消費増税「3度目の凍結」はあるのか、萩生田発言の “火消し” が逆に怪しい
安倍首相には、前例がある。
2014年には消費増税延期を掲げ衆議院を解散し、大勝した。'16年にも“世界経済のリスク”を理由に再延期。直後の参院選で勝利を収めた。
2度の前例は、安倍首相の成功体験につながっている。
増税するべきという意見
さて3度目の今秋、予定どおり消費税は8%から10%へ引き上げられるのか。ひょっとすると3度目の延期もある? それを示唆したのが自民党の萩生田光一幹事長代行が4月18日、インターネット番組『真相深入り!虎ノ門ニュース』での踏み込んだ発言だ。
消費増税について、「景気が腰折れすればなんのための増税なのか、与党としてよく見ながら対応したい」「(増税ではない)違う展開はある」などと、後日“個人的見解”と火消しに追い込まれる発言を繰り出した。
ジャーナリストの大谷昭宏氏は“様子見発言”ととらえ、
「どこまで安倍首相の承諾を取ったかわかりませんが、少なくとも安倍首相と萩生田氏の間で小知恵を絞ったことは確か」
と舞台裏を解読。続けて、
「日本の財政状況からみて、これ以上、消費増税を先送りすることは、できっこないわけです。アベノミクスは失敗したけれど、日本の将来、令和の時代を考えると上げざるをえないんです。そう正直に言って、国民に信を問うべきであって、増税を引っ込めておいて“解散総選挙で当選させてちょうだいよ”という手口はもう許されるものではない。国賊的なやり方」
と政治手法を切り捨てる。
昭和女子大学グローバルビジネス学部長の八代尚宏教授は、菅義偉官房長官が「リーマン・ショック級でない限りやる」と言っていることを踏まえ、
「“延期する”と言えば、日本政府の信頼性が落ちてしまう。そちらのほうが経済的にはマイナスと考えています」
と主張。消費増税対策で、ポイント還元や国土強靭化基本計画などを織り込んだ一般会計予算が100兆円の大台に初めて乗ったことを重視し、
「これだけのことをして消費税を上げられなかったではすまない。海外からの信頼性も落ちます。今回は上げるべき」
と、財政再建に取り組む政府の姿を発信できる機会を自ら葬ってはいけないと訴える。
増税は延期という意見
経済アナリストの森永卓郎氏は、
「8割がた延期、ほぼ延期で決まったと思います」
と“萩生田発言”を受け止め、納得の表情。首相側近の言葉には、“増税延期に向けての布石”と、観測気球以上の意味があったと推測する。
「安倍首相や菅官房長官は、リーマン・ショック級の経済危機であれば延期と言い続けていますけれども、実は国際通貨基金(IMF)の経済見通しが、ここのところずっと下方修正されてきています。
直近の見通しだと今年の世界経済の成長率は3・3%。リーマン・ショックの翌年から5年間の景気低迷期の世界の経済成長率も3・3%でした。つまり、世界経済はすでにリーマン・ショック級の危機になっているということです」
としたうえで、
「まったくもって正しい。そうなるだろうし、そうしなければ日本経済は沈没するということです」
と、増税延期を決断するであろう安倍首相を大絶賛。もし増税に踏み切れば万事休す。
「その瞬間に沈没は起きます。1997年に橋本内閣が税率を3%から5%にした後、15年間のデフレになりました」
と、苦い経験を例に出す。
4月上旬、米経済紙のウォール・ストリート・ジャーナルは、社説で《安倍晋三首相は年内に消費税率を引き上げ、景気を悪化させると固く心に決めているように見えるのだ》と、皮肉ってみせた。
果たして、どうなる消費税
さらにトランプ政権が、4月中旬に行われた日米貿易交渉の席上で、消費税の輸出戻し税を“輸出補助金”と指摘したことも、“増税待った”の背中を押すのではとみられている。どんなことにしろ、アメリカの圧に弱い日本だ。
前出・森永氏は、
「連休に入ってから、安倍首相は麻生財務相を私邸に呼んで、2時間も会談している。増税は財務省の悲願なので、それをどういうふうに抑え込むかというのを2時間かけて打ち合わせたと考えます」
と分析。延期発表日程についても織り込みずみで、
「(通常国会の)会期末が6月26日なんですが、延長するかもしれない。そうなると7月第1週になる可能性が高いかもしれない。そこで延期を発表して、衆参ダブル選挙が7月末になると思います」
萩生田氏が延期の理由として言及したのが、日銀の短観(全国企業短期経済観測調査)。約1万社に、3か月ごとに景況感を尋ねるもので、6月の短観はちょうど7月1日に発表される。タイミングはどんぴしゃりだ。
しかし、“萩生田発言”を、世論はあまり歓迎しなかった。
「消費税を上げるべきか、上げないべきかというのは誤った選択肢。消費税を上げるか社会保障をカットするかを議論するのが本来の政治です。高齢化が進み社会保障の支出が増え、放置しておけば財政が改善される見込みはない。国の借金にもどこかで限度がある。そうなれば社会保障が大幅に削減される。国民の将来リスクを無視して、目先の延期のことしか考えない」
と前出・八代教授は、国民に正対しない政治、長期的にものを見ない議論を皮肉る。
沈静化された“萩生田発言”が、首相周辺でまだくすぶっているのか。「3度目の凍結」決断が迫る。