毎日の食事の支度が楽になり節約もできる、下味冷凍の極意を紹介(写真:扶桑社提供)

肉や魚、野菜などの食材にあらかじめ味付けをし、冷凍する「下味冷凍」がじわじわ人気を集めている。レシピの世界では数年前から定番だったが、ここへきて『エッセ史上最強!下味冷凍THE BEST』『下味冷凍スピードおかず〜時短!節約!おいしさアップ!』などのレシピ本が、次々に刊行されているのだ。

新型コロナウイルスの影響で、自宅で食事をとることが増えている今、日々の料理に頭を悩ませている人も少なくないだろう。できれば時間をかけず、それでもバラエティー豊かな食事を食べたいし、できれば食品ロスも抑えたい――そんなわがままを可能にするのが下味冷凍なのである。

下味冷凍の魅力とは

下味冷凍の最大の魅力は、節約できることだ、と冷凍達人として知られる料理家、松本有美(ゆーママ)氏。


冷凍達人として知られる料理家・松本有美(ゆーママ)氏(写真:扶桑社提供)

「まず、時短になります。料理を完成させて冷蔵保存するつくりおきと違って、下味をつけるだけなので、つくりおき調理の時間が短い。仕上げ調理の際は、火の通りが早い。1時間かかる煮物が15分ほどでできる場合もあります。鶏の胸肉は驚くほど簡単にほぐれますよ」

経済的な節約にもなる。「肉や魚が安いときに大量に買って、何種類か分けて下味冷凍にしておけば、お金を節約できますし、食材が一部残り冷蔵庫でダメになる、といった食品ロスも防げます」。

さらに、下準備ができているので、ハンバーグだねをメンチカツにする、ロールキャベツにするといった応用もでき、料理のレパートリーが広がるというメリットも。まとめ買いしたものは、同じ料理を大量に作ることになりがちだが、和風、洋風、中華風などいろいろな味付けで冷凍しておけば、バリエーションを楽しめる。

「モツやラムなどクセが強いものも、濃い下味をしっかりつけ冷凍すれば、臭みがあまり気にならなくなりますよ」と松本氏。色の持ちもよくなるが「葉物は炒めると色落ちが早くなるので、加熱は短時間で」と言う。

冷凍というと、使える食材が限られるイメージがあるが、それは昔の話だ。「昭和時代は、キュウリ、大根、根菜類、もやしは冷凍できないとされていましたが、今は料理技術も冷蔵庫も進化したので、できるようになりました。たいていのものが、冷凍できますよ」と松本氏は話す。

「冷凍すると水分が膨張して繊維を壊すため、これらの野菜は冷凍できないとされていました。ですから冷凍は、水分量をコントロールすることが大事です。例えばジャガイモは、冷凍コロッケがあることからわかるように、マッシュポテトにすれば冷凍できます。煮物やカレー用の塊状のものが必要なら、片栗粉を加え、ボール状にして冷凍するといいですよ。

キュウリは塩もみし、水分を抜いてから冷凍します。酢の物など和え物を作ってしまえばいい。解凍したら、もう一度ギュッと絞ってから盛りつけましょう。水分がしっかり抜けるので、冷凍しないものよりシャキシャキ感は増します」

おいしく冷凍するには

下味冷凍に向いているのは、肉類と魚介類だ。例えば、6月に発売された『新装版 ゆーママの簡単!冷凍作りおき』で掲載されている「鶏肉のタンドリーだれ」は、スープカレーやトースターで焼くタンドリーチキン、ズッキーニを加えてバター炒めにするといった応用が利く。


「鶏肉のタンドリーだれ」は、スープカレーやトースターで焼くタンドリーチキン、ズッキーニを加えてバター炒めにするといった応用が利く(写真:扶桑社提供)

下味冷凍にするには、鶏もも肉をひと口大に切り、密閉容器に鶏肉と、プレーンヨーグルト、トマトケチャップ、醤油、カレー粉、サラダ油、顆粒コンソメスープの素、おろしにんにくを入れてよくもむ。

「冷凍している間に味が浸透し、肉が柔らかくなります。下味冷凍する食材には、保湿効果のあるみりんやヨーグルト、油を加えることで、冷凍焼けも防止できます」と松本氏。

容器は保存袋を使うのがおすすめ。ビニール製もあるが、プラスチックの代替品として開発されたピュアプラチナシリコーン製のスタッシャーなら、洗ってくり返し使える。袋を上から押さえるなどして空気をしっかり抜き、なるべく薄く平らにしてから冷凍しよう。塊が大きいと凍るのに時間がかかり、霜がつきやすくなるからだ。


まずは横に寝かせて冷凍。半分冷凍できたら立てて冷凍(写真:扶桑社提供)

平らにすると、管理がしやすくなる。何種類も作る場合は、立てて冷凍すればたくさん入るし、取り出しやすい。ただ、最初から立てると崩れて下にたまってしまうので、まず横に寝かせて冷凍する。耐熱性のバットに保存袋ごとのせ、上に保冷剤を載せておくと短時間で冷凍できる。半分冷凍できたところで、立てて冷凍する。

牛や豚の細切れ肉や、ハンバーグだねや、ギョウザのたねなどのひき肉は、半分冷凍したところで、袋の上から箸を押しつけて溝を作っておくと、後で割って使うことができる。

冷凍する際、容器に日付と料理名を書いておこう。冷凍保存期間は、4週間以内が目安。解凍の方法は、時間があるときは、皿に袋ごとのせ、冷蔵庫に移してゆっくりと解凍すると、最もドリップが出にくい。やや時間があるときは、室内で、タオルを敷いたバットに載せて解凍する。暑い日や湿度が高い日は傷みやすいので、半解凍したところで冷蔵庫に入れておこう。

急ぐときは、袋ごと流水に当てて解凍すれば、解凍ムラがなくドリップも少なくて済む。薄切り肉なら10分間ぐらいが目安だ。電子レンジで、保存袋から耐熱皿などに移してラップをかけ、解凍モードまたはいちばん低いワット数で解凍する方法も早い。ひき肉や鶏手羽は、冷凍庫から取り出して、調理しながら解凍する。

肉と野菜を一緒に下味冷凍することもできるが、基本的に別々に冷凍することをすすめる。「別にしておくと、いざ料理しようというときに、組み合わせが選べるからです」と松本氏。確かに冷凍したときと、実際に料理するときでは、天候などの条件が違うことがあるし、作りたい料理が変わっているかもしれない。

下味冷凍をする際には、安全性を守るため、注意点が6つある。新鮮な食材を使うこと、清潔な保存容器を使うこと、加熱した食材は容器に入れる前にしっかり冷ますこと、余分な水分をしっかりふき取ること、空気を抜くこと、日付と中身を書いておくことだ。

下味冷凍を始めることになったきっかけ

もともと料理が好きだった松本氏が冷凍の達人になったのは、実生活での体験が大きい。現在41歳の松本氏は、46歳の夫、72歳の実父と73歳の母、高校3年生、中学2年生、小学2年生の3人の息子の7人の大家族で暮らしている。息子たちは食べ盛りで、母親は入退院をくり返していた時期があり、塩分控えめにするなどの配慮が必要、とそれぞれ食事に求めるものが異なっている。

食事の支度は「いろいろな料理を試したいし、台所は誰にも譲りたくない」とすべて担ってきた。冷凍に興味を持ったのは、長男が生まれて離乳食の冷凍を始めてから。そのうちパンやお菓子も冷凍するようになり、「大人にも使えるのでは」と気づき、さらに試す範囲が広がった。

「私はミックスベジタブルのグリンピースが苦手なので、ほかの野菜で手作りしてみようと思ったのが、下味冷凍を始めるきっかけでした。若い頃は、家計の節約をする目的もありました」

つねに幼児がいる状態だったので、子どもが寝ている間に冷凍ストックを準備。味つけを両親には和風、子どもたちにはこってり目など分けて出せたのも、冷凍をしていたからこそ。長男の高校受験のときは、ピザ生地やパン生地、チャーハンなどを冷凍しておいて夜食にしていたという。

冷凍ストック作りには、通常の料理とは異なる工夫や注意が必要である。そのため、松本氏はこれまで、冷凍技術についていろいろな角度から勉強してきた。食品冷凍に関わるたくさんの本を読む。医師とコラボした企画の際は、医師にいろいろ質問した。市販の冷凍食品もいろいろと試し、アイデアの参考にもした。

家電メーカーから冷蔵庫のモニターを頼まれた際も、質問して知識を増やした。現在、料理スタジオにあるものも含め、冷蔵庫を6〜7台所有し、違いを体感している。また、運営しているカフェには業務用冷蔵庫があり、家庭用冷蔵庫との違いも知っている。

松本氏が、冷凍レシピの本を作るようになったきっかけは、2013年に最初の本を出した後、自宅からテレビに出演した際に、冷凍ストックが入った冷凍庫が映ったことだった。冷凍ストックを作ることは、多忙な生活で必要に迫られた面もあるが、料理する楽しみを増やし、仕事のうえでも役に立っている。松本氏自身の人生の幅を広げた技術である。

進化し続ける冷凍技術

日本人の冷凍食品とのつき合いは半世紀に及ぶ。『きょうの料理』が初めて取り上げたのは、1969年。ホームフリージングと呼ばれ流行したのが1980年代。どちらも、共働き女性が増えた時代だった。そして今も仕事を持ちながら家事を担う人が増えている。多忙な家庭料理人が増えるたび、冷凍食品は注目されてきたのだ。

そして、その技術は進化し続けている。『きょうの料理』が当時取り上げたのは、市販の冷凍食材で、まだコロッケやギョウザなどの冷凍食品は市場に出ていなかった。1980年代には、家庭での野菜類の冷凍技術は発展途上だった。今は、市販の冷凍食品があふれかえり、家庭でもコツさえつかめば、さまざまな食材や食品が冷凍できるようになっている。家庭料理が進化し続けていることが、冷凍という視点からもうかがえるのだ。

コロナ禍で外食が制限され、料理する機会が増えた人たちも多いことだろう。下味冷凍をうまく使って、日々の料理をラクに楽しくしてみてはいかがだろうか。