無断キャンセルされたら、泣き寝入りするしかない?

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 飲食店で食事を予約しながら、予約した日時になっても来店せず、連絡もしない「無断キャンセル」が社会問題化しています。例えば、2018年11月発表の経済産業省「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」では、日本全体で年間2000億円もの損害が出ていると推定していますが、無断キャンセルされた飲食店が損害賠償請求をしたという話はほとんど聞きません。

 実際、無断キャンセルをした人に法的なペナルティーを科すことはできないのでしょうか。グラディアトル法律事務所の北川雄士弁護士に聞きました。

損害賠償請求のコストに見合わない

Q.無断キャンセルで、飲食店に数百万円単位の損害が出ることもあるそうです。飲食店は無断キャンセルをした人に、損害賠償請求を行っているのでしょうか。

北川さん「予約が行われたとき、飲食店と予約者との間には、飲食店が一定の飲食物を提供し、予約者がその代金を支払うとの契約が成立しています。そのため、法的には、予約者が無断キャンセルで一方的に契約を破棄したことで飲食店に損害が出た場合、損害賠償請求が可能です。しかし、2つの事情により、現実には泣き寝入りをする飲食店も少なくありません。

第一に、どのような損害が生じたのかを証拠をつけて立証することに手間がかかり、無断キャンセルによる損害額の算定が難しいからです。さらに、食材を他の客に提供して利益を得たような場合にどこまでを損害とするのかなど、具体的な損害額の立証が困難な場合もあります。これは、事前にキャンセル料に関する規定を定めて明示するなど、無断キャンセルをしたときの請求額を事前に定めておくことで解決できます。

第二に、請求できる金額と、損害賠償請求をするためのコストが見合わないことが多いからです。多くの無断キャンセルの事案では、損害額が数万円以下ということが多く、裁判の手続きなどを行うための時間や労力に見合わないと判断されることが多いです」

Q.飲食店側が警察に、無断キャンセルで損害が出たという被害届を出せば、受理され、捜査が行われるのでしょうか。

北川さん「実際に警察が捜査を行うかは、具体的な事情に応じて捜査機関が判断することですが、現実的には捜査してもらうことは難しいのではないかと思います。無断キャンセルは、虚偽の予約によって飲食店の営業を妨害したとして偽計業務妨害罪(刑法233条)が成立し、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に問われる可能性があります。

しかし、損害賠償請求のような民事上の責任は『過失』、つまり、予約者側に落ち度があったと言うことができれば請求が認められるのですが、刑事上は『故意』、つまり、単に落ち度があったということを越えて意図的にやったと認定されなければ罪に問われないのです。そのため、『うっかりキャンセルを忘れていた』というだけでは、民事上の請求は成り立っても刑事上の罪を問われる可能性は低いです。

以上から、単に無断キャンセルをされたというだけでなく、同一日の同一時、同一系列店の複数店舗に予約を入れていたなど、業務妨害目的の虚偽の予約であったことが明白でないと、警察が捜査に動くことは難しいと思われます。

一方、飲食店を困らせようと、意図的に無断キャンセルをする明確な悪意が明らかに認められるのであれば、偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。“保険”のため複数の飲食店を予約し、正式な店が決まってもキャンセルを伝えるのが面倒くさいからといって、そのままにする場合も同様です」

Q.無断キャンセルは契約違反になることから、飲食店に生じた損害を賠償しなければならない可能性が高いです。モラル以前に、こうした法的なことを知らない人が増えていることも、無断キャンセルが減らない理由でしょうか。

北川さん「そもそも、予約や注文が成立すれば、法的に契約状態になることを知らない人は多いように感じます。そうした無断キャンセルに対する法的な、そして、社会的な意識の低さが、無断キャンセルが減らないことの一つの原因であるといえると思います。

そのため、無断キャンセルの法的な意味や、そのせいで他のお客さんを逃してしまう飲食店側の損害の大きさについての社会的な関心が高まり、理解が進めば、無断キャンセルを減らしていくことができると思います」