小野田龍之介 撮影/山田千絵

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「本当によくできたミュージカルだと思いますし、ミュージカル好きにとってはバイブルのような作品。小さいころからよくダンスをまねしていました」

【写真】笑顔が爽やかな小野田さんの全身ショットにドキッ!

 まだ20代とは思えないほど、ミュージカル俳優としての実力・キャリアが充実している小野田龍之介さん。

 そんな小野田さんが語っているのは、ブロードウェイ・ミュージカルの中でも傑作中の傑作と言われる『ウエスト・サイド・ストーリー』(以下『WSS』)。

若者たちの情緒や感情が音楽に表れている

 彼はいま、客席が360度回転する劇場、ステージアラウンド版『WSS』でジェット団のリーダー、リフ役(上山竜治さんとWキャスト)の稽古中。実は、小野田さんは3年前、劇団四季で上演された同作品でトニーを演じた経験がある。

「1度この作品の世界で生きたことは、僕の強みだと思います。作品についても、リフのことも、トニーの目で知ることができましたから。『WSS』はダンスのカッコよさはもちろん、音楽の豊かさがすごい。

 急にアップテンポになったりスローの静かな曲になったりするんですが、そこにはまだ精神状態が安定しきっていない若者たちの情緒や感情が表れているんです。

 ガッとストレスを抱えたり、落ち着いたりという心の揺れが、ダンスの振りともすごく密接に結びついています。これまでいろいろな演出で上演されてきても、振り付けは絶対に変わらないというのはすごいですよね! 

 前回のトニーでは激しく踊ることができなかったので、今回は“踊ってやるぞー”という気合は十分です(笑)」

ステージアラウンド版には反対派だった

 ステージアラウンド版ということで、特別な観劇体験ができそう。

「正直、これをステージアラウンドでやるって聞いたときは反対派だったんです。普通の舞台の上で、もう芸術性が高い名作として仕上がっているのに“何をそんな回す必要があるんだ?”と思って。

 でも、オリジナル・クリエイティブ(来日)版を見せてもらったら、そんなことを思っていた自分が恥ずかしくなりました。客席が360度回るという劇場の機構と、伝説的ミュージカルの空気感が、とても面白い形でリンクしていたんです! 

 映画でしか見られなかったマンハッタンの街並みと、舞台でしか感じられない若者たちの躍動感や人間ドラマが、スムーズなシーン転換のおかげでお互いを引き立て合っていて。“そうか、こういうことだったんだ!”と、すごく腑に落ちました」

 歌唱力の高さに定評のある小野田さんを“歌の人”と認識しているミュージカルファンは多いと思われるけれど、もともとはダンスがスタートだった。

「幼いころからダンスを始め、ディズニーランドのダンサーかNHKの“体操のお兄さん”になりたいと思っていました。ディズニーランドで踊って遊んでいたときダンススタジオの方から声をかけていただいて。それがデビューにつながったんです」

 9歳でミュージカルの舞台に立ち、子役から若手実力派に見事、転身。“歌の人”という認識は、『エリザベート』の作曲家、シルヴェスター・リーヴァイ主催のコンクールで賞をとってから。

 近年は『ミス・サイゴン』や『レ・ミゼラブル』などで安定した実力を誇るだけに自信に満ちたキャラかと思いきや、意外にも謙虚で、ちょっと怖がりな一面が顔を覗かせる。

すっごく不安で毎日、憂うつ

「よく言われるんですよ、“貫禄あるね”とか“緊張しないでしょ”って。なんでかな。本当の僕はすごくビビリだし、緊張しまくる人。誤解を恐れずに言っちゃうと、舞台に出るのが毎日、嫌です(笑)。

 もちろん充実しているし、3時間ぐらいの上演時間に自分じゃない役の人生を生きるって豊かな仕事だと思います。面白いし大好きなんですけど、恐怖でもあって。僕にとってはすごく勇気がいることなんです。

 ミュージカル大好きっていつも言っているから、“楽しいでしょう”とか“気持ちいいでしょう”って言われるけど、舞台の上で歌って気持ちいいなんて思ったことは1度もないです。

 それは、役として歌で物語を紡ぐことを心がけているので、歌を歌っているという気持ちではないからかな。カーテンコールなどでお客さんの充実した笑顔や拍手をいただけばすごく豊かな気持ちになるし、達成感というかホッとする気持ちはありますよ。

 でも毎日、舞台に立つのは怖いですね。舞台上で急に声が出なくなったらどうしようとか。何か起きたらどうしようとか、いろんなことを考えるんですよ。すっごく不安で毎日、憂うつ。好きなのにね。矛盾しているんです」

 小野田さんが怖さを感じるのは、きっと俳優という仕事への、観客への誠実さゆえ。怖さと戦いつつ、その瞳はしっかりと前を見据えている。

「いま20代後半にさしかかって思うのは、とても充実した10代20代だったな、ということ。すごくいろいろなジャンルで幅広い役をやらせていただけて、だから引き出しが増えて、成長できたと思うんです。

 これからも経験を無駄にせず、いろんなものと出会ったからこその深みを大切にして、いい感じで年をとっていきたい。

 自分が思っているより一歩先を進みたいんです。怖いと言わず、つねに冒険しながら、止まることなくガンガン攻めていきたいな、と思っています!」

(取材・文/若林ゆり)

『ウエスト・サイド・ストーリー』ステージアラウンド版 日本語上演バージョン Season1
 シェークスピアの悲劇『ロミオとジュリエット』に着想を得て、1950年代ニューヨークの移民たちに芽生えた禁断の恋を描く名作ミュージカル。
 ジェローム・ロビンス(原案・初演時演出・振り付け)、レナード・バーンスタイン(音楽)、スティーブン・ソンドハイム(作詞)という超一流クリエイターが作りだした名作中の名作を、客席が360度回転するIHIステージアラウンド東京に合わせて新演出。
 来日カンパニーによるオリジナル・クリエイティブ版は10月27日まで上演、その後、日本語版が3シーズンにわたりロングラン上演される。Season1は2019年11月6日〜2020年1月13日 IHIステージアラウンド東京(豊洲)にて上演。
 お問い合わせ:ステージアラウンド専用ダイヤル 電話 0570-084-617 
詳しい情報は公式HP(https://www.tbs.co.jp/stagearound/wss360_1/)

●PROFILE● おのだ・りゅうのすけ。1991年7月12日、神奈川県生まれ。
幼少時からダンスを始め、9歳でミュージカルデビュー。'11年、シルヴェスター・リーヴァイ国際ミュージカル歌唱コンサート・コンクールで〈リーヴァイ特別賞〉を受賞。近年は、劇団四季『ウエスト・サイド物語』トニー、『ミス・サイゴン』クリス、『ラブ・ネバー・ダイ』ラウル、『レ・ミゼラブル』アンジョルラスなど大役を務める。'20年には『ミス・サイゴン』のクリス役に再挑戦。