1980年にNHKのテレビドラマで俳優デビュー。以後、数々の作品との出会いを経て、近年は映画を主に第一線で活躍するベテラン俳優の佐藤浩市さん。今年、還暦という節目を迎える氏に、人生の岐路についてお話をうかがった。

≪目次≫
●映画業界への憧れは昔から強かったと思います
●運は待っていても始まらない。ガッチリ自分から掴むもの
●理想の人間像というのは特に持っていません
●妻がいなかったら今の自分はなかった
●【Information】 映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)
●【PROFILE】

映画業界への憧れは昔から強かったと思います

「ターニングポイントは?」と、改めて聞かれて思い浮かぶことはいくつかありますね。今にして思えば、僕が何とか60歳近くまで俳優として40年ぐらいのキャリアを積んでこられたのも節目節目で自分に一番足りないものを補ってくれる人や作品と出会えたからなんです。

――主役もやれば、脇を固める役もやり、「佐藤浩市が出ている作品は間違いない」と言わしめる俳優となった佐藤さん。では、目の前の彼はといえば、腕を組み、ちょっと体を右に傾けながら少しけだるそうにこちらを見る様は一瞬、とっつきにくそうだ。が、いざ話し始めると、どんな質問にも淡々と答える寛容さを備え、時に忍耐を持って応じているのが伝わってくる。とりわけ映画という仕事への愛情と情熱の強さは人一倍である。そんな佐藤さんの人生には、いわゆる役者バカであり、怪優とも称された父・三國連太郎が深く関わっていることも言葉の端々に感じられた。

よく親父の職業に反発するということも聞きますが、僕は比較的そうじゃなかったかな。というか、反発するも何も親父が家にいなかったからね。それでも僕の場合は何らかの形で映画に携わりたいという思いがあったので高校を卒業すると同時に映像学科のある専門学校へ入ったんですよ。でも、表方になりたいという思いがまったくなかったかというと嘘だと思うんです。役者への思いがあったからこそ逆に裏方の勉強をするほうを選んだのかもしれません。

俳優になるきっかけは、三國のマネージメントをしている方から「実はNHKで若い役者さんを探していてね。ちょっと撮ってみないか」と言われたんです。ちょうど毎日学校で16mmの屑フィルムの編集をやっていて「ツマンねえなあ」って思っていたところだったんで、夏休みに入ったときにプロデューサーとディレクターの方にお会いしたんです。もちろん演技経験なんてまったくないです。むしろ演劇科の連中がタイツ着て踊っているのを横目で見ては、自分には無理だなと思ってたぐらいで。ただ、当時が今の時代と何が違うかというと、新人を1人出すときに、それは映画であろうが、テレビであろうが、その新人に対して使う側がある種の責任を感じてらっしゃったんですよね。そういう意味で言うと、今より余裕がありましたから、僕も撮影に入る1カ月前ぐらいからNHKに呼ばれて毎日学校帰りに稽古ですよ。プロデューサーやディレクターが付きっきりで手取り足取り教えてくれたわけです。

僕のデビュー作になったのは、若山富三郎さん主演でシリーズ化された『続・続 事件 月の景色』です。
デビュー作にしては結構シンドい役柄でしたね。でも、あの役だったことは僕にとっては幸運だったかもしれないな。もっとラクな、いわゆる身の丈に合う役柄をやっていたら「あ、ラクだな」と思ってのぼせてしまった僕がいたかもしれません。

出典: FASHION BOX
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運は待っていても始まらない。ガッチリ自分から掴むもの

――20代の頃は、この世界でやっていく自信はなく、いつ辞めてもいいとまで思っていたらしいが最初のターニングポイントが20代前半に訪れる。相米慎二監督と出会い、役者として生きていくために大事なことを学ばされたのである。その後、トレンディドラマにも出演。そして、30代前半の映画『トカレフ』で阪本順治監督に出会ったことが、また佐藤さんにとって大きなターニングポイントとなる。

22歳のときに『魚影の群れ』でご一緒した相米さんは、いい意味で勘違いをさせてくれるんですよ。1シーン1カットの長回しで、同じ芝居をやるのは許さない人なので毎回違う芝居をしなきゃいけないわけです。おかげで「俺は常に新しいことをやっているんだ。これでいいんだ」という勘違いもさせられた。ただ、少し不安になって「監督、どうしたらいいんですか?」と聞いても、「そんなことは自分で考えろ、バカ」って何も言わないんですよ。

相米さんには、演出家に言われてやることが決して潔いわけではない、やっぱり役者が自分で気づかなくてはいけないってことを学ばされました。内側から気づいたものでなければ、外側から与えられたポージングで芝居をしたって観客には伝わらないというのが、きっと相米流なんです。僕らは伝承や伝統芸能ではない根無し草だからいくらでも漂うわけで、そういった右往左往しているなかでいい作品、いい監督に出会えるということがその後の役者人生に作用してくるんですね。

30歳を過ぎた頃ですね、脚本家の野沢尚さんが僕を自分のドラマに呼んでくれたんです。このフジテレビの、いわゆるトレンディドラマに出だしたら急に周りが変わって、仕事がドンドン来るようになった。「CMが俺なんかにもくるんだ」みたいな(笑)。テレビの影響ってすごいなあとは思ったけど、でも、ここじゃないな、自分のいたい所は、と。やっていることは映画と変わらないんだけど、ドラマの場合はなかなか着地点が見えない。それと2時間前後で完結したいというのも僕の中にあるので、ドラマには何か潔さを感じなかったんですよね。

それに、その頃からちょっと「いい人」のイメージが定着し始めたので、それに反発するように悪役をやりました。33歳のときかな、『トカレフ』という映画で、誘拐事件の主犯役をやったんです。人間というものに対するある種の絶望というか、性善的ではない人間というものの描き方がものすごく面白かった。この役をやったおかげで、いろんな役柄が来るようにもなりました。もちろんそういう作品に出られたのもこれは運だと思います、自分の力量云々ではなくてね。でも、せっかくの運を通り過ごしちゃう奴もいるんだよね。やっぱりそのとき目の前に来たものはガッチリ掴まないと。ただ、待っていてもしょうがないんです。

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理想の人間像というのは特に持っていません

――40代後半には、三谷幸喜監督の映画『ザ・マジックアワー』で初めて喜劇で主役を演じ、哀調漂うコミカルで突き抜けた演技が絶賛された。その後も三谷監督とは何度もタッグを組んでいる。そんなシリアスからコメディまで何でもござれの佐藤さんだか、「理想の上司」や「頼れる兄貴」的なイメージもとても強い。

それまでにもコメディに近いものはやっていたけど、完璧なコメディはそれなりのプレッシャーがありました。やっぱりコメディは難しいですよ。それに、日本じゃコメディ自体の評価が高くなくて多分、コメディで賞を獲ったのは渥美清さんぐらいでしょ。この間、中井貴一が三谷さんの映画で賞を獲ったけど。僕自身は、悪党をやるのが楽しいですね。去年久々に『赤い雪』という映画でヒドいオヤジをやらせてもらったけど、すごく面白かった。無欠の人間をやるぐらいツマらないことはないです。

世の中の自分に抱くイメージを裏切れない役者さんもいます、ファンを裏切っちゃいけないって。例えば、シンガーソングライター。もっと違う曲を作りたいんだけど、お客さんが求めているのはこういう曲だからとニーズに応えなきゃいけない人だっているでしょう。ただ、僕はそうではないのでラクですよ。僕には理想の人間像みたいなものもなければ、憧れの役者もあまりいないし。もちろん好きな役者はいるけど、それはスクリーンの上だけで観ときゃいいわけでね。その人とプライベートでも親しくなることで何か大きなものを掴めるんじゃないか、なんて勘違いをすると自分がイヤな思いをするのがオチなんです。

出典: FASHION BOX

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妻がいなかったら今の自分はなかった

――私生活では1993年に舞台女優と再婚し、3年後に寛一郎さんが誕生。彼も役者の道に進み、今や親子3代が俳優道を歩んでいる。佐藤さん自身、昨年は7本の映画に出演するなど多忙であったが、今年の最初の作品は映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)だ。今作は、日本の観測史上最大の地震となった東日本大震災の福島第一原発事故を描く物語で、佐藤さんは主役となる1・2号機当直長を演じている。震災から10年目を迎える今だからこそ、私たちはこの映画を通してもう一度東日本大震災と真摯に向き合わなければ、と思わせてくれる意欲作である。

この映画で何かを訴えたいわけじゃなくて、この映画を観て劇場を出た人たちがフッと灯りのついた街並みを見ていろんなことを考えてくれればいいんです。ノンフィクションではないけれども、あの震災を風化させないためにもこの映画をなるべく多くの方々に観てもらいたい。こういう映画があることで、10年前のことを一気に思い出すこともできるんですよね。本当に始まって5〜10分で10年前に戻れるというのは映画の強み、映画の力だと僕は思う。

ターニングポイントといえば、僕にとっては結婚も大きなターニングポイントでしたね。いろんな意味で彼女じゃなかったら今の自分はないかもしれないぐらい女房の存在は大きいです。例えば、僕が仕事を引きずって帰って来て女房にイヤな顔をされたときに「役者バカだからしょうがないんだよ」と言ったことがあるんです。そしたら、女房に「そんなのただのバカ役者でしょ」って言われて、「あ、お前のほうが正しいや」って(笑)。以来、家庭に仕事はほとんど持ち込まなくなりました。ただ、女房はこの仕事は大変で疲れているな、シンドインだろうなとわかってくれているから僕には気を遣ってくれています。

【Information】

映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)

出典: FASHION BOX
© 2020『Fukushima 50』製作委員会監督:若松節朗
脚本:前川洋一
出演:佐藤浩市、渡辺 謙、吉岡秀隆、安田成美
2020年3月6日(金)全国ロードショー
配給:松竹、KADOKAWA

2011年3月11日に東北地方を中心に発生した東日本大震災。想定外の大津波が、福島第一原子力発電所(イチエフ)の原子炉1・2号機を襲った。その当時、ニュースではすくい取れなかった原子炉の制御に奔走する現場作業員の姿を、事実をベースにフィクションとして映画化。

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【PROFILE】

佐藤浩市(さとう・こういち)さん

1960年生まれ、東京都出身。近年の出演作に『記憶にございません!』『楽園』(ともに2019年)など。『太陽は動かない』(2020年5月15日公開)、『騙し絵の牙』(2020年6月19日公開)、『サイレント・トーキョー』(2020年12月公開)が待機中。

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取材・文/大西展子
撮影/宅間國博
スタイリスト/喜多尾祥之
ヘア&メイク/田島沙智子(六本木美容室)
(MonoMaster 2020年4月号)WEB編集/FASHION BOX※ 画像・文章の無断転載はご遠慮ください【よく読まれている記事】
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