アメリカ政府の禁輸措置に揺れるファーウェイ(撮影:梅谷秀司)

ファーウェイ問題の余波が止まらない。

アメリカ商務省は5月16日、中国の通信機器最大手のファーウェイを輸出管理規則に基づく禁輸措置対象のリストに入れた。アメリカ企業はファーウェイとの取引が実質的に禁止された。アメリカ企業の製品や技術が25%以上含まれている場合、日本企業の製品であってもファーウェイに出荷することが事実上できなくなる。

消費者にも影響が波及しそうだ。5月24日にはネット通販大手のアマゾンジャパンがファーウェイ製品の販売を停止した。グーグルが提供するスマートフォンのOS(オペレーティングシステム)「アンドロイド」のソフトウェアがファーウェイ製品では使用できなくなる可能性が高まりつつある。ファーウェイは独自のOS開発を加速させる方針だ。

【2019年5月25日9時37分注記】初出時の記事で「OS(オペレーションシステム)」としていましたが、表記のように修正いたします。

「ファーウェイ対応」で分かれる家電量販店

OSが使えなくなる懸念などもあり、日本ではドコモ、au、ソフトバンクの3大キャリアがファーウェイ製品の販売を中止した。都内の携帯電話販売店は「お客様にご迷惑をおかけする製品は販売できない」と3大キャリアの決定を歓迎する。

一方、家電量販店の対応は分かれている。ビックカメラとヨドバシカメラはファーウェイ製品の取り扱いを続けている一方で、最大手のヤマダ電機やケーズホールディングスは24日に販売予定だったファーウェイの最新スマホ「P30」の取り扱いを中止。既存製品の販売は続けているが、新たに入荷をし続けるかどうか不透明だ。

エディオンやノジマも「P30」を含めて全ファーウェイ商品の取り扱いを中止した。ノジマは子会社に携帯電話販売大手のITXを抱えており、ITXが契約しているドコモなどの大手キャリアが取り扱いをやめたことも判断に影響したとみられる。

対応が各社で分かれていることについて、大手家電量販店の役員は「ファーウェイから入るリベート(報奨金)が影響しているのではないか」と打ち明ける。家電量販店は通常、製品の入荷や販売実績に応じてメーカーからリベートを受け取っている。メーカーが重点的に力を入れたい製品には多額のリベートが家電量販側に入ることもある。


2018年に発売されたファーウェイの廉価版スマホ(撮影:今祥雄)

iPhoneが圧倒的強さをもつ日本市場に食い込むため、ファーウェイは販売チャネルの構築に多大な費用を投下している。都内の家電量販店では専用の販売エリアを設けるなどブランドイメージの構築を図ってきた。「一時は他メーカーより(リベートが)数割高く、人通りが多い都市型店舗の目立つところに陳列するだけでもリベートをもらえた」(元家電量販幹部)。

その結果、携帯キャリアを選ばない「SIMフリー」スマホの販売でファーウェイは日本1位の座を手に入れた。

ファーウェイが売れなくても「痛くない」

ただ、「各社とも消費者に買われない製品をいつまでも置くことはないだろう」(先の大手家電量販役員)というように、消費者がファーウェイ製品を敬遠すればいずれ取り扱いはなくなるとみられる。「iPhoneが売れなくなるなら痛いが、ファーウェイならかゆいくらい」(都内の家電量販店店長)との本音も聞こえる。

一方で日本の電子部品メーカーの業績への懸念が高まっている。ファーウェイはスマホに搭載されるカメラやセンサー、電池などの各種電子部品を日本企業から調達している。ファーウェイショックが嫌気され、村田製作所やTDK、太陽誘電、ヒロセ電機などの株価は下落し続けている。

TDKと太陽誘電は日本の電子部品メーカーのなかでもファーウェイへの売り上げ依存度が高いとされる。関係者によると、売上高全体に占めるファーウェイ向けの割合は6〜8%強。現時点ではファーウェイからの発注は止まっておらず、供給を続ける見込みだ。

今回の禁輸措置により、一定水準以上のアメリカの技術が使われている製品は受注の有無を問わず、事実上ファーウェイに出荷できない。大手電子部品会社の大半は「3カ月前からファーウェイに対する規制が始まるとみていたので、対象製品の精査は済んでいる」(大手電子部品複数社の幹部)。実際、該当する製品はTDK、太陽誘電ともわずかだという。

TDKはアメリカのセンサー設計開発企業インベンセンスなどを子会社に持ち、一部センサーなどが規制の対象とみられる。同社関係者は「ファーウェイ向けに出している中の十数%の規模もない」と、影響は小さいと強調する。太陽誘電も、売り上げの大半は電圧調整を担うコンデンサーという電子部品で、日本が技術的に世界をリードしている部品でもある。アメリカの技術割合が低いことは確かだ。

積層セラミックコンデンサーで世界トップシェアを誇る村田製作所も、ファーウェイ向けは売り上げ全体の4%前後とみられる。iPhoneのカメラなどにも搭載されているアクチュエーターを製造するアルプスアルパインはファーウェイとの取引額は同じく0.5%程度にとどまる。

市場全体での部品供給は減らない

イギリスの半導体設計会社・アームがファーウェイ向けの技術供与を停止し、ファーウェイ製スマホに搭載する半導体が調達困難になるとの報道が広がった。日本が強みを持つ半導体製造装置メーカーの株価も下落したが、今回のファーウェイ騒動がすぐに業績に影響するとの見方は少ない。

例えば、東京エレクトロンは、アメリカ商務省が禁輸措置対象のリストに加えた69社の一部とかつて取引があったが、取引は現在ないという。

電子部品各社が「影響はない」と口をそろえるのは、「スマホや通信基地局の市場でファーウェイのシェアが落ちても、ほかのメーカーへの部品供給が増える」ことが期待できるからだ。日系の電子部品メーカーはアメリカのアップルや韓国のサムスンとも取引がある。ファーウェイのシェアが落ちても、消費者はほかのメーカー製のスマホを購入するため、市場全体としての部品供給は減らないとの見方だ。実際、一部の電子部品会社の幹部は「韓国系スマホメーカーから増産の可能性が高まっていると聞いている」と明かす。

一方、日本の多くの電子部品メーカーにとって最大の顧客はアップルで、「iPhoneは価格帯やOSなどファーウェイと異なる点が多く、(日系部品メーカーにとって)あまりプラスにならない」(大手電子部品会社幹部)との声もある。

今回のファーウェイショックによって、日本企業には一時的に影響が出るだろう。ただ、部品メーカーとしてさまざまな顧客に部品を販売しているのが日本メーカーの強み。現時点ではファーウェイが日本に及ぼす直接的なインパクトは大きくないと言えそうだ。