BTS弟グループ誕生の裏で、日本人候補者を陥れた「悪魔の編集」と「デマ拡散」
『BTS』(防弾少年団)の世界的ヒットを受け、今や韓国を代表する芸能事務所となったBig Hitエンターテインメント。会社を率いるパン・シヒョク代表が総括プロデューサーとして参加した韓国発のアイドルサバイバル番組『I-LAND(アイランド)』が9月18日、最終回を迎えた。
【写真】ツイッターでアウトタグを使いデマを拡散する卑劣なアンチ
6月26日にスタートし、日本を含む世界各地で放送・配信されていた本番組。韓国、日本、台湾、ベトナムなどから集まった23人の候補者が、グローバルアイドルとしてのデビューを賭け、113日間、生活をともにしながらダンスと歌のテストに挑戦。最終候補者9名で迎えた最終回では、視聴者投票とプロデューサー陣の選出により7名のデビューメンバーが決定。『ENHYPEN』(エンハイフン)として活動することが発表された。日本出身のニキ(14歳)も見事メンバー入りし、日本のK-POPファンを沸かせた。
その一方で、有力候補とされていた日本出身のK(ケイ)の脱落が、大きな波紋を呼んでいる。
ヒールに仕立てる“悪魔の編集”
学生時代はマラソン選手として活躍した元アスリートの22歳で、高身長の細マッチョ&ベビーフェイスというギャップ萌えするルックスが特徴。長い手足を使ったダイナミックなパフォーマンスが武器で、振り付けもこなす実力派だ。最年長メンバーということもあり、10代が多い候補者の間でリーダーシップを発揮。頼りになる兄として慕われていた。
その実力は精鋭が集まった23名の中でもトップクラスで、数回に及んだパフォーマンスのテストでも上位をキープ。パン代表も、「個人的に期待をしている」と絶賛し、かなりのお気に入りぶりが見て取れた。
日本のみならず、ヨーロッパや北アフリカなど海外視聴者からの人気も高く、中心的キャラクターのひとりとして番組をけん引してきたK。しかし、番組後半にあたるパート2(8月14日〜)の放送から、突如雲行きが変わり始めたのだ。
「彼に対する“悪魔の編集”が始まったんです。これは韓国のリアルバラエティーでよくある手法で、編集によって特定人物をヒール(悪役)や、トラブルメーカーに仕立てるんです。視聴者が飽きないようドラマ性を加味するためですね。過去、同様のアイドルサバイバル番組で編集のターゲットになった子は、視聴者からもれなくバッシングを受け、うつ病を発症する子もいました」(韓国在住のライター)
今回のKの場合、顔をしかめるといった表情が別のシーンに差し込まれ、ほかの候補者に嫌悪を示すような印象操作が繰り返し登場。また、チームを組み、テスト練習に励むくだりでは、熱すぎるリーダーシップがゆえに、Kとメンバーとの間に溝ができてしまう様子が赤裸々に描かれた。
「その後、互いに心情を打ち明ける場面も放送されましたが、終始、Kの言動に全ての非があるかのように編集されていて、彼のイメージを悪くしてしまいました」(Kの日本人ファン)
このタイミングを見逃さなかったのが、“アンチ”と呼ばれる韓国の過激なファンだった。
ライバルを蹴落とすため、デマをねつ造
「韓国の視聴者参加型のアイドルサバイバル番組で、切っても切れないのがアンチによる卑劣な行動。自分の“推し”を上位にするため、あの手この手でライバルの候補生を引きずり下ろすんです。過去のSNSから言動の粗さがしをするほか、整形前の写真を拡散したり、交際遍歴を暴露したり。いじめの首謀者だったといったデマを流すのも常套の手口です。複数人で組織的に動くケースもあり、相当に悪質です」(前出のライター)
今回、アンチが目を付けたのも、Kが学生時代に運用していたとされるツイッターだった。友人との何気ないやり取りの中で登場した“黒人”という単語を切り出し、「彼は差別主義者だ」と主張。北米を中心に議論となっている黒人差別問題を巧妙に絡めて、「人種差別をする候補者を番組から降板させろ」とアウトタグ(#out〇〇とグループなどからの脱退を求めるタグ)を貼り付けSNSに投稿。刺激的なワードに踊らされた番組視聴者によって、事実無根のデマがあっという間に世界中にばら撒かれてしまったのだ。
「荒唐無稽な主張ですが、アンチにとっては叩く材料はあれば何でもいいんです。そして今回、より暴徒化しやすかった理由は、ターゲットが日本人だったから。韓国の視聴者の間では、番組開始当初から韓国人メンバーのみでデビューを望む声が強くあったんです。ところが番組が進むにつれ、Kが有力候補に浮上。“日本人が入ってしまう”というあせりが、アンチ活動の燃料になったのは間違いありません」(前出のライター)
“日本人排除”の共通目標で結託したアンチは、SNS上で組織化。アウトタグをツイッターのトレンド入りをさせるため、特定時刻を狙って誹謗中傷を盛り込んだ書き込みをタグと共に一斉投稿。さらには、Kの番組降板などを求める要求書をメールやファックスで事務所や放送局に大量に送りつけるなど、最終回までの約2週間にわたり、野蛮なアンチ活動を連日続けたのだ。
ここ数年、著名人を狙ったデマの流布や名誉棄損は世界的に問題化。女優・歌手の故ソルリさんのように自殺に追い込まれるケースも少なくない。これまでBig Hitは、所属アーティストの名誉を棄損する行為に対し法的処置を取るなど強固な姿勢を見せてきたが、今回は放置されたまま時間が過ぎた。
「K君のファンや支持者は、SNSやYouTubeなどを通じ事実無根だと必死に訴えましたが、デマは拡散し続け、彼のイメージを回復することはできませんでした」(前出のファン)
プロデューサー陣が下した衝撃の結末
そんな中で迎えた9月18日の最終回。最終候補の9名の中からデビュー組に入れるのは7名のみ。世界177か国のファンが参加した投票で、まずは上位6名がメンバーに決定。残る1席は、パン代表らプロデューサー陣の選択にゆだねられた。
最終回の1週前に放送されたテストでは、ぶっちぎりのトップで通過し、パン代表からも「本当にカッコよかった」と称賛を受けたK。票数的にも7位だった彼だが、最後のメンバーに選ばれたのはKではなく、8位の候補生だった。
「選ばれた子も魅力あるメンバーで、グループのコンセプトやバランスなど、総合的な判断だったのは理解できます。でも、Kへの悪魔の編集とアンチのデマ拡散で、投票数に影響が出るのを覚悟していたファンにとって、プロデューサー枠は最後の頼みの綱でした。Kの高い実力を認めていたプロデューサー陣が、最後の最後で彼を選ばなかった理由に、もし、アンチの騒動があったかもしれないと思うと悔しくてなりません。しかも、アンチ活動を扇動していた首謀のひとりが15歳だったそうで、二重のショックを受けました」(前出のファン)
脱落決定後のスピーチで、溢れる涙をこらえながら「これからも音楽は続けたい。ENHYPENと同じステージにいつか立てるよう頑張っていく」と語ったK。
最後にマイクを握ったパン代表は、Kと、もうひとりの脱落者であるダニエル(14歳)に対し、「これからも夢を追いかけてほしい。私がみなさんの横で、その夢がかなえられるように必ずサポートする。ENHYPEN、BTS、TOMORROW X TOGETHERと同じステージに立てるよう最善を尽くしていく」と語り掛け、番組は終了した。
被害者を生むことを顧みない編集方法に、グローバルグループ結成の裏で行われていた、反グローバル的なアンチによるデマ拡散。そして、それを静観し続けた事務所。夢に向かってただただ懸命に走っていた青年は、人々のどす黒い思惑に襲われ、夢をつぶされてしまったのだ。
理不尽極まりない一連の出来事に、放送直後から同情と、救済を求める声が番組や事務所のSNSに殺到。ツイッターでは連日、ファンによるKの応援ハッシュタグ活動が行われているほか、今後の活動を願う署名運動が世界各地で繰り広げられている。
Kが再びステージに立つために、彼の社会的な名誉回復と、卑劣アンチへの強固な対応が急がれるべきだ。
(取材・文/林由香)