拒絶されているグループホーム。窓はブラックミラーのため、中の様子をうかがうことはできない

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 豪華な邸宅が目立つセレブタウンの一角に、知的障がい者らが暮らす施設が認可・建設された。入居前の施設周辺には「子どもの安全を守れ」と幟がはためき、反対運動は収束しそうもない。住民は「運営会社への不信感がある」と言い、住民説明会にはあの俳優の姿も……。

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 言い分は真っ向から対立し、解決の糸口が見えない。

 住民バトルの舞台になっているのは、横浜市都筑区に開設予定の知的障がい者や精神障がい者の少人数グループホーム。運営会社『モアナケア』側の説明不足に不信感を募らせている地域住民が、反対運動を繰り広げている。

 運営会社と入居予定者の家族は5月24日、横浜市に紛争解決を申し立てた。『障害者差別解消法』(2016年施行)を基に作られた市の条例による手続きで、このような申し立ては全国初という。

 反対派が地域に配った文書には《事前説明会は法律で義務づけられていないようだが、ほとんどの事業者は建設前に説明会を開催し、住民から理解を得たうえで建設、運営を開始》などと記されている。

 対する運営会社の弁護士は、

「施設に対して説明を求める発想が差別です。“建てる前に説明しろ”と言いますが、それはすべきでないことです」

 と指摘する。さらに、

「いろいろな理由をつけて反対、反対と言います。決して“差別している”“偏見がある”とは言いませんが、(反対運動を)行っていることが差別なんです」

 と迫りながら、

「第1の責任は行政にあります。自治体が責任を持ち住民に対し、啓蒙啓発、協力態勢を作る必要があります。障がいのある人が地域で普通に暮らせるように差別はいけないという視点で方向性を示し、リードしてもらいたい」

 と横浜市に注文する。

 昨年9月に建物の建設に着工した後、住民は説明会を要求。自治会や行政を間に挟むなどして、昨年12月、今年1月、2月の計3回実施した。そこでの運営会社の対応が、住民側の態度を硬化させた。

「私たちの地域には障がい者も暮らしていますし、差別や偏見はありません。福祉や障がいについて地域で勉強もしています。問題にしているのはこの運営会社です」

 そう指摘する古参住民は、説明会の際の横暴な対応にあきれ果てたという。

「運営会社の社長から“こっちはいいことやっているんだ! お前らボランティアしろ!”と怒鳴られ“差別だ!”と威圧されました」

 と不快そうに振り返り、

「『外で肩を叩いてくるかもしれません』とか『事件事故が起きないとは100%約束できない』『施設の外で何か起こったら当事者同士で解決してくれ』など、住民の不安をあおる発言をするんです」

 同じ説明会に参加した60代の男性も、「社長が声を荒らげ、障がい者が近隣の家に入っても責任は取れない、と言い切るなど横柄だった」と上から目線の物言いに嫌悪感を抱いたという。そして、

「あくまで事業者の説明が不足していることが問題。この事業者には撤退してほしい」と付け加える。地域の一員として住民とうまくやれる事業者であれば歓迎するという意見は、多くの住民が口にした。要するに“ノー・モアナケア”ということだ。

 前出の運営側弁護士も、

「ボタンの掛け違い、売り言葉に買い言葉、そんなところもあったと思います。施設自体が反対されているので、防衛的に対応したことがあったかもしれません」

地元住民のリアルな声

 一帯は閑静な住宅地で、グループホームから徒歩1〜2分圏内に幼稚園、小学校、中学校が隣接し、約2000人の子どもたちが通園・通学している。そのため反対派住民が立てている幟には、「子どもたちの安全を守れ」という不安も書かれている。

 近隣に住む40代女性は、

「外出中に付き添いもなく、入居される障がい者のレベルがわからないことが不安です」

 と本音を明かす。

「突然、奇声を上げられたり夜道で出てこられたらびっくりするかも」(30代主婦)

 小学生の子どもを持つ40代女性は、

「子どもは学校終わりに習い事もあるので、帰宅途中が本当に心配です。過去に子どもが障がい者にいたずらされたという経験があるので……」

 その一方で、「障がい者の行き場がなくなるので反対運動は間違っている」(80代女性)、「管理がしっかりしていれば問題ない」(20代主婦)、「障がい者との交流は子どもたちにも勉強になる」(60代男性)という賛成の声もある。

 施設は新築2階建ての戸建てで、1階2階にそれぞれ5室ずつ居室があり、最大10人が暮らせる。スタッフは24時間常駐するが、外出時に付き添いはない。許可が下りればもう1棟建て、さらに10人を受け入れる計画で、同市内で最大規模だという。

 地域には、「おしどり夫婦」として知られている俳優の渡辺裕之(63)・原日出子(59)夫妻一家も居住している。

「住民説明会には渡辺さんの姿がありました。3回ともすべて出席されていて、ビデオカメラを回していることもありました」(出席者)

 住民バトルに巻き込まれた形だが、関心の高さがうかがえる。自宅のインターホン越しに渡辺は、実に申し訳なさそうな口調で応じてくれた。

「私も実のところ、事情がよくわかってないんですよ。(賛否を)お話しできる立場にはありません。みなさんが決定したことに任せています」

 今年3月、横浜市に提出された約700筆の反対署名に、渡辺夫妻のものが含まれていたかどうかは不明だ。

 説明会は3月以降開かれることなく、市による紛争解決の相談対応と斡旋に、問題解決はゆだねられている。

 訪問介護で実績を積み、今回初めて障がい者施設の運営に乗り出す『モアナケア』の社長は、入居予定者について、

「通院し、自分のことは自分でできる人です。基本的には自立し、仕事などにも行ける方です。介護や特別な支援が必要な方ではありません」

 と説明したうえで、反対する住民の要求について、

「障がいを公にするのは個人のプライバシーにもあたります。入居者にとって、ここは自宅です。家の中を見せますか? 住人の事情を伝えますか? 障がい者だからとそれを求めるのは差別です」

 と不快感を示す。さらに、

「説明会では“コミュニティーが壊れる”“地価が下がる”“ワケあり物件になる”という声も上がりました。一方で理解を示してくれた人もいました。長い時間をかけて理解してもらうしかないと思っています。一緒に地域の掃除をしたり、行事に参加するなどして地域とも連携をとっていきたいと考えています」

 と幸せな決着を希望し、

「撤退はありません」

 と力強く断言した。

 反対派の「事業運営者の撤退がゴールだ」(60代男性)という主張とは温度差がある。

 前出・弁護士は、

「まずは旗(反対運動の幟)を降ろしてもらいたいです。刺激的な言動は障がい者の負担になります。地域で一緒に生活し実際の姿を見て、理解をしてもらいたい」

 横浜市の担当者は、

「斡旋などの期日は決まっていません。両者がひざを突き合わせて対話し、歩み寄れる方向に導きたい」

 と述べるにとどまった。

 運営会社にも地域住民にも新住民の障がい者にも幸せな結末を迎えるには相互理解と許容する心が不可欠だ。