ジャニーズ事務所の創設者であるジャニー喜多川氏が亡くなり執り行われた葬儀を「家族葬」と、メディアで伝えていました。そもそも「家族葬」の定義とは?(写真:AFP=時事)

大手芸能事務所・ジャニーズ事務所の創設者であるジャニー喜多川氏の葬儀が7月12日に都内で執り行われました。葬儀業界で働く身として、ジャニーズ事務所が「代表取締役社長ジャニー喜多川 家族葬に関するご報告」と題した訃報を発表し、多くのメディアが「家族葬」とカッコ付きで見出しを強調していたのが印象的でした。

報道によれば、150人の参加者すべてがジャニーズ事務所のタレントだったようです。血縁関係のない参列者が150人もいたら、それはもはや家族葬ではないだろうとも言いたくなります。ですが、それでも家族葬という言葉をジャニーズ事務所が使った理由は、ジャニー喜多川氏と所属タレントたちの「家族のような密接な関係」を強調したかったためでしょう。

「家族葬」という言葉に定義はない

なので、今回の「家族葬」という言い方は誤用だと言いたいところなのですが、実は家族葬という言葉には厳密な定義はありません。定義は葬儀会社ごとにバラバラで、私の場合は「血縁者を中心とした小規模な葬儀」とお客さんに説明しています。

これまで定義が曖昧なままで済んだ理由は、葬儀会社が参列者の属性を気にしていないからでした。葬儀会社にとって必要な情報は、「葬儀の参列者人数」ですし、属性ごとに対応を変える必要もありません。

そもそも家族葬という言葉が使われ始めたのは最近のことです。由来は諸説ありますが、かつて身内での葬儀を意味する「密葬」という言葉がありました。

しかし、密葬では消費者に伝わりづらいと考えたある葬儀会社が1990年代に家族葬という言葉を使い始め、それが葬儀の小規模化の風潮とマッチして一気に広まったと言われています。こうして家族葬は「小規模で安価な葬儀」として今日まで認知されてきたわけです。

なので、家族葬を選ぶ人の多くが、「費用負担が少ないから」という理由で選んでいます。ですが実は家族葬を選ぼうが、一般葬を選ぼうが、遺族の費用の負担差はほとんどありません。

確かに参列者が多くなるほど、お返しものや料理、香典返しの出費がかさみます。一方で、受け取る香典の金額も増えるので、参列者が増えたことによる出費は香典収入で相殺できるのです。

こうした誤解はなぜ生まれたのか。それは家族葬が生まれた約20年前と、現在の葬儀を取り巻く状況がかなり変わってしまったためです。

当時は200人以上が参列するという大規模な葬儀も珍しくなく、大きな式場を借りるため式場の使用料や祭壇費用も高額でした。しかし、ご近所や会社関係のコミュニティーが小さくなってしまった現在では、無制限に人を呼んだとしても都市部では参列者が100人を超えることはまれで、通常の葬儀を行ったとしても費用負担は大きくなりません。

家族葬という言葉が独り歩きしたせいか、最近は家族葬の現場で「付き合いの薄い血縁者であっても葬儀に呼ぶ一方、仲のよい友人の参列を排除する」といった弊害まで起きています。恩師や親友の訃報を受けて焼香に参加しようと思ったら、遺族から「家族葬なので」と断られて、残念な思いをした人もいるのではないでしょうか。

家族葬という言葉にとらわれなくていい

数年前、私はある90歳の女性の葬儀のディレクションを担当しました。その葬儀では参列者が150人くらいで、葬儀の小規模化が進む都市部にしてはややにぎやかではあるものの、一見普通の葬儀でした。故人の家族、血縁者が誰もいなかったことを除いては。

故人はずっと高校で教鞭をとっており、晩年は認知症を発症していました。いわゆる「おひとりさま」だったのですが、教え子で弁護士になった方が後見人と喪主を務め、葬儀にはたくさんの元生徒が集まりました。

葬儀でとくに重要なのは、「故人を慕う人たちが感謝と愛情を持って見送れること」です。たくさんの人を招いたり、血縁の有無で参列者を分けたりすることは重要ではありません。

明確な定義がないまま家族葬という言葉だけが定着してしまった以上、今回のジャニー喜多川氏の「家族葬」がスタンダードとして世間に認知され、家族葬の主流になってくれればいいと思います。