニケーションのあらゆる場面で使えるので、ぜひ誰でも実践してほしいと思っています。
ただ、おそらくこの本を手に取っている人って、ある程度「聞く力」がある人だと思うんです。そういう人たちに、聞くという態度の価値について、自分が目立たずに相手の話を聞くことの価値の高さについて深く実感してほしいですね。
(了)
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